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002

 説明が必要だと思う。

 わたしとエンミ。

 それから追っ手のこととか。


 普通,こういうことは事態が進むにつれて明かされるようなことなのだろう。しかし,そういうわけにはいかない。事態はこれ以上進まないのだから,わたしは,現状を説明しなければならないのだ。


 この物語はわたしとエンミの日常を淡々と描いたハートフル日常百合百合コメディーであり,血みどろホラーも,爽快な解決も,豪快アクションも,地に足付かないファンタジーも,何もないのだ。

 だから,過度な期待をしないで頂きたい。

 わたしがエンミを頂きたいだけの物語である。

 頂きたい。戴きたい。いただきたい。


「結局,説明するのであれば,一番最初。わたしのことからが良いのかな」

「エンミは別に,どこから説明されても知っているし」


 エンミは無愛想に応える。しかし,無愛想はエンミのデフォルトであり,今が特別不機嫌だとか,そういうわけではない。


「まぁ,いいじゃない? わたしとエンミのハートフルな日常系ラブコメを描き上げるためにも,一個一個お浚いしないと」

「はぁ……」


 エンミはそれっきり,布団の中へ潜っていった。

 わたしはそれを気にせず,独り呟く。


「出会いが3月21日――春分の日だったのは覚えている。忘れるはずもないけれど。それは確実,確かだった」

「ねぇ,そんなところから振り返るの?」


 今日のエンミはわがままお姫様スタイルだ。口調は月の満ち欠けのように変化している。それも忘れてはならない。思考スペックは基本的に変わらないのだけれど,口調に合わせた設定上,ちょっとアホっぽい時もある。


「当然。……それで,あの日,わたしは転校して早々,エンミに出会った」


 出会った。

 出くわした――くらいが本当は正しい表現なのだが,イメージ的には出会ったとしておくほうがロマンチックでいいだろう。わたしはそう判断して,続ける。


「エンミはとてもむずかしい感じの娘」

「モテギほどじゃない」


 モテギというわたしの名前の呼び方も今日は違う。

 デフォルト――男っぽい(けれど一人称が「アタシ」の)エンミはわたしのことを「モテギちゃん」と呼ぶ。今日のエンミは「モテギ」――しかもアクセントが「モ」に付いている。

 ちょっとレアなエンミだ。


「で,わたしがエンミを見たとき,エンミは驚いた顔をしていた」

「そんなこと,ないと思う」


 実際,エンミは無愛想な表情だったけれど,それは物語の都合上,変更させていただく。


「わたしは,そんなエンミに驚いて,自己紹介のとき,名前で噛んだ」

「そうね。確か『ふぁあたすぃは,ももももももてぎ――』って言った」

「そこまで噛んでないよ」

「いいや,一体どんな感じなのか,そのときエンミ,考えたもの」


 桃々藻茂木とかになるのだろうか。そんな名前はさすがに嫌だ。それにわたしは下の名前が嫌いだから,苗字しか言っていない。苗字だけで桃々藻茂木だったら,テストの時も大変だし,印鑑はまず作れないだろう。


「とにかく,わたしは自己紹介をして,すごく笑われた。それが不幸だ――って思ってたら,エンミと眼が合った」

「それは正しいけれど,そうなると前後の辻褄が合わなくなるわ」


 あぁ,確かに。

 自己紹介前に,驚いたエンミの描写を入れてしまうと,辻褄が合わない。


「じゃあ,ずっと見つめ合っていたということにしましょう」

「目を合わしたまんま自己紹介していたっていうこと?」


 それはあまりにも可怪しい,とエンミが言った。


「うーん。仕方ない。驚いた表情のシーンを削りましょう」

「あたり前でしょう? そんなシーンを入れてしまうと,キャラ付けから狂ってしまうし」

「――それで,その後ね」


 物語をつらつらと書き連ねる。

 それがどこからどこまで真実なのかは,きっとわたしが判断すべきことじゃない。

 誰かが,勝手に判断することだろう。

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