それじゃ、始めよう
なにもかも真実さ。
これまでにあらゆる人間の考えたなにもかもが、真実なんだ。
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」より
俺の通っている学校で、最近、真しやかに囁かれる『猫子供』という都市伝説がある。
フードに猫耳の付いたのパーカーを着て、猫のお面を被った子供が、路地からオイデオイデをする。で、思わずその誘いに付いていくと路地が迷路のようになってしまい、帰ってこれなくなってしまうという、たわいの無い話。
だが、しかし、待って欲しい。
帰ってこれなくなるんなら、その話はいったい誰が誰から聞いた話なのだ?
俺、こと和泉昶、男子高校生1年は、以上のような理由から、この都市伝説において、完全に否定派であった。
いや、誤解を招かないようにお断りしておくならば、これに限らず都市伝説全般において俺は否定派という立場を取っていた。
にも関わらず、インターネット上の複数のオカルトサイトに顔を出したり、たまにそれらサイトのオフ会で廃屋回りをしたりする事を日課としていたのは、じつは、否定する材料を探し回っているといった、意地の悪い趣味からだと告白する。
そんなことをしてどんな得があるのかと言えば、得になることは全くないが、残念ながら損になることも全くなかったから放って置いてほしい。
そもそも、オカルトサイト的な所に顔を出す輩は、オカルト的なことがあるか無いかなんてわからないけど、あるという体で楽しもうという人種の集まりだと思っているので、俺の否定的行動とは幾ばくかの要素に共通する根源があると解釈しているが如何なものだろうか?
つまり皮肉なことに、『そう言った物』を信じる者も、信じない者も、己の好奇心を満たすためには、オカルト……都市伝説に関わりを持たざるを得ないと言う事だったりする。
そんな俺は、最近、ちょっとばかり悩みを抱え込んでいた。
何故、俺が冒頭においていきなり『猫子供』の話を始め、自分の趣味の悪い趣向の話を始めたかと言えば、俺の困惑の原因がその『猫子供』がらみであり、はっきりいって、はっきり言えない私の気持ちを察して貰うにはその辺の告白をしておいた方が良いだろうと考えた上での事なのだ。
取り敢えずその上で、事の顛末を語るには、まず、亜々子さんの話をすることから始めなければならない。
だから、まずは亜々子さんと俺が出会った話から本編を始めたいと思う。