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8 奄美剣星 著  雑踏&妖怪 『隻眼の兎の憂鬱』

【隻眼の兎の憂鬱/概要】

 異時空を支配せんと目論む魔界王子麾下の魔界衆たちは、時空を自在に移動する潜在能力を秘めた女子高生・有栖川ミカを奪取すべく、果敢に同家にアタックしていた。彼女を密かに警護していた時空警察の隻眼の兎ギルガメッシュとサーベルタイガー・エンキドウの二人に加えて、織田信長・森蘭丸・アドルフヒトラー・山下清画伯といった食客四人衆が加わる。ところが、魔界執事ザンギスのきまぐれな魔法で、有栖川一門と魔界衆は異世界に飛ばされてしまう。

 異世界カアラ大陸には、北のジーン侯国と、南のファア王国という二大国が存在していた。両者は犬猿の仲で戦争が絶えない。ファア王国は、偉大な先君が亡くなり、存亡の危機に立っていた。だがジーン侯国は、黙って見逃すほど人は良くない。圧倒的な兵力をもつ侯国の軍勢は王国に侵攻し、包囲陣形を敷き、迎撃にでた王国軍を殲滅せんとしていた。

 そんな戦場のどまんなかに、有栖川家が屋敷ごと、どてんと姿をあらわした。全滅しかけていた王国軍が有栖川家に逃げ込んだ。有栖川一門は王国側につき、しかもミカが特異点能力(魔法ともいう)を生かして、屋敷の周囲に城壁を築いてしまった。信長たち食客四人衆はこれを有栖川砦と呼んだ。

 しかしそこで転機が起る。戦争の元になった図書館遺跡があるというのだ。探検に行った有栖川家一門食客は、異世界へと飛ばされ、ミカは魔界王子に囚われてしまう。彼女を救ったのは魔界衆と手を組んだはずのジーン侯国の将領ハーン元帥だった。律儀な彼はミカを砦まで届けさせた。その途中、魔界王子の家臣であるシモーヌに襲撃され、さらに、白い戦象に乗った伶人に救助された。

異世界を舞台に、時空の覇権を狙う魔界衆と時空警察の戦いは果てしなく続く。


  ⇒ここまでのお話は、下記URLでまとめてご覧いただけます。

    シリーズ http://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/322198/

     

   雑踏


怪獣と化した敵・魔界執事ザンギスに対抗して巨大化したのは剣歯虎サーベルタイガーである。双方の身長は見上げると50メートルはあろうかと思われる。

半人半蛇の恰好をしたザンギスは、相変わらず、蛇の尻尾で地面をバンバン叩いていた。その尻尾が、突然、方向を変え鞭となり、剣歯虎・ギルガメッシュに叩きつけられてくる。

 するとギルガメッシュは上体をブリッジのようにそり曲げ、両脚をその尻尾に挟みこんだ。

 めらめら炎ゆれるザンギスの肩に乗っている魔族が二人いた。魔界王子ダリウスと黒衣の貴紳・シモーヌである。先ほど、時空警察のサイドカー仕様KATANAがヘリの形状にフォーメンションを変え消火剤を、炎幕を張っていたザンギスにまいて鎮火した。その消火剤のため二人は泡まみれになっている。

 魔界王子ダリウス・白タキシード蝶ネクタイの青年が、「なに!」っと、上ずった声をだした。

 黒衣の貴紳は、そのあたり冷静で、

「時空警察の手の内を探るチャンスだな」

 といって剣歯虎の動きを冷静にみていた。

     ☆

 多時空浮遊都市ニコラス。ここにはきわめて雑多な種族が集まってくる人口1000万からなるメトロポリスであった。大小建造物の群れが、直径30キロの球状化した町はさながら惑星だ。

 浮遊するのは都市ばかりではない。鉄道やバス・タクシーに類した乗り物が、球体の内外を縦横無尽に巡らした軌道を走り抜けてゆく。

 ニコラスを惑星とすれば、その周りを巡っている月のような小天体がある。直径1キロからなる球体。それが時空警察本部・オービスだ。警察庁各部署・警察学校・監獄がついていてちょっとした町になっている。ニコラスとオービスとは、長さ5キロからなる軌道エレベータにより連結されている。 軌道エレベーターというのも、一種の高層タワーで、内部を走るエレベーターは実のことを言うと、列車というか、地下鉄に近い感覚だ。そこの駅・ホームだ。

「じゃ、いってくる」

 先輩警察官が、敬礼して、エンキドウを迎えていた。

 常時数百人の関係者がこの「列車」を利用する。ざわめく乗り場・「駅」で見送ってくれたのは、若い娘だ。剣歯虎の恋人は、なんと虎じゃなくて、間タイプの種族だったのだ。長い髪で赤毛をボブにして小柄で華奢な体躯をしていた。アラビアンナイトにでてくるようなだぶついたパンツを履いていた。

「やっぱりいくの?」

「ガキの頃からの夢だったんだ」

「私をおいても時空警察本部オービスにゆくの?」

「俺の心にはいつも君がいる」

「バカ」

「あばよ!」

 エンキドウが手を振ったときエレベーターの扉が閉まった。恋人が彼をみた最後だった。それから何年経っただろう。いな、オービスゆきを志願した段階で時間という概念は意味を失う。

 警察学校では、無重力空間、水中、ありとあらゆる状況を想定した戦闘訓練をみっちりと仕込まれた。しかし身体を巨大化させる特技を持っているのは時空警察隊員の中では剣歯虎族しかいない。地下の専用道場ジムで、彼は同族の教官や先輩たちからしごかれ巨大化して、どのように戦うかを学んだのだ。

 鬼教官の鋭い牙での咬みつき、爪をたてた破壊力のあるパンチ……。しごきというにはハード過ぎるカリキュラムで、大けがをすることもあった。

 気分転換は、オートバイ講習。多時空を越えてゆくことができる。

 講習期間があけて、いくつかの部署を周り、そして相棒になる隻眼の兎・ギルガメッシュに出会ったのだ。任務は多時空不正移動を行う犯罪者の逮捕。そして有栖川ミカのような時空の迷子の保護だ。

 いくつものミッションをギルガメッシュとともにこなし彼は、一人前の剣歯虎・時空警察官になった。

     ☆

 格闘すること三分弱。残り数分となったときだ。

 体力を消耗した怪獣化の魔界執事ザンギスが、最後の力を振り絞ってくらわせようとした尻尾の一撃をかわす。そして剣歯虎エンキドウは必殺技をだした。なんと、前歯の長い牙を引き抜いて文字通りサーベルにすると、両刀を操って踊りかかり、尻尾をいくつにも寸断してしまったのだ。

 怪獣ザンギスは、特撮映画みたいに、どばっ、と血を噴きだすようなグロくなお寸断をされて地面に突っ伏した。

 肩に乗っていた魔界王子ダリウスと、高官たる黒衣の貴紳・シモンは反動で投げ出された。

 ――終わったぜ。なにもかもがよ。

 と後ろ背のままつぶやく剣歯虎。

 だが、格好をつけたポーズで振りむかずにいた間に、寸断されたはずの半蛇身は、DVDの動画を逆回ししたかのように、再び宙を跳ね、ぺったんとくっついて元通りになってしまったではないか!

 しかも元気を回復した怪獣の尻尾が、剣歯虎の背中をしたたか打った。

 ぶざまに、エンキドウはつんのめるほかない。

 魔界王子と黒衣の貴紳は、一度地面に投げ出されたが、人ならばそれで即死しただろうが、そこは魔族ゆえに身軽だ。五体無事で、何事もなかったかのように、着地のときトンと一回転し、そこでまた宙返りをうって怪獣化したザンギスの肩に飛び乗った。

 わはは、わはは……。

 魔界執事は、サディスティックなまでに、尻尾を鞭としてぶんまわし、剣歯虎を弄ぶかのように何十回も打ちすえ、ついには宙空に浮き立たせて、ボクシングのサンドバックのように、左右からジャブを食らわせ、ついには悶絶させてしまったのだ。

 ――コークスクリュー尻尾!

「決まった!」

 魔界王子が叫ぶ。

 土煙があがる。

 剣歯虎は、のされて地面に叩きつけられたのだった。

 市門の前で一部始終を目撃していた、有栖川家食客・総統閣下と山下画伯、ファア王国の将領・サートンとナイカルは、一度言葉を詰まらせてから、「魔界執事恐るべし」とつぶやくほかなかったのである。

 そしてギルガメッシュは……。


   妖怪


 聖都の市門前で、時空警察官・剣歯虎エンキドウが仰向けに倒れる。巨大化した魔界執事ザンギスに合わせた身体は収縮して、また元のサイズに戻りだした。

 ヘリ型に変形していたKATANAのサイドカーは、その横にふわりと着地。そのコクピットから、隻眼の兎ギルガメッシュが跳び降りた。

 剣歯虎エンキドウの相棒である時空警察官・隻眼の兎ギルガメッシュは栗色の体毛で覆われている。立った耳はさほど長くはない。そこが野生種風ワイルドなのだ。そして彼を特徴づけるのが海賊のような黒い眼帯を右目にかけているということだ。胴体は長く、ぽっちゃり、と腹がでた感じだ。尻尾は短い。兎は土を掘るために意外と指が長くなっている。その体躯にマントを羽織り、腰に巻いたベルトにはポシェットをつけている。

 実のことをいうと、ベルトのポシェットは一つではなく三つばかりついている。第一ポシェットにはインディージョーンズがつかっているみたいな鞭が収まっている。第二ポシェットには、ポシェット獣・手持ち豚さんが収まっている。そして第三ポシェットには……。

 ギルガメッシュは、相棒の剣歯虎エンキドウみたいに変身はしない。

 まずは第二ポシェットから鞭を取り出す。鞭縄のグリップから、やたらに長い縄が勢いよく伸びた。彼はそれをカウボーイのように、ぶるんぶるんと空中で回転させ、体長50メートルと化した魔界執事ザンギスの首に引っかける。グリップを持ち、派手にバウンドしながら、肩の上に跳びあがってゆく。

     ☆

 朴念仁のような隻眼の兎だが、昔は恋もしたこともあった。

 多時空間を船のように漂う人口1000万の時空都市ニコラウス。球形都市の外周をさらに衛生のような時空警察庁オービスが周っている。

 隻眼の兎は週末馴染のバーにゆく。ドアを開けると黒で統一された内装だ。カウンターがありシャツ・チョッキ・蝶ネクタイを身にまとったマスターが照明に照らされながら、グラス磨きに余念なく手を動かしているのがみえる。

 グランドピアノが奥のステージに置いてあって、スポットライトを浴びている。そこにいたのは黒いドレスを着ている長い髪の女だ。兎タイプの種族ではなく、ギルガメッシュの元カノ同様に、人型種族だった。

 流行っているのか流行っていないのかよく判からぬ店だった。あまり客はいない。

 ギルガメッシュがピアノの横にきてもたれかかる。

 ピアニストは鍵盤を弾じる手を止めずにいう。穏やかではあるが責めるような口調だ。

「貴男って罪ね」

「どこがだ?」

「そういうところ」

「そういうところって?」

「つまり全部。……女の子ウケする縫いぐるみみたいな可愛い外見とは裏腹に、悪魔顔負けのモンスター級に残酷なことができてしまう」

 まったく女のいうことは意味不明だ。バカなのか、あるいは、預言者のように遠い未来をみすえていっているのか、はたまた、両方をまぜた結果がこういう言葉になるのか。

 ギルガメッシュには判らない。しかし彼女が愛してくれているということを理解していた。

 兎は『フライ・トゥー・ザ・ムーン』をリクエストした。マスターはキープボトルをグラスに注いで持ってきた。グラスの縁にはたっぷりと塩がぬってある。アルコール度数が高いテキーラだ。

 口につけるまで彼は、フランクシナトラを気取って、ハミングする。それから一気に飲んでグラスをピアノの端に置いた。

「ちょっとでかけてくる」

「どのくらい?」

「だからちょっとだ」

「嘘ばっかり……」

 兎はバーをでた。

 それから彼は店に寄っていない。地球時間にすれば4年くらいになるだろう。ピアニストは美人だ。いい寄る男も多い。たぶんもう結婚して店にはいないだろう。

     ☆

 孫悟空の如意棒みたいに鞭のワイヤーはどこまでも伸びる。

 隻眼の兎ギルガメッシュは、自由自在にそれを操って、巨大化した魔界執事ザンギスの肩に跳び乗った。

 半身半蛇の魔界執事は、狂戦士バーサーカー化して全長50メートルの体躯へとなっている。炎を上げるその肩には先客がいた。魔界王子ダリウスと黒衣の貴紳シモーヌの二人だ。

「な、殴り込みをかけてきたのか!」

 魔界王子ダリウスが悲鳴のような声をあげた。

 黒衣の貴紳は無言で事のなりゆきを見守った。

 兎は前をのぞかせ、不敵に笑った。

 魔界執事ザンギス。……その半蛇の巨体の肩ににギルガメッシュが跳び乗るとき、無限に伸びる鞭は、螺旋を描き、蛇体にまきつけていたのだ。

「き、貴様、な、なにを考えている!」

 耳の尖った白タキシードの青年・ダリウスが恐怖の眼で兎をみやった。

 1970年代の日本では、『週間少年ジャンプ』に連載されていた『包丁人味平』という漫画が流行っていた。格闘系料理漫画の元祖ともいうべきもので、毎回、一癖も二癖もありそうな調理人が集結してトーナメントをおこなう。青年料理人・味平には数多いライバルがおり、その一人が無法板の練二。彼の必殺技こそが、あの伝説の「白糸ばらし」だ!

 豚一頭をロース・ヒレ・バラに切り分ける「宝分け」のトーナメントがあった。対戦選手の熟練シェフが汗をかきながら制限時間で半分を終わらせ、審査員が対戦者に軍配を上げようとしたそのとき、練二はまるで勝負を捨てたように煙草をふかし始める。ところがどっこい、練二は捨ててはいない。 豚の身をある箇所だけ切除した後、釣り糸をグルグル巻き付けておいたのだ。巻き付け終わったところで、糸をぐいと引く。するとどうだ、豚身が調理台でくるくる回転し、一気に肉小片に裁断されてしまったではないか。

 圧巻だ!

 あの漫画を知っているかおらぬかは判らぬところだが、同じ必殺技を兎は、劇画『ゴルゴ13』の殺し屋デューク・東郷みたいに、すました顔でやった。

 肩に乗っていた魔界王子と黒衣の貴紳、それに下でみていた閣下と画伯、王国の将領二人と麾下の兵士たちが青ざめ、嘔吐する者までいた。

 画伯がつぶやく。

「ぎ、ギル君は残酷なんだな。うっぷ。まだザンギス君は生きている。そんな技をつかうなんて――」

 閣下もうなづいた。部下に命じ、おびただしい数の捕囚をアウシュビッツ収容所送りにした悪魔のようなその人もうなずくのだから相当なものだ。まるでR15バイオレンス小説ではないか。

 執事の肩にいた王子たちは投げ出される前に地面に跳び降りた。

 ザンギスの肉体が、からみつけられた鞭ワイヤーを引くことによって、ばさばさと小片となり、地面に落ちてゆく。だがこのまま放置しておいては、先にぶっ倒された相棒・剣歯虎エンキドウの二の舞だ。

 兎は攻撃の手を緩めない。

 ベルトに掛けられた第三ポシェットから取り出し、カプセルを宙に放り投げる。

 ――いでよ、脚長鷲ハアピイ!

 そんなことを口にするとは。……まるでラノベの三文ファンタジーの召喚魔法ではないか。現れたのは、その名の通り脚の長い巨鳥だった。怪鳥が天空に現れ、ばらされたザンギスの肉片を、掃除機のように吸引、咀嚼そしゃくした。これはこれで残酷シーン。

 ザンギスの肉塊を背にした兎は、ふっ、と余裕の笑みを浮かべた。

 その横で、のびていた剣歯虎が跳ね起き、「水、水……」と口走って、市街地・井戸に走り、つるべを引き上げ、半ばこぼしながらそれを呑むのだった。

    (つづく)

【登場人物】

●時空警察……サイドカー仕様のKATANAを駆って異時空をパトロールする。隻眼の兎、ギルガメシュ、サーベルタイガー・エンキドウ。

●有栖川ミカ……時空移動と、砂像を実物に変えてしまう通力・組成物質組替能力を有する女子高生。

●有栖川家一門……パパ、ママ、弟・剛志。

●食客四人衆……時空警察官・隻眼の兎とサーベルタイガーにより保護され、有栖川家に託されている食客たち。信長・蘭丸主従、山下画伯、ヒトラー総統。

●魔界衆……有栖川ミカを『わが嫁に』とたくらむ闇の勢力である。魔界王子ダリウス、魔界執事ザンギス、黒衣の貴紳シモーヌ

●ファア王国……宿敵ジーン侯国と大陸カアラの覇権を伺う。摂政フィルファ内親王、サートン将軍、ナイカル将軍。

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