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06 奄美剣星 著  図書館&海岸 『隻眼の兎の憂鬱』

【隻眼の兎の憂鬱/概要】

 異時空を支配せんと目論む魔界王子麾下の魔界衆たちは、時空を自在に移動する潜在能力を秘めた女子高生・有栖川ミカを奪取すべく、果敢に同家にアタックしていた。彼女を密かに警護していた時空警察の隻眼の兎ギルガメッシュとサーベルタイガー・エンキドウの二人に加えて、織田信長・森蘭丸・アドルフヒトラー・山下清画伯といった食客四人衆が加わる。ところが、魔界執事ザンギスのきまぐれな魔法で、有栖川一門と魔界衆は異世界に飛ばされてしまう。

 異世界カアラ大陸には、北のジーン侯国と、南のファア王国という二大国が存在していた。両者は犬猿の仲で戦争が絶えない。ファア王国は、偉大な先君が亡くなり、存亡の危機に立っていた。だがジーン侯国は、黙って見逃すほど人は良くない。圧倒的な兵力をもつ侯国の軍勢は王国に侵攻し、包囲陣形を敷き、迎撃にでた王国軍を殲滅せんとしていた。

 そんな戦場のどまんなかに、有栖川家が屋敷ごと、どてんと姿をあらわした。全滅しかけていた王国軍が有栖川家に逃げ込んだ。有栖川一門は王国側につき、しかもミカが特異点能力(魔法ともいう)を生かして、屋敷の周囲に城壁を築いてしまった。信長たち食客四人衆はこれを有栖川砦と呼んだ。

  ⇒ここまでのお話は、下記URLでまとめてご覧いただけます。

    http://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/322198/

    01 図書館


 魔界衆との抗争のあおりで異時空に飛ばされた有栖川邸。そこの娘ミカは特異点として、イメージしたものを瞬間的に組成する能力が備わった。このため、邸宅周囲にはあっという間に城壁がこしらえられ、ちょっとした要塞が出来上がったのである。ひと呼んで有栖川砦だ。その城門が開かれ、何十両もの荷馬車が往来していた。

「この戦いにわれわれは介入することは許されぬ。だがよかったと思う」

「俺もそう考えている」

 サイドカーにもたれた隻眼の兎ギルガメッシュと、サーベルタイガーのエンキドウは腕を組んで輜重隊しちょうたいの入城を素直に喜んでいた。二人は時空警察である。限定空間内部で抗争があった場合、特定勢力に組することは職務上禁止されている。ゆえに

ファア王国とジーン侯国の抗争で、有栖川家が王国側についたものの、同家に親しい彼ら二人といえども積極的に戦闘には参加しかなかったのだ。

 尖がり屋根の二階建ての洋館が有栖川邸で、天守閣をなしていた。その周囲は広い梅林となり、それが途切れるあたりは、重厚な城壁になっている。戦果が小康状態になったときを見計らって、城兵たちは、梅林の樹やら枝を上手く使って小屋を建てだした。井戸が掘られ、鍛冶小屋や馬小屋なんかまでできてきた。

 食糧・物資は外部にいた味方・ファア王国軍・陽動隊が、敵軍を一時的に引かせている間に、荷車を城内に引き入れた。重症者を内地に帰還させる。補充兵に入れ替えた。その上、粉ひき小屋とパン焼き窯のある小屋まで建てだした。

 風車をこしらえれば小屋が完成だ。兵士たちには結構な数の職人たちがいる。こういった施設は瞬く間に出来てしまう。その小屋の前である。

「本格的な城塞になったっすねえ、先輩」小柄な将領ナイカルがいった。

「これで一か月は十分に防戦できる」大柄なサートンが答えた。

 幕僚たちの顔ぶれは、この二人に、パパ上とマダムに剛志それからミカといった有栖川御一門衆、それに信長公・蘭丸・ヒトラー総統・山下画伯の食客四人衆だ。さらに時空警察である隻眼の兎とサーベルタイガーまでオブザーバーに加わっている。面子がそろうと、そのまま軍議になった。

「な、なんで、敵はこの場所にこだわるんだろな?」リュックを背負ったシャツと短パンの画伯が素朴な疑問をいった。

「整理してみよう。敵といっても二通りおる。一方はジーン侯国。これは国境紛争だから判りやすい。だが魔界衆がむこうに加わって、これほどにムキとなるからには、単にミカ姫を奪取するだけが目的ではあるまい」総統閣下がいった。

 一同に視線が、王国の将サートンとナイカルにむけられた。

 二人は返答に困って互いの顔をみやっている。

 信長公がきいた。

「城兵たちの噂だ。仲間の兵士が何人か忽然と消えたといっている。脱走した様子はない。城内・梅林に大人一人ほどの大きさの立石があって、それに触れると消えるという噂ではないか」

 しばらくして、思い切ったように、偉丈夫マッチョな将領サートンが答えた。

「図書館がある」

「せ、先輩。極秘事項トップシークレットっすよ!」

「共闘を組んでいるのだ。この期に及んで隠し立てすることか――」

 ――図書館? なんの図書館だというのだ。

 そういうわけで、一同は立石の前に立った。なるほど高さ二メートルばかりある石で、真ん中が凹んで、地下へ通じる穴があいている。信長公の小姓・蘭丸が小石を投げ込んで深さを計ってみたが、いったいどれほどに深いのかよく判らない。

「人が吸い込まれてしまうなんて危険な石だわ。この私が、どっかに吹っ飛ばしちゃう」

 ブレザー姿のミカが竹刀をもって、やっつけてやる、といったふうに意気込んでいた。

 このとき、サーベルタイガーが前にでて何かをみつけた。ふつうの人間には読めない、しかしそれでいて不思議な流麗さをもった文字が小さく刻まれている。

「ケテル・コクマ・ビナー・ケセド・ゲブラー……呪文かな?」

「おいおい、迂闊に読むなよ」隻眼の兎がいった。

 しかしもう遅い。一同は掃除機に吸い込まれるワタゴミのように、穴の中に引きこまれていった。悲鳴をあげようと、石の縁につかまろうと、吸引力は物凄いもので逆らいようがなかった。


 どれくらい経ったのだろう。一同は目覚めて半身を起こし、ぷるぷる、頭を左右にやる。すると辺りはヒカリゴケが自生していて、岩盤をくり抜いた狭い回廊にいるのを理解した。

「サートン殿、図書館といったな?」

「さよう。昔日、邪悪な神々を復活させるため、異端の魔道士どもがうごめいていたのを先君が知り、首謀者の大司祭を処刑した。その弟子どもが国境に逃げて地下修道院をつくったという噂をきいた。あくまで噂だった。わが軍兵士たちがゆくえ不明になったという件は知っておったが、世迷言として取り合わないでいた」

「なるほど、図書館とは魔道士たちが造ったものか」

「いかにも……」

「――であるか」

 一同は天井から落ちてきたらしい。出口ははるか上にあるようだ。上り階段やら梯子といったものはみえない。

「前に進むしかないようだな」隻眼の兎がいった。

 こういうときに真っ先に行動を起こすのが信長公だ。その後について、一行は心細いその明かりを頼りに、狭い回廊の奥へ奥へと進んでゆく。すえた……という匂いを遥かに通り越した異臭が漂っている。回廊の狭い壁際には格子のついた横穴がいくつも穿ってあった。中をのぞきこむ。すると、どろどろと、ゼリー状になって内臓がすけているのやら、均等の崩れた四肢のケダモノが七転八倒したかと思えば、咆哮したりしているではないか。異様な倦怠感が襲い掛かってくる。

 剛志などは嘔吐して、途中から、画伯や蘭丸の肩を借り、どうにか「図書館」にたどり着いた。図書館とはいってもそこに紙を冊子にしたものはない。棚にあったのは、乾かしてから古代文字と意匠を彫り込んだ円筒形の粘土だった。拳にのるほどの大きさだ。

 サーベルタイガーが、また前にでてきて、手に取った。

「ティフェレト・ネツァク・ホド・イェッソド・マルクト……また呪文かな?」

「だから読むなって――」隻眼の兎がいったが、もう遅い。

 マダムと娘のミカが抱き合って悲鳴を挙げた。

 一同はまたも、どこか別な異空間に飛ばされてしまったではないか。

   

    02 海岸


 海岸は未知の生物で溢れていた。地下修道院の回廊・横穴で飼われていた内臓が透けてみえるゼリー状だったり、左右不対称であったりといった異形の生き物たちによく似ている。うねうねと動くのもいたが、大半が打ち上げられた死骸で、一つ目の烏に似た鳥がそれらをついばんでいる。異臭は酸味をおび、さらに強烈になった。一同は腕で鼻や口を隠した。

 そのうちに、巨大なたこにも似た。それでいて、人間・馬・蛇といった形によく似た肉質の突起を冠した、それが、潮を噴き、海中から姿を現した。

 グロテスクな生き物たちが放つ酷い異臭。瘴気というのはこういうものか。よどんだ赤い空である。有栖川家一門で立っているのはミカだけだ。食客四天王はかろうじて立っていた。時空警察の二人は訓練されているのか意外と平気な様子だ。

 信長公がきいた。

「魔界の王か?」

(いかにも)

「なにゆえにわれらをいざなったのだ?」

(汝らが望んできたことだ)

 波間から職手が伸びてきて、にゅるにゅる、砂浜をはい、ミカにつかみかかろうとした。蘭丸が太刀を引き抜き、ぶつ斬りにするのだが、斬ったところから、すぐさま新しいのが生えてきて、また伸びてくる。きりがない。

 他方で、山下画伯がスケッチをしていた。

「うねうねムニュムニュたこ脚さん♪」

「絵描き唄なんかやってる場合じゃないぞ!」閣下がヒステリックに叫ぶ。

 ミカは足元にまで迫ってきている触手がミカの足元・靴のつま先くらいにまで迫ってきていた。

「あっちいけ、キモイ触手め。まるで剛志の部屋にある同人誌漫画みたいじゃない。女の子の足元にからんでどこにむかおうっていうの。バカ、エッチ、変態!」

 そいつを竹刀で払いのけていた。

「むむ……」スケッチブックをのぞきこんだ信長公が取り上げる。信長公は根波打ち際近くまで駆けてゆき触手を断ち斬る。少しミカに余裕ができる。そこで画伯の絵を彼女に渡した。魔界の王と答えた海坊主の絵で、王は檻籠に封印されている。

 信長公がミカにいった。

「この絵をイメージしろ!」

 少女がうなずく。

 そして宮崎アニメでつかわれた有名なあの呪文を唱えた。

 ――バルス!  

 蒸発という言葉がもっとも相応しいだろう。赤い海の海水、海岸の砂、砂浜を埋め尽くしていた異形の生物たちが渦巻きの柱みたいに天空にすわれてゆく。たこのような魔王は海面でのたうちまわって咆哮をあげている。

 その渦の一つに、失神しているファア王国将領・有栖川一門、食客四天王さらに時空警察の面々も混じっていた。

 きゃあああああ……。

 通力を使うと、体力を消耗したミカはしばらく失神してしまう。

 蘭丸が彼女の背中を抱きしめる。

 勢いよく海中に魔王が沈んだ勢いで、大波があがった。するとだ、白のタキシードをきた耳の尖った若者が、サーフィンして後を追ってくる。

「さかしい」

 信長公はつぶやいたが、渦に巻き込まれたままなので、手に持た火縄銃の狙いはつかない。

「有栖川ひ~め~。こっちに戻ってきた~。GET♪」

 やがて、一同はひどい衝撃を背中に感じる。有栖川砦・梅林。その木の枝ぶりがクッションになって軽い怪我だけで済んだ。王国の将領二人、食客四天王、時空警察の二人もいた。有栖川一門はどうだ。パパ上、マダム、剛志がいる。全員が帰還していた。そう肝心のヒロイン・ミカをのぞいて……。

 ――ミカが、魔界王子ダリウスにさらわれた!

 事実を知った一同が一斉にそう叫んだ。

 ミカの背を抱いていた蘭丸から、彼女を引き離し、いずこかへと奴めは消えてきえていったのだ。ミカは……。

 「お気づきになられたか?」

 彼女の顔をのぞきこんだのは、黒い小札甲冑を着こんだ偉丈夫で、白くて長い髭の人だ。気品があるわりに強いオーラを感じる。一般兵士ではない。将軍のようだ。

「貴男は?」

「ハーンだ。ジーン侯国のハーン」 

「ジーン侯国? え、敵じゃない……」

 また急激な睡魔が襲い掛かる。双眼が閉じられてゆく。

「さすがは坊ちゃん、姫のGET、お見事!」

「ありがとな、ザンギス。そんじゃ、結婚だ結婚だ。子づり子づくり♪」

地面をバンバン叩く音がした。

(そ、そんなの嫌だあ……)

 意識は、ブレーカーが落っこち、真っ暗になったようだった。そこからしばらく記憶がなくなる。

(つづく)

〈時空警察〉

●隻眼の兎ギルガメッシュ

●サーベルタイガーのエンキドウ


〈有栖川家〉

●ミカ:ヒロイン

●ミカの家族:パパ上、マダム、弟の剛志

●食客四人衆:信長公、蘭丸、ヒトラー総統、山下画伯


〈ファア王国〉

●将領:サートン、ナイカル


〈魔界衆〉

●魔界王子ダリウス

●魔界執事ザンギス

●黒い貴紳シモーヌ


〈ジーン侯国〉

●ハーン元帥

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