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06 奄美剣星 著  幸運&蕎麦 『隻眼の兎の憂鬱』

  ⇒ここまでのお話は、下記URLでまとめてご覧いただけます。

    http://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/322198/


● 誤字脱字のご指摘は、1稿作品である現段階では、大幅改稿になる2稿において、まったく生かせませんので……お気持ちだけで戴くことにします。( しかし、やたらにキャラが多い。 いずれ数人に整理しなくては……)


【登場人物】

●時空警察……サイドカー仕様のKATANAを駆って異時空をパトロールする。隻眼の兎、ギルガメシュ、サーベルタイガー・エンキドウ。

●有栖川ミカ……時空移動と、砂像を実物に変えてしまう通力・組成物質組替能力を有する女子高生。

●有栖川家一門……パパ、ママ、弟・剛志。

●食客四人衆……時空警察官・隻眼の兎とサーベルタイガーにより保護され、有栖川家に託されている食客たち。信長・蘭丸主従、山下画伯、ヒトラー総統。

●魔界衆……有栖川ミカを『わが嫁に』とたくらむ闇の勢力である。魔界王子ダリウス、魔界執事ザンギス、黒衣の貴紳シモーヌ

●ファア王国……宿敵ジーン侯国と大陸カアラの覇権を伺う。摂政フィルファ内親王、サートン将軍、ナイカル将軍。

   ● 幸運 


「……恥の多い生涯を送ってきました。自分には、人間の生活というものが見当がつかないのです。自分は××の田舎に生まれましたので、××をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでした。自分は子供の頃から病弱で、よく寝込みましたが、寝ながら、敷布、枕のカヴァを、つくづく、つまらない装飾だと思い、それが案外実用品だったことを、二十歳ちかくになってわかって、人間のつましやかさに暗然とし、悲しい思いをしました。また自分は、空腹ということを知りませんでした。いや、それは、自分が、衣食住に困らない家に育ったという意味ではなく、そんな馬鹿な意味ではなく、自分には『空腹』という感覚はどんなものだか、さっぱりわからなかったのです。へんないい方ですが、おなかが空いていても、自分でそれにきがつかなかったのです。……ぎゃあああ。出してくださいぃぃ。僕が悪うございましたあぁぁぁ。ごめんなさい、ごめんなさい、いたらぬ僕が悪いんです。生きていてすいません。切腹させて下さい」

 鞭で青銅の容器をビンビン叩く。これをファア王国の人々は「封魔の器」と呼んでいた。魔族を封印するという点で容器は完璧だった。しかし内部に閉じ込められた者が発する声だけは遮断する機能まで考慮されていなかった。

 前に立ったアドルフ・ヒトラー総統閣下の瞳が血走っている。睡眠不足のようだ。

「切腹させて下さいだ? なら死ね」

 ポシェットに忍ばせた旧ドイツ軍制式拳銃・ワルサーP38の銃口を卵のような形をした青銅容器の隙間に突っ込んで、引き金を引いたのだ。

 バギュ~ン。

「痛い。でも気持ちいいですう」

 中身に収まった囚人は死にはしない。しかも騒ぎは一層けたたましくなっていった。

 ファア王国の王宮内部にある宮殿だ。重厚な吹き抜け構造をした建物で、そこの中央部に「封魔の器」が置かれていた。

 チョビ髭の総統閣下は、次第に嗜虐的な笑みを浮かべてきた。

「うざい悪魔め。つぎは毒殺ガス責めだ!」

 山吹色のスーツに棒ネクタイをした男。その人が銅鉱石に付着した砒素。そいつの粉末をスプレイにして、容器の中身に噴射した。

「ヒトくんは、ら、乱暴なんだな」

 ダリウスにとって、山下画伯の存在は幸運だった? ランニングシャツを着て短パンを履いた小太りした画家は率直にちょぼ髭の総統閣下を批判した。

 ――特別な存在・スペシャリストはS、魔族はMと決まっておる。それがなにか?

 ???

 画伯は戸惑った感じだ。

 都城は市井を守る外壁と、北側に寄ったところにある王宮を守る内壁で囲まれている。その王宮の奥まったところでさらに城壁に囲まれたところにあるのが、宮廷内神殿である。ギリシャ・パルテノン神殿みたいに石造りになった内部祭壇神像の下に、「封魔の器」が置かれていて、容器内部から、相変わらず魔族青年の怪しげな声がしていた。

「ああ、気持ちいい。とろけるようですう」

 容器の中身にいる耳の尖った魔族の青年は悦に浸るような声をあげる。

 ぴきっ。

 閣下のこめかみに青筋がたつ。

 ――乱射!

「超きもちいい♪」

 青銅容器「封魔の器」は鶏の卵を大きくしたような格好だ。異世界にある大国・ファア王国の摂政内親王・フィルファの策謀で、魔界王子ダリウスが捕獲された。これで時空特異点ミカに襲い掛かるリスクは軽減された、というものだ。……と思ったのだが、思わぬ弊害があった。

 ダリウスが、一日中延々と、太宰治の『人間失格』を朗読するものだから、ファア王国の宮廷にいた人々は、総統閣下ならずとも、やたらに気分を害した。猛烈なモチベーションダウン……。朝廷で大臣以下各職掌にある官吏・女官たちを悩ませた。

 そういうわけで、王国最高実力者・フィルファ内親王は、『魔族を封じ込めた卵』を王都から離れた山奥の神殿に隔離するという御英断をくだしたわけだ。

     ☆

 サートンやナイカルといった王国の将軍二人が、近衛軍千人隊二個部隊を率い、囚人を王都から南60キロ離れた山岳神殿・エロワに移す護送の任についた。マッチョなサートン将軍が前衛を、小柄なナイカル将軍が後衛を護る。さらに、彼らには助っ人がつく。

 有栖川家食客四人衆のうちの二人、ヒトラー総統と山下画伯が、第三帝国最強・最大を誇るⅥ号戦車・ティーゲルⅡに乗り込んで、「卵」の左側面を護っている。

 そして、時空警察官の隻眼の兎ギルガメッシュと、サーベルタイガー・エンキドウの二人がサイドカー仕様・KATANAに乗り込んで右側面を護っている。

 ミカはもっとも安全である内親王のそばにいた。パパ、ママ、剛志といった有栖川家一門のほかに、信長、蘭丸といった食客四人衆のうちの二人が残りミカを護る。城壁の上からミカたちが、囚人護送隊に手を振る。

 鉄壁の布陣……の筈だった。否、この布陣は完璧なようで、はじめから欠陥があった。

 そういう事情を知ってか知らぬか、サイドカーのコクピットに収まっていた隻眼の兎は、ピンク色をした手持ちサイズのぬいぐるみを掌で、ぽんぽん、弾ませ弄んでいた。すると、バイク本体に乗っかっていたサーベルタイガーが、一瞥してつぶやいた。

「ギルガメッシュ、おまえが『手持ち豚さん』を取り出すとは、よほど退屈なようだな」

「魔族どもが俺たちを長く退屈させたことがあるか?」

「ないな」

 剣のように長い二つの牙を持ったサーベルタイガーが前をむいてハンドルを握ったまま返事した。

 「卵」の中から、またおぞましい呪いの言葉が発せられてきた。

「……生まれてはじめて、わば他郷へでたわけなのですが、自分には他郷のほうが、自分の生まれ故郷よりも、ずっと気楽な場所のように思われました。それは、自分のお道化もその頃にはいよいよぴったり身について来て、人をあざむくのに苦労を必要としなくなっていたからである、と解説してもいいでしょうが、しかし、それよりも、肉親と他人、故郷と他郷、そこには抜くべからざる縁起の何位の作が、どのような天才にとっても、たとい神の子のイエスにとっても存在しているものなのではないでしょうか……ぎゃあああ。出してくださいぃぃぃ。僕が悪うございましたあぁぁぁ。ごめんなさい、ごめんなさい、いたらぬ僕が悪いんです。そんな僕を誰か、助けてください」

 護送隊の面々は少しうつむき加減になって行軍を続けた。隊伍の不快指数が上昇しているのだ。

 どどど……。

 土煙を噴き上げ、でてきたのは、蝶ネクタイに燕尾服を羽織った老紳士だ。囚人たる王子に仕える魔界執事ザンギスである。

「助けを必要としますかな、坊ちゃん?」

 砲塔に乗っかっていた総統が、画伯に回答して弾丸をぶっ放すようにいった。

 ティーゲル戦車の砲身がザンギスにむけられる。

 ――発射。

 だが、飛んできた砲弾を、半蛇身をした魔界執事の尻尾が弾き飛ばす。

「がはは、がはは……」

 それが宙空で角度を変え、サイドカーの真上から落下する。

 砲弾が直撃する刹那、空中で、制止する。止めたのは、意外にも隻眼の兎が弄んでいた「手持ち豚さん」だ。

 戦車砲塔の閣下が、「ギルガメッシュ、使い魔を操るのか……」とつぶやく。

 「ああ、これか? 時空警察では、『ポシェット獣・手持ち豚さん』と呼んでいる」

 KATANAのコクピットに収まった隻眼の兎はポーカーフェイスを崩さない。

 ザンギスが、にんまり、と笑い、尻尾で地面を叩きだす。横っ腹でまさかの奇襲を受けた護送隊の隊伍は身がすくんで動けない。「彼ら」を除いては……。


   ● 蕎麦


 行軍隊形「長蛇の列」というのは中央部突破をされやすく危険である。だが魔界執事ザンギスにとって、人界のことわりなど無意味なもので、ファア王国の囚人護送隊は少なからずパニックを起こした。

 とはいえ、前軍を指揮するサートンと後軍を指揮するナイカルは歴戦の将領で、このあたりの修羅場には、冷静に対処することができた。街道の道沿いに棒状に伸びた両軍はそれぞれ半弧を描き、全体として円陣を組んで、ザンギスと護送馬車を包囲したというのは当然のことである。

 ――包囲殲滅陣形。

 魔界王子ダリウスを封じ込めた青銅容器「卵」の右側にいたサイドカーと左側にいた戦車も、前後両軍の動きに合わせて、戦術的退却、というものをすることになる。

 ファア王国の軍勢が、いしゆみや長弓で雨あられと矢を放ち、ついで、信長たち有栖川家食客たちの指導で量産を始めた火縄銃の銃口が一斉に火を噴く。

「わはは、わはは……」

 半蛇身をした魔界執事は、尾っぽで、「卵」を盾にした。それをサッカーボールのように、ぽんぽん、弾いき、矢だの弾丸だのを防ぐ。器用なものだ。

 総統閣下が、Ⅵ号戦車ティガーの砲塔をむけようとすると、戦象の背にいた小柄なファアの将領ナイカルが、「卵」の殻が壊れるからやめてくれと訴えたので、閣下は砲撃を中断した。

 サイドカーにいた隻眼の兎は、ポーカーフェィスを崩さず、先ほど魔界執事ザンギスが尻尾で叩き落とした戦車弾丸の誤爆を鎮め、帰投した「ポシェット獣・手持ち豚さん」を再度、半蛇身のザンギスにむけて放とうとする。

 刹那だ。

 魔界最強の悪魔を退散させたのは、意外にも、「卵」に封じ込められていた囚人たる魔界王子ダリウス自身だった。

「ザンギス、引っ込め、目が回るうぅぅっ……」

 半蛇身の老紳士。その双眼が大きく見開かれ、それから優しげに半ばを閉じる。

「おおっ、坊ちゃん。成長なされましたな。ご自身で解決なさる。素晴らしい! 判りましたぞ。ザンギスめは、離れたところでみておりましょうぞ。わはは、わはは……」

 ボールのように尻尾で弾ませた「卵」を地に置く。するとどうだ。その横の地面が割れたではないか。なおも魔界執事は尻尾をバンバン叩き、土煙を巻き上げ、深い暗闇である穴の底に消えていった。

 ――判らん奴! 

 ファア王国将兵は顔を見合わせた。

 戦車の閣下もつぶやく。

 サーベルタイガーが操るサイドカー仕様のKATANAコクピットに収まった隻眼の兎は、「手持ち豚さん」を片手で宙に放る所作を繰り返し、何事もなかったかのような顔だ。

    ☆

 ファア王国王都エイから南西に60キロいった山奥の神殿・エロワにむかう巡礼街道。そこの途中に二つの宿場町がある。一つ目の宿場町に入るとき、風景は、なだらかな山と合間に開けた平野部からなる田園風景から、広葉樹で覆われた山森になった。二つ目の宿場町に入るときは、苔や高山植物が目立つ岩場になっていった。けっこう高度があるようだ。

 このあたりの主要穀物といえば蕎麦だ。蕎麦がきを木製の箱に押し込め、自転車空気入れみたいにレバーを押す。箱の先端には孔があいていて、そこから押し出された、ところてんみたいになった麺条がでてくる。人々はそれを焼いて辣油で味付けし、天婦羅芋を具にして食べる。ほかにあるといえば、蕎麦粉をバターで溶かした飲料や、一年に数度口にできるか否かという鶏やリャマといった家畜の肉くらいしかない。

 記憶することにかけて天才である画伯は、じっと、残酷なまでに美しい風景を、目でなぞっているようだ。

「なんて貧乏な村なんだ」

 総統閣下はつぶやいた。

 一行は、街道の傍らにうず高く積まれた石の道標のむこうに、エロワ神殿をみやることができた。卵形をした青銅製「封魔の器」に閉じ込められた魔界王子は、太宰治に代わり、今度は、カミユの『異邦人』の冒頭部を朗読して、護送隊二千の将兵を攪乱し、嫌がらせしていた。

「きょう、ママンが死んだ。いや、昨日だったかな。僕には判らない。養老院から電報をもらった。『ゴボドウサマノシヲイタミマス、アス、マイソウ』 だってこれじゃ判らないじゃないか。恐らくは昨日だったんだ。養老院はアルジェから80キロのマランゴにある。2時のバスに乗ったら、たぶん午後のうちには着く。お通夜をして、翌日の夕方には帰ってこられる。僕は雇い主に二日間の休暇を申しでた。旦那様は仏頂面だったが断る理由をみいだすことはできなかった様子だ。『僕のせいじゃないんですから……』といったが、黙っていた。その人が実際僕にお悔やみをいうのは、もちろん明後日、喪服姿で帰ってきた僕に出くわしたときになるんだろう。なんだか、ママンはまだ死んでいないようだ。埋葬が済んだら、反対に、これはれっきとした、事柄になり、すべてが、もっと、クリアになるんだろうな。それで僕は二時のバスに乗ったんだ……」

 ――砲撃フォェア

 ティガー戦車の砲塔が「卵」にむけられ、砲身が火を噴く。弾丸は、荷車の上に乗っかった「卵」に命中。しかしそれは、破壊されず、宙空に飛翔し、街道横の崖にドシンとぶつかってのめりこみ、そこからホロッと剥がれ落ちて転げ落ち、また荷車にたどりついた。

 「卵」の中身は笑い転げながら、『異邦人』の朗読を続ける。

「……母親を埋葬してからさほど日も経たぬうちに僕は、友人の女に手をだしたアラブ男をピストルで射殺した。法廷に何度かたつと、検事は僕が母の年齢を知らなかったこと、翌日女と海水浴や映画にいったこと、そして寝たことから、いかに僕が人間ではなく悪魔の心をもっているかをあげつらった。弁護士はつかえない奴だ。面倒くさいから、法廷ではこう証言してやった。僕が奴を殺したのは太陽のせいだと――」

 戦車砲塔に上体をだしているチョビ髭の総統閣下は、イライラを隠さない。その人が「卵」のむこう側にいるサイドカー仕様KATANAをみやると、コクピットに収まった時空警察官である隻眼の兎・ギルガメッシュは平気な顔をしていた。

「おい、ギルガメッシュ。貴官はよく平気だな」

「ノイズディフェンサーをつかっている」

「ノイズディフェンサー?」

 バイク本体に乗っかっているサーベルタイガー・エンキドウが口を挟む。

「平たくいえば、叫びちゃん系魔族に対する耳栓だな」

「予備はあるか?」

「ある」

「それを早くいえ」

 目を血走らせた閣下がいう。

 兎が耳栓の入ったケースを、閣下のいる戦車砲塔に、ポイと投げやった。

 美しい光景だ。その先に目的地・岩山山頂を削った白い山岳神殿エロワが黄金色がかすかにみえだす。

 このとき護送隊一同は気がつかなかった。先ほど、閣下がぶっ放した弾丸が、わずかに、「卵」に傷をつけていたということを……。

(つづく)

引用参考文献/

  太宰治『人間失格』

カミユ 『異邦人』


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