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06 紅之蘭 著  夏の花 『アラビアのロレンス』

「すっげえ。米か。御馳走だ!」

 砂漠の戦士たちは躍り上って喜んだ。

 たぶん中世・十字軍時代の遺跡だろうか。廃墟になった要塞があり、僕らはそこにキャンプを張っていた。

 砂漠にも夏がある。もっとも、昼と夜の違いこそが夏と冬の違いだという人もいる。そうはいっても冬より夏のほうが暑いということに変りはない。

 くる日もくる日も水と、小麦粉を練って焼いただけのパンで飽き飽きしていたところだ。そんなところに、後方から補給部隊が、食糧や上等のテントをもって、届けてくれたのだ。補給部隊が帰ると、御馳走の米を駱駝に積んで、僕らはまた砂漠を縦断し、西にむかった。

 ヒジャーズ鉄道は、聖地の一つメジナから、アラビア半島東岸の砂漠に点在するオアシスを結んで北上し、シリアのダマスカスに至る南北縦断鉄道だ。鉄道はトルコ帝国が建設したもので、彼らは鉄道沿いに要塞を設け、叛乱軍の北上を阻んでいたのだが、鉄道補強網、通信回線の切断、といった地道な後方攪乱で前線を弱らせた。カリスマ的な将軍ファイサル第三王子率いる叛乱軍は、英国が支援した武器を手にして、北伐を開始した。

 アカバ――

 アフリカ大陸とアラビア半島の間にある大陥没に、海水が流れ込んだところが紅海だ。北の付け根・シナイ半島・東にある入り江がこの港湾都市だった。ヒジャーズ鉄道から少し西にそれている。

 この港町からは、エジプトへ延びる巡礼街道があり、駱駝に頼らずとも車両の往来が可能だ。叛乱軍を支援する英国軍は、陸路をして容易に補給線を確保することができるというわけだ。

 鉄道沿線から分岐点をなすオアシスの駅から目的地である港湾都市までは、駱駝での往来しかできない、

 砂漠地帯になっている。王子の軍勢はアカバを目指すのにあたって、僕・ロレンスに六週間分の食糧と兵士に支払う給料・軍資金をわたしてくれた。

 僕が王子から預かった叛乱軍部隊は、十七名からなる駱駝騎兵・半個中隊だ。王子は後方の輜重に、腹心のナスィーブ・アル-パクリーをあてがってくれたのは、ありがたかった。

 ただ、彼はサービスがよすぎた。

 実際のところ、砂漠での長旅にとって、飽き飽きするパンの材料・小麦粉こそが、軽量で駱駝の疲労を軽くするのだ。

「ああ、これじゃ、駱駝がつぶれる……」

 泉や河川沿岸のオアシスを島に例えれば、オアシスが点在する砂漠は海で駱駝は船にあたる。駱駝は砂漠の船というのはもっともなことだ。その駱駝の船足が遅くなっている。駱駝もそうだが、けっきょくのところ、旅人の疲労度は高まる。

 一日あたりの駱駝の歩行距離が短くなっている。砦をでた僕たちは、途中でそのことに気づき、贅沢品の米をまっさきに食べて、駱駝の負担を軽くしてやった。

「米は駄目だ。次からはいままでどおり小麦粉でいこう――」

 皆の意見だ。

 砦をでてからどれくらい経っただろう。

 剥き出しの岩山・砂丘に囲まれたところから、むわっ、と植物や土の匂いが漂ってくる。ナツメヤシ園、菜園、そして集落。

 オアシスだ。

 アカバ攻略戦において、最も重要な補給拠点となるアルー・クッルの村にたどり着いた。

 ナツメヤシの木々がつくりだすトンネルをくぐつ。ほどなく花を咲かすことだろう。

    END

引用・参考文献

T・E・ロレンス著、J・ウィルソン編、田隅恒生訳『知恵の七柱』第2巻 第41-42章より 平凡社 2008年


※小説というより、自己満足なノートになってしまいました。(めんちゃい^^)


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