02 奄美剣星 著 夏の花&ペット 『隻眼の兎の憂鬱』
【隻眼の兎の憂鬱/概要】
異時空を支配せんと目論む魔界王子麾下の魔界衆たちは、時空を自在に移動する潜在能力を秘めた女子高生・有栖川ミカを奪取すべく、果敢に同家にアタックしていた。彼女を密かに警護していた時空警察の隻眼の兎ギルガメッシュとサーベルタイガー・エンキドウの二人に加えて、織田信長・森蘭丸・アドルフヒトラー・山下清画伯といった食客四人衆が加わる。ところが、魔界執事ザンギスのきまぐれな魔法で、有栖川一門と魔界衆は異世界に飛ばされてしまう。
異世界カアラ大陸には、北のジーン侯国と、南のファア王国という二大国が存在していた。両者は犬猿の仲で戦争が絶えない。ファア王国は、偉大な先君が亡くなり、存亡の危機に立っていた。だがジーン侯国は、黙って見逃すほど人は良くない。圧倒的な兵力をもつ侯国の軍勢は王国に侵攻し、包囲陣形を敷き、迎撃にでた王国軍を殲滅せんとしていた。
そんな戦場のどまんなかに、有栖川家が屋敷ごと、どてんと姿をあらわした。全滅しかけていた王国軍が有栖川家に逃げ込んだ。有栖川一門は王国側につき、しかもミカが特異点能力(魔法ともいう)を生かして、屋敷の周囲に城壁を築いてしまった。信長たち食客四人衆はこれを有栖川砦と呼んだ。
しかしそこで転機が起る。戦争の元になった図書館遺跡があるというのだ。探検に行った有栖川家一門食客は、異世界へと飛ばされ、その最中、ミカは魔界王子に囚われてしまう。「結婚、結婚、子づくり、子づくり~♫」とはしゃぐ王子。果たして特異点少女の運命やいかに……。
⇒ここまでのお話は、下記URLでまとめてご覧いただけます。
http://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/322198/
01夏の花
岩が剥き出しになった小高い丘に古い遺跡がある。パルテノン神殿みたいな列柱のある遺構だ。天井が崩れ落ちていたので、そこを補修し、内部の瓦礫は撤去していた。ビルにすれば三階くらいの高さだ。
そこの一室にベッドが置かれていた。
時空を自在に旅行する潜在能力を秘めた、否、時空そのものを未知のエナジーにより自在に変化させる能力を有する特異点少女・有栖川ミカは、寝台に寝かされていた。
「子づくり、子づくり♫」
耳の尖った若い男が四つんばいになって身体の上に乗っかっている。魔界王子ダリウスだ。みれば裸ではないか。意識を失っているところで、かどわかそうという気でいたらしい。すましていれば端正といえる顔なのだが、欲情がからむと途端に崩れ出す。目尻がたれて鼻の下がのびていた。した先を蛇のようにチョロチョロだし、ブラウスの第二ボタンを外しにかかっていた。乳房をあらわにして舐めようというのか。
いや~っ!
もがくのだが、身動きがとれない。
バルス。
と万能呪文を唱えたいところなのだが、猿ぐつわをかませられて、唱えられない。
そのときだ。
「色気づきおって――」
そこには巨体の老将が、立っていて、大剣の鞘で王子を壁まで弾き飛ばす。王子が、「糞」とつぶやいて、呪文のようなものを唱えようとするのだが、大剣が引き抜かれ、喉元にまで迫ってきているのでやめた。一言でも発すれば剣先は、次の瞬間に深々と彼の喉奥に刺さり、貫いてしまうことだろう。
老将の名はハーン。有栖川家一門食客が味方についたファア王国に敵対する北の大国・ジーン侯国随一の将領だった。階級は元帥。身長は二メートル近い。偉丈夫とはこういう人のことをいうのだろう。胸元まで伸びた白髭、銅札を連ねた鎧を着ている。
ミカは思った。
魔族の魔法は強力だけれど、将領クラスの人物になるとそういうものを弾き返してしまう。つまり「格」が桁違いなんだ。
そしてまた、この人の傍にいる限り安全だ、ということが直観的に理解できた。
白髭の将軍がいった。
「衣服を整えられよ」
「えっ?」
「陣払いする」
「陣払い? 侯国は王国を圧倒しているのに、なんで?」
「南方の蛮族討伐にむかっていた摂政内親王が北に引き返してきた」
「摂政内親王? 何者?」
衣服を整えている間、背を向けている。
ミカが衣服を整えたのを察した老将は歩きだす。
この人からはぐれたらアウトだ!
少女は元帥の後を追って小走りしだす。
魔界王子が裸のままで伸びているが、どうでもいいことだ。
将軍は自室の扉のすぐそばに置いた素焼きの球を大事そうに小脇に抱える。
「なんです、それ?」
「種が仕込だ鉢だ。侯国国号同じ名の花ジーンの花だ。白い大輪の花を咲かす」
「将軍は遠征先にそれを?」
「併合すれば同じ国民だ。同じ花を愛でるのもやぶさかではない」
建物の外に出ると、軍勢は陣払いの準備が整えられている。
南方の地平線のはるか先に、わずかに、砂煙が舞い上がっているのがみえる。ファアの援軍であるのは明白だった。強力な「気」が発せられているのが判る。
ハーン元帥は、ミカの手をとり四頭だての将領用戦車に乗せる。
「それにしても、王国と侯国はなぜ争っているのですか?」
「大陸にはもともとズウ朝という帝国がある。ファアはその南辺を脅かす敵対国家だった。ズウ朝支流たるジーン侯国は『盾』となっているまでのこと」
そういってから、将領は笑みを浮かべた。
「信頼できる者たちに、そなたを家まで送らせよう」
「えっ?」
ミカは異時空を自在に操るかもしれない潜在能力を秘めている。そのことを自覚している。ダリウスたち魔界衆は、自分の遺伝子を受け継ぐ子孫を欲しているようだ。将軍とてそのあたりの道理は知っているだろう。紳士的というよりも、あまりにも人がよすぎはしまいか。
元帥が兵士の一人に、命じて、スコップのような農具で穴を掘らせ、そこに、例の花の種を仕込んだ球を埋めてやる。
――花が咲くころに。
その人はいった。
一年後、元帥はまた軍勢を率いてこの地にやってくるというのか。
しかしさり気ない言葉には説得力があった。
02 ペット
ジーン侯国の大軍が北にむかって引き揚げてゆく。それを尻目に、「休戦」の意を表す一両の四頭立て戦車が南にむかって駆けてゆく。御者と戦士、ミカが乗っている。木々の枝がアーチをなした深いブナの森を抜けときのことだ。
「みつけたぞ、特異点の娘」黒衣の貴紳の声がした。
「みつけたぞ、特異点の」一つ目蝙蝠の声がした。
蝙蝠が旋回して、ミカの横に乗った戦士の鼻先をすり抜ける。
「おのれ!」
戦士は手にした長槍で蝙蝠を斬ろうとするのだが、巧みにかわされてしまう。ばさっ、と振り下ろしたところで、儀杖で背を叩き、彼を戦車から転げ落としたのは、黒衣の貴紳シモーヌだ。
御者が手綱を取りながら応戦する。
「魔族ども、ジーンの味方についたのではなかったのか?」
「侯国は撤兵した。もっとも同盟したのはうちの坊ちゃんと、そちらの将軍。私は私だ」
そういって、儀杖を相手がぶつけてくる長剣に重ねて火花を散らす。
剣というのはある程度離れていないと威力がない。シモーヌは、ぐい、と間合いに踏み込んでから、顔面に膝打ちを喰らわせる。堪らず、御者も馬車から転げ落ちていった。
御者は不在だ。
黒衣の貴紳は、ぱちん、と指を鳴らす。
するとどうだろう。御者の席のところに飛んできた一つ目蝙蝠が舞い降りると、御者に化けた。
「莫迦王子にくれてやるなどもったいない。ミカ、この私の妻になれ」
「えっ?」
すらりとした体躯で黒い髪を掻き上げている。シルクハット、燕尾服、外套、手袋、儀杖を手にしている。年齢は二十半ばにもみえれば五十過ぎにもみえる。しかしなんといっても特徴的なのは右眼と左眼が黒と青・金銀妖瞳であることだ。
黒衣のマントをひるがえし、ブレザーの乙女を包み込む。
きゃあ、吸血鬼~っ!
そこでまた、宮崎アニメからパクった万能呪文・バルスを唱えようとする。
だが声がでない。
肩を抱く黒衣の貴紳の唇が首筋に迫ってくる。
ミカは思わず双眼を閉じる。
あ、牙がでてるわ、きっと。吸われたら、女吸血鬼カミーラになっちゃうのよ、きっと。
そのときだ。
拳銃の銃声がした。
恐る恐る目を開ける。
サイドカー仕様のKATANAだ。隻眼の兎ギルガメッシュと、エンキドウが乗っている。
助けに来てくれたんだ!
ライダーのサーベルタイガーが操るサイドカーは、一度戦車とすれ違うと、街道の中でターンし、また追いかける。
コクピットの兎が、縁に片脚をだして、腕時計をむける。
すると右腕が三本の剣を束にして鉤爪状にしたダガーとなり、敵の儀仗と激しく打ちあい火花を散らす。
「隻眼の兎・ギルガメッシュ。卿がでてきたか――」
同一時空内にあるファア王国とジーン侯国の戦争当事者に加担することは、そこの時空間の歴史を改変することにつながる。ゆえに時空警察官たるギルガメシュッとエンキドウが介入する余地はない。しかし魔族が、時空特異点たるミカをかどわかそうとすることは、時空犯罪として特定できる。ゆえに二人の出番となった。
黒い貴紳が、儀仗を振り上げ、鋭い衝きを繰り出そうとする。
ミカは時空警察官二人がきたことで勇気づけられた。
なんか、声がでそう。
そして、バルス……と叫ぼうとした途端、地鳴りがした。
えっ、魔界執事? 違う。ザンギスじゃない!
白い巨象だった。
立ちふさっがそれに驚いた馬が驚き、戦車を横転させる。黒衣の貴紳、ミカ、御者に化けた一つ目蝙蝠は宙に投げ出される。瞬間、黒衣の貴紳はミカを手放した。隻眼の兎ギルガメッシュが跳躍して、ミカを抱きとめ、木を蹴ってサイドカー・コクピットに、すぽん、と収める。
助かった……。
黒衣の貴紳は、木々を蹴って宙に舞い上がる。
化けていた御者が、ふたたび、一つ目蝙蝠に戻って後を追おうとした。しかし、隻眼の兎が右腕のダガーのボタンに指を当てると腕時計となり、またボタンに指をやると鉤縄となった。それで蝙蝠を捕えた。
「ギルガメッシュ、そいつをどうするんだ?」
「ペットにでもするさ」
サーベルタイガーがサイドカーを停める。
白い象がひざまずき、そこから、青い服を着た貴婦人が降りてきた。
「貴女は?」隻眼の兎がきく。
その人は、フィルファと名乗った。隻眼の兎が手にしていた不気味な蝙蝠に手を添える。するとそれは白い小鳥になった。白い象の後ろから続々と馬匹四頭だての戦車が追いかけてくる。
平均的な背丈、しなやかにのびた四肢、黄金の髪、碧眼である。威圧するのではなく、慈愛をたたえた眼差しが印象深い。
摂政内親王フィルファ。幼い国王に代わって簾政を敷く人物だ。まだ若い。
カリスマって、こういう人のことなんだ。
サイドカーを降りて、一礼したミカはそう思った。
〈時空警察〉
●隻眼の兎ギルガメッシュ
●サーベルタイガーのエンキドウ
〈有栖川家〉
●ミカ:ヒロイン
●ミカの家族:パパ上、マダム、弟の剛志
●食客四人衆:信長公、蘭丸、ヒトラー総統、山下画伯
〈ファア王国〉
●将領:サートン、ナイカル
〈魔界衆〉
●魔界王子ダリウス
●魔界執事ザンギス
●黒い貴紳シモーヌ
〈ジーン侯国〉
●ハーン元帥




