15 機械化地竜部隊
竜騎国兵士によって群衆が十戒の如く割れ、その広々とした道を進んでくるものがある。
それを見て玲音は、
「うっわあ」
どん引きした。
「言っとくが、アレはもう実戦投入されてる」
「地上、こんなになってたのか……」
「何しろMCVにせよFVにせよ、ピストン輸送じゃ時間もコストも掛かりすぎてな」
かといって現地生産体制を確立するには、如何にも時間がない。装甲車両のうち火砲を有するものは重要拠点の警備のみに回しても足りないのが現状だ。
「輸送は航空戦力を優先にしたいし」
「で、これ?」
地響きと共に、それが玲音の目の前を通過する。
全長は十メートル以上か。
直立歩行をしているが故に、日が遮られる。
暗くなった視界、太陽を背に揺らぐ巨体を、玲音は半ば呆然と見送る。
「でか……」
鉄の軋みが聞こえる。それと、アクチュエータの作動音。
「機械の補助使ってる?」
「パワーアシスト・スーツの応用だ。飽くまで移動中の疲労軽減目的の補助。本来は必要ない」
護衛の陸自が告げるのも、半分聞き流す。
頭部にきらりと光る巨大な角。
ごつい、いかにも硬そうな甲殻に覆われた頭部。
明確な知性を宿した目。
それが一瞬こちらを見て、身震いを覚える。
「地竜の成体」
話には聞いていたが、実際に見るのは初めてだ。
基地から出ない生活をしていると、時代の変化に鈍感になる。
もしかすると霞司令は、単なるスパイとしてだけでなく、こういうのを肌で感じてこいと自分に言っていたのかもしれない。
日本からの空輸では到底間に合わない、陸上支援車両を代替すべく生み出された、機械化地竜部隊。
現在竜騎国に帰順する地竜、その成体となると数はかなり少ないと聞くが――
彼らの誇る巨体に、軍用車両の装甲を取り付け、FVの火砲をライフルのように持っている。グリップにあたる部分にはシールドが装着され、攻防一体の兵器であるようだ。
肩と腹に装甲が充てられている他、特に脚部には厳重な防護が施され、さらに左右腰部、脚部近くにハードポイントがある。ハードポイントには予備のチェーンガン一挺と予備弾倉が固定されていた。
その他にも見た感じ、いろいろとごてごて、武装をつけているようだが。
竜騎国の主力戦闘竜。
それぞれの竜は鱗の色、角の形を始め、かなり個体差がある。地竜にかなり大量の種類が存在するとは聞いていたが、現在目の前を通過する二体もかなり違って見える。体格差もあるようだ。
「にしたって……」
時間にすればほんの一瞬。
天を翔る鷲が、地を駆ける竜に出会った時間。
長い尾を擦りながら去って行く竜を見送りながら、玲音は忘我から帰還して、現実的な思考を取り戻す。
「悪趣味にも程があるでしょ。竜に兵器を持たせるって……」
「装着しているのは複合装甲、邪神竜の竜息にも耐えうる代物だ。といっても何世代か前の安物だが、それでも航空機の装甲よりは頑丈だな。火砲はFVの二十五ミリチェーンガンを手持ちに改造して、任務中のみ貸与してる形になる。外部動力は装甲に四カ所」
「手持ちに改造?」
呆れて笑う。
全くなんて馬鹿なことを考えるのだ。普通は二十五ミリの砲を手持ち用にするなんて頭の悪いことは考えない。
「主犯は?」
「戦自研」
やっぱりか、という顔。
「実際、戦果は悪くない。元々の鱗の高度に加えて特に脚部を重点的に防御することで、無力化されるのを防いでいる。陸戦型のよほど強力なタイプじゃない限り、ブレスにも耐えうる。ブッシュマスターの火力と、生来の能力である竜息、そして魔導。地上では敵うものなしだな」
「ふうん」
「過去、地竜の成体が邪神竜の竜息によって殺された例は少ない。多くは群れで集られて食い尽くされるという末路だったそうだ」
「やめてよそういうの」
「まあ聞けよ。ただ、竜息によって被弾し、手足を失って無力化されてから、という注釈が付く。つまりそれに対する保険だ」
全ての生き物は過去から学ぶというわけだ。
ちなみに竜騎国においても地竜用の甲冑は開発されてはいるものの、先述の通り、自分以外の魔力波を竜は嫌う。かといって竜騎国の技術は魔導関連が中心であるため、地球の複合装甲のような、鉄量と科学による武装が発達していなかったという現状がある。
そもそも、これらの道具に頼ること自体を誇り高い地竜族は嫌うのだが、今回は「これで殲滅するから、今回だけ飲め」ということに落ち着いたらしい。誇り高いが頑迷ではない。
「一〇式とどっちが強いの?」
「そら一〇式だわな」
「やっぱそうなんだ」
「戦車の歴史なめんなよ。まあ、魔導の存在を知らないという前提なら、多少の損害は出たかもしらんが」
「異世界との戦争史にならなくてよかったわけね、お互い」
全く、とそれでも未だに小さくならない地竜の背中を見つめながらうめく。
「防衛装備移転三原則はどうしたのさ」
「竜騎国の人類には一切、銃器の類は供与していない。これも貸与だぞ」
「ヒトじゃなけりゃいいって? エルフとかにはいいの?」
「エルフとドワーフ等、こちらで『ヒト属』だかなんだかに分類されている種族は、人類と解釈している。だが竜族は別格なんだ」
「別格というと?」
「それは――」
「――竜族は、超越種ですからね」
護衛の陸自に被せる形でかかった声に、玲音は半歩静かに引いた。陸自のほうは微動だにしない。
「ああ、失礼しました。ジエイタイの方と見て、ついお声を掛けてしまいました」
にこやかな顔で挨拶してくる童顔の男。
異世界の他の商人たちと同じく長衣を身につけているが、自衛隊を遠巻きにしがちな異世界人達の中で、自ら自衛隊に、しかも日本語で話しかけてくること自体が既に異常だ。
「アーバイン輸入商会のウェルク・アーバインと申します。よろしくお願い致します」
はいすいません。
趣味全開です。
これがやりたいためにいろいろ御託を並べていたというね。
ちょっと弾切れなので、補充します。またしばらくお待ち下さい。
しれっとタグ追加したりしてるという。
(´・ω・`) 秋刀魚缶詰にするの忘れてた。