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13 戦争と健康

すいません、めっちゃ寝てて更新忘れてました。

 チヌークに揺られること数時間。


 玲音はその間ずっと眠っていた。全く空の上で眠れるなんて、贅沢なことだ。

 日頃の疲れがたまっていたというのもあるが、どうせ現地で見たものを報告する必要があるので、体力を温存しておこうと思ったのだ。


 肩を叩かれて目を覚ますと、凶相の異世界軍人の顔が間近にあった。エンジン音に負けないように大声を出す。


「ワシズ二尉、到着しました」

「ああ……ディルムッド大尉、ありがとうございます」


 軽く伸びをしている。まだ着陸はしていないが、ヘリの揺れ具合からファイナル・アプローチに入っていることは知れた。玲音は何気なくシートベルトを確かめてから、横目でこっそりと竜騎国軍人の装備をあらためた。


 自衛隊と協力体制を築くようになって、彼らの装備はその大半が一新された。衣服は迷彩の上にエルフの外套、軍帽もベレー帽に変更され、何より携行する装備が違う。豊和工業製のボウガン、一五式機械式連弩ヘルシングを担ぎ、腰にはシース付きのコルト社製・多目的軍用斧タクティカル・トマホーク

 見た限りではいかにも旧態然とした装備だが、しかし彼らには魔導がある。それらを加えて換算すると、そこまで地球に遅れているわけではない、というのが現在の分析だ。実際に戦闘を見たことは皆無に等しいため、何とも言えないが。


 だからこそ、なのだろう。

 ヘリの中をさっと見渡すと、迷彩服に身を包んだ陸自隊員の他に、明らかにカタギじゃない奴が混じっている。市ヶ谷だろうなと玲音は想像。根拠は今回の任務が「戦争」を観察しに行くものであるからだ。


 戦争はどこの世界でも同じように、その国の持つ「戦場に出せる限りにおいて最新のテクノロジー」が投入される。だからこの世界においても、相対戦は基本、当事国の人間しか観戦は許されない。身分証などもがっちり確認されるし、事前に予約が必要になる。身辺調査も行われるだろう。


 日本が今回、この相対戦に招待されたのは異例中の異例と言って良い。相手国も了承しているらしいが、さて。


 CH-47、タッチダウン。

 ローターの風が止まない中、竜軍も自衛隊も慣れた仕草で地面に降り立つ。玲音は寝ていたせいもあって少しふらついたが、そこを迷彩の腕が支えた。ディルムッドだ。


「すいません」

「いえ、こちらも差し出がましい真似を」


 という遣り取りを交わしたと思う。ヘリの轟音で聞こえなかったが。

 降り立ったのはどこまでも無限に続くかに思える平地。


 最外壁領からさしたる距離はないはずだが、ここから先はずっとこんなだという。地質もあまりよくないため持て余していたのだが、国家間戦争が相対戦によって行われるようになってからは、こういった場がかえって重宝されるようになった。


 とはいえ、いいことばかりとも言えない。

 要するにここは最外壁領から邪神竜が飛んでくる可能性が十二分にある地域でもあるのだ。だからこそ陸自を派遣しているし、空自もいつでも飛び出せるようにスタンバイしている。


 もっとも、と玲音はため息。


「ルール化されているとはいえ、戦争中の邪神竜災害に、自衛隊が介入していいものかどうか」

「その辺は何とも難しいところだな。上からの指示は「うまいことやれ」とのお達しだ」

「要するにいつも通りと。無茶ぶりに応えるのって、もう自衛隊の伝統芸能だよね」


 隣の、表向きは単なる警備任務だが、実際は玲音の護衛担当である陸自隊員と揃って肩をすくめる。玲音は体力づくりを目的として陸自の訓練にたまに参加しているので、顔見知りは多い。


 異世界交流を始めてからの自衛隊の変化のひとつが、最外壁領における陸自と空自の親密化だろう。自ずと訓練相手が限られるため、陸自との関係も深まった。陸自は数が多いため既婚者がどうしても入らざるを得ず、自然、空自より平均年齢が高い。若い空自隊員が、陸自隊員を相談相手として見ている空気はあった。


 地面に降り立った玲音は自分の服装を軽く整える。長く座っているといろいろ乱れるのだ。


 休暇中という名目なので、常装でもなければフライト・スーツでもない。

 ノーブランド無地のTシャツ、PXで買ったジーンズ、戦意昂揚のために《リーダーズ》のエンブレムを入れて作られた愛用のフライト・ジャケット。

 下着も含めて、見事に基地内部だけで完結しているなあと自分に呆れながらも、左脇の重みを意識する。


 やれやれ、何だってこんなことに。一応、周囲の陸自隊員の一部は知っているが。市ヶ谷(公安)も承知しているだろう。下手なことは出来ないというわけだ。全く空将補にしてやられた。

 愚痴っぽくなっていく思考をつらつらと泳がせながら、観光団体よろしく団体で即席の着陸ポイントを離れる。


 ディルムッド達は担当区域があるため、すぐさま別行動になった。


 やがてにぎやかな人だかりが見えてくる。

 広々とした平野にずらりと並ぶ屋台の群は壮観だった。肉に根菜、揚げ物に焼き物。懐かしいようでいて初めて嗅ぐ食べ物や油の匂いに、玲音は口の中に唾が出てくるのを自覚。


「ここの屋台って食べられるの?」

「屋台は食えないな」

「殴るよ」

「冗談だ。それは美味いって意味か? それとも安全的な意味か?」

「両方かな」

「安全面はほら、アレが貼ってある店は問題ない」


 隊員が示した先に目をやれば、鉄板の上で見慣れない肉を焼いている屋台には何かの証明書が吊られていて、よく見るとそれは日本の店舗でもよく見かけるアレであった。


「あー……ああいうのがあるのね」

「暫定処置だけどな。とりあえず内閣府だのなんだのの機関に認められた店舗には日本語の証明書が置かれることになってる。まだ異世界と交流して少ししか経ってないからな、気になるならそういう店を選んでおけ」


 既に日本向けの食品安全基準を竜騎国は採択しているが、何しろ異国ではなく異世界。今は慎重にすべきとのことで、こういう不便とも言える体制になっているらしい。


「私はそうさせてもらおうかな。で、味は?」

「店による」

「だよねー」


 こういう時、美也なら答えはテンプレだろうな、と思いながらも、トルティーヤによく似た、焼いた麦っぽい生地に薄く切った肉を挟んだものを選ぶ。野菜は避けた。


「サーマディとか言うらしい」

「ふうん」


 誰が翻訳したんやと思いながら、がぶりと一口。美味い。


「うん。いいじゃない」

「あそこの酒も飲める。あれは美味いぞ」

「お酒は飲まないの」


 玲音は食に関しては驚くほどに保守的なところがあり、このような冒険は滅多にしない。宿舎の食堂以外で食事をするところは決まっているし、基本的にチェーン店舗以外では食べない。


 そして酒は全く飲まない。


 自分にはパイロットとしての才能は不足していると思う。だからこそ、少しでも視力を落とす要素のあるアルコール類は極力避けている。新人の頃の歓迎会でも頑として断ったし(それで先輩の機嫌を損ねたこともある)、今でもよほどのめでたい席でない限り酒は口にしない。

 ヒステリックに健康を求めているわけではないが、少しでも長く飛びたいと思うならば、今からしっかりと自己管理をすべきというのが玲音の持論だった。


 が、そんなだからこそ、たまにこういう食べ方をするとえらく美味い。味は牛肉に近い、少し甘い風味。ソースを効かせすぎないのがいい。素材の味がよく出ていて、それがまたいいのだ。というか、素材自体の味が結構濃い。


 ふむふむ、と頷きながら、陸自の迷彩服に混じって通りを歩く。警備活動の一環とはいえ、玲音は休暇の身。ここで変に遠慮しても仕方ないのだ。とはいえ、陸自からは恨めしい視線が飛んできているので、仕方なく飲み物を人数分買ってきて差し入れ。まあ礼儀というものだろう。

 そんな風にして屋台通りを抜けながら相対戦の場所へと向かう。だんだんと軍服の姿が多くなるが、商魂たくましく兵士たちに声を掛ける商人の姿も多く見られる。


「ファンタジー的には当たり前だけど、スーツじゃないんだよね」

「軍人には詰め襟の軍服があるんだが、民間はな。これが政府機関になってくるとまた違う。基本的には長衣が正装らしいが」

「どこまで近代化してるのか、いまいち分かりにくいよね」

「仕方ないだろう。地球とまるで違う歴史を歩んできたんだ。少なくとも、ここの五百年と地球の五百年はまるで別物だ」

「確かに」


 護衛の自衛官がまじめくさって言うのに同意。

 どちらが正常な成長をしたってことはないだろう。

 世界危機が五百年続く異世界と、冷戦の狂気が四十五年続いて、いつ惑星ごと終わりを迎えるか分からなかった地球。どっちもどっちだ。


「一応、それっぽい服装はある。ほら、あの連中が着ているのなんかは民間におけるビジネス・スタイルだぞ」

鉄血のオルフェンズ、面白いですなー。

設定に整合性を求めるとつまらなくなるけど、それっぽい説明を入れるだけでこんなに面白くなるんだなあと、単純に見ても、設定面から見てもたいへん面白いです。

弁当箱に隙間があると寂しいけど、理詰めで栄養剤詰め込まれても美味しくないと申しますか。ちゃんと美味しくて見た目のいいものを入れてくれてる感じがとてもいいです。


あ、俺、アトラ派です。

ヒロイン対決、まだどうなるか分かりませんね。


次は来週に投稿します。

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