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10 対竜戦闘04

そろそろコメディタグを消して別のにすべきじゃないかと本格的に悩むなど。

 美也はこういう時、玲音より集中しすぎるきらいがある。

 そのため、編隊長資格を持っているのに、玲音のほうがリーダを務めることが多いのだ。


「周辺警戒、グラム2」

『了解……って嘘――』


 が、実は視力は美也のほうが上だ。彼女は真昼の星が見える類の人種である。


 玲音、確認するために翼を傾けた、その瞬間。


 何故か脳裏に走るイメージ。


 ――お前は撃墜された。


 太い男の声。

 それを一瞬の記憶として思い出した瞬間、


「ブレイク、ブレイク!」


 叫びながら玲音はペダルを力任せに蹴り、操縦桿を思い切り傾けた。

 ぐ、と凄まじいG。

 瞬間、玲音が先ほどまでいた空間を、黒い影が擦過していった。


『シックス・オクロック!』


 美也がまたしても叫ぶ。


 その時には玲音も敵を視認。


 玲音機と美也機のちょうど死角から上がってきた、黒い影。


『ピクシー、地上の奴が上がってきた!』


 急旋回により、イーグルのフライ・バイ・ワイアが機体制御を行う。

 だが後部上方を占有された状態で、竜息を食らえばまずい。


 玲音、咄嗟にフライト・システムの自動制御をオフ。

 そのまま急旋回を続ける。


 途端。


 翼が風を掴み損ねる感触。


 翼が、滑る。


 機体がぐるっと回るようにして、


 空が急激が勢いで巡り出す。


 機体のバランスを意図的に崩しての失速。


 ディパーチャ。


『ピクシー!』

「なんのっ」


 だが背後の邪神竜から逃れるためには、必要な動作だった。

 これによって発生する不規則動作。


 敵はこちらを見失ったはずだ。


 突然玲音が視界から消えたように思えただろう。

 失速というのはそれだけ唐突な機動なのだ。


 玲音、錐揉み落下の状態から、一瞬だけ意識を切り替える。


 深呼吸。

 その間にも高度計はどんどん下がっていく。


 落ち着け。

 まず冷静になること。

 失敗しても飛行機と死ねるなら満足だろう?


 そこまで考えると、すっと頭が冷えた。


 操縦桿を柔らかく握り、そっと僅かにペダルを押し込む。

 二〇〇〇を切っていた。かなり危険。


 だが、ゆっくりと錐揉みから回復。

 地上の模様がはっきり視認できるところまで落ちて、そこから機首がやっと上がった。


 とりあえず一息。


 だが問題は一度発生すると次々起きるものだ。


「やべ、片肺止まってる」


 エンジンのトラブルを確認して青ざめる。


 右のエンジンが故障していた。

 さっきの錐揉みでオーバーGをかけたか。


『ピクシー! 上! 上!』


 さらに美也の警告。


 うるせえなと思いつつ、もちろん何が起きているのか想像していた玲音はキャノピィを振り仰ぐ。


 流線型のポリカーボネイト越し、こちらを再補足したのだろう、最小のループを描いて翼を畳み、一散に滑り落ちてくる影を見つける。


 ああ、あの無駄のない動き。


 不覚にも美しいと感じてしまう。


 あの自由さは流石に、イーグルとて真似できない。


 この鋼鉄の翼では。


 憧憬にも似た感想を脳裏に描きながら、玲音はそれでも姿勢の制御で手一杯だった。フライト・システムをオートにしようか迷うが、突然オフになったシステムがこの状況をどこまで認識しているかが迷いどころ。下手をするとエラーを起こして墜落しかねない。コンピュータを信頼するか、自分の腕を信じるか。


 玲音は後者を選んだ。

 どちらにしても十分な高度を取り戻してからにしたかった。そして自分にはそれが出来ると判断した。

 だが高度を失い、エンジンが一発死んだ状態で、しかも姿勢が不安定な玲音に、邪神竜の再度のアタックを躱す術はない。


 ――さりとて、もちろん諦めたわけではない。


 玲音が取った行動は、たった一つだった。


 たったひと言、呟く。


「バステト、悪い、お願い」

『もう背後に着く』


 見上げる視界、邪神竜の紅い眼が見える。そのくらいの距離。

 だが美也機が既に背後を取っている。


『フォックス・ワン』


 フォネティック・コードを、美也のコケティッシュな声が唱えた、その一瞬前。


 聞こえた警告音に、玲音は目を見開いた。


「は?」


 が、それも一瞬。


 真上まで迫ってきた邪神竜の背に、美也の放ったセミアクティブ・ミサイルが着弾。

 びちゃり、と血と肉片が玲音機にかかった。

 またかよ、と思った時には、頭上を覆う影は消えてなくなっていた。


『スプラッシュ・ワン』

「ナイス・アシスト。グッキル」


 美也機、わざわざ玲音の横に並んで、一回ローリング。

 ヴィクトリー・ロールだ。


『他に敵機はなし。――グラム1、機体は?』

「ちょっと待って、高度を少しずつ上げる」


 程なくして、高度は回復。

 エンジンは片方、死んだままだが、問題はなさそう。


 そこまで確認して、フライト・システムをオートに。

 正姿勢で再び蹴り起こされたコンピュータはやや目を回しながらも、すぐに現状を把握。

 安定した飛行を玲音に提供してくれた。


 やっと息を吐く。


 玲音はどうしても確認しなければならないことがあった。

 

「グラム2、今の戦闘モード、ドグファイト・モードだった?」

『はあ? あんな僚機が近いのに、そんなことするわけないでしょう』

「だよね」


 嫌そうな声色に気づいたのか、美也が問うてくる。


『何かあった?』

「無線では話さないほうが良さそう。戻ったら教える。――司令部にも報告しないと」


 美也がミサイルを発射する直前。

 玲音のコクピットに鳴り響いた、あれは。


 RWR(レーダ警報受信機)の警告音ではなかったか……?

E-4進まねえよお……一歩も進まねえよお……

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