07 対竜戦闘01
長らくお待たせしました。
午後からはフライト。
玲音と美也の二人は、イーグルで指定空域における訓練を行った後、最外壁領の危険地帯――即ち、邪神竜が発生する区域であるエリアD-31(邪神竜発生が確認された箇所の一つ)、通称『未踏査区域』に飛行するというプランだ。
その場での偵察飛行および、データ収集用に設置された観測機器からのデータを受け取る任務を行う。
そのため、彼女達のF-15のパイロンには、満タンの対空ミサイルと増槽の他、ノースロップ・グラマンの偵察ポッドが装着され、偵察と情報通信との両方を担っている。
時刻は竜騎国標準時間で一六〇〇。
山裾に位置するのだが、最外壁領の風はいつも弱い。
二機、やや低空を経済巡航速度で飛行。
異世界の空にイーグルの轟音が、声高らかに鳴り響く。
玲音は編隊長としてやや先行しながら、時折翼を傾けては各所を目視で確認。
もちろん、対空レーダやルックダウン・レーダは機能しているが、邪神竜の黒い体は、可視光を含めた電磁波を吸収する特性があると近頃判明した。そのため、レーダに頼り切りにならず、こうしてパイロットの目で周辺を確認する必要があるのだ。
高空に関しては、警戒機や基地が複数のレーダ波で網を張っているため、主に山陰に隠れる地上が監視の目標となる。
くるりとローリング。
背面飛行。
翼の各所を巧みに、フライバイワイアが操る。玲音の意思を反映して、背面のまま高度を維持。
「うーん」
『ピクシー?』
「よいしょ」
告げてから、コントロール・スティックを傾けて正姿勢。
それから玲音は大きくバレル・ロール。
美也機の視界をくるくる回りながら横切り、下方に消える。
そのまま僚機を下から見る位置に就く。
「美也、下にいるよ」
『あんたねえ』
ぼやきながらも付き合いはいい。
ローリングしようとしたのだろう。
玲音が見ていたのは主翼と水平尾翼の舵。
それがクン、と動いた瞬間を狙い、玲音は再びローリングしながら上昇。
『お?』
「見えないでしょ」
回転に合わせて美也の死角を維持。
一瞬で5Gほどがかかる急激な機動だったが、相棒を驚かせる程度には使えるようだ。
「翼を見る余裕がいつもあればね、こんな真似も出来るんだけど」
『まだまだひよっこです』
『あー、こちらDC。グラム1、遊んでないでポイントに向かってくれ』
「速度は落としてないですよ。でも了解」
ほどなくして、ビーコンの発信地点を目視。
そのままゆっくりとスパイラルに入れて上空に待機する。
この世界にはGPSはない。パイロットたちは自機に搭載されたささやかな航法装置と自分の目、方向感覚を信じて飛ぶしかない。
徐々に目印としての鉄塔などは打ち立てられているが、それでも音速で飛んだ場合はそれらの印を見逃す可能性は高く、実のところ玲音たちにとって最大の課題は邪神竜そのものよりも、「自分が今どこにいるのか見失わないこと」だった。
だから地球にいる頃よりもパイロットが言うことを聞いてくれる、というのは、管制官の余談。
「グラム1よりDC。ビーコン確認。順調にダウンロード完了」
「ツー。こっちも受信した」
『よし、帰投してくれ。寄り道はするなよ』
「了解。――と言いたいところだけど、ちょっと待った」
『どうした?』
「レーダに感あり。不明の飛行物体を感知した。……消えた」
「一瞬だけどこっちにも見えた」
「消えたってことは、邪神竜の可能性が高い。これよりグラム隊は対竜警戒行動に移る」
『了解した。DCより、武装の使用を許可する』
武装使用許可が即座に出ること自体が、ここが地球ではない何よりの証拠だ。
異世界進出当初、武装の使用許可が遅れたことから生じたF-15の損耗が一度だけ発生した。
その直後に着任した霞空将補が最初にやったことは、武装制限解除の申請の簡略化、その申請と権限の譲渡だった。
無論、政治レベルではさまざまな折衝があったようだが、それは玲音たちには関係のない話。ともかく、異世界における戦場では、あらゆるものが高速化され、効率化されていく。
機械部品の調達から、人員の交替まで。アメリカ軍に比べれば(比べること自体がいろいろ間違っているのだが)まだまだ動きが鈍いという指摘は聞くものの、がんじがらめの制約の中で戦ってきた自衛隊員にしてみれば十二分の対応速度を見せている。
玲音、武装のロックを解除。
「同士討ちには気をつけろ」
「わかってます」
すいません、長らくお待たせしました。
数日ほど連投します。
多分こちらのほうが、私に合ったやり方なので。
書き溜めた分が尽きたら、また書き溜めます。
ではお楽しみくだされば。