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03 新装備

只<待たせたな!

 最外壁砦駐屯地の一角、射撃訓練場。


 銃声とは異なる射撃音が重なる中で、ディルムッドは手にした武器を解体し、一から組み立てるという作業を部下に繰り返させていた。自身も既に一挺組み終えている。配備が開始されてふた月ほど経つが、習熟は順調と言って良い。


「六四式小銃は、元々部品数の多いアサルトライフルということで不評を買っていました」


 黒光りする銃身を持ち上げ、傍らに立つ自衛隊の士官の説明を改めて聞く。


「ですが、これは部品数が必然的に減りましたから、その分整備性は向上しています。値段も海外輸出向けということで、相当下がっていますし」

「部下達の評判も大変良いです。良い武器だと思います」


 ディルムッドは答えざま、訓練場の定位置に立つ。銃身に付けられたハンドルをきりきりと巻き上げる。弦が張り、滑車が動き、矢が装填される。ここまで六秒ほど。


 ハンドルを外し、スコープを覗き込み、安全装置を外し、照準を合わせ、引き金を引く。


 軽やかな音と反動とは裏腹に、カーボン製の矢が空を切り裂いて飛び、的のほぼど真ん中に鈍い音を立てて命中した。


 続いてコッキングレバーを引く。ギミックが稼働し、銃身下部に六本並べられていた矢が回転、うち一本が新たに弓の台座に装填される。今度は滑車の稼働量が少ない。

 そのまま引き金を引く。発射。先ほどより命中時の音が小さい。威力が低いのだ。


 構わず、コッキング、再装填。撃つ。射撃間隔は、習熟すれば一秒未満に短縮できるはずだ。


 五発全てを撃ち終わったところで、六本の矢を束ねたシリンダーを自衛官が差し出してくるが、丁重に断る。


「良い武器です」


 改めて言う。


 一五式機械式連弩、通称“ヘルシング”。

 六四式小銃をベースに豊和工業が開発した、『軍用ボウガン』である。


 設計にあたってはアメリカ、PSE社のクロスボウ、TAC-15を狩猟用として購入し、参考にした。

 六四式小銃は製造こそ終了していたものの、当然設計図はあるため、それらを参考に弾丸の発射機構および排莢機構を排除し、代わりの矢の発射機構を追加して再設計した。


 特徴としては今し方ディルムッドがして見せたように、二種類の射撃機構が存在するという点。

 付属のハンドルを回して弦を巻き上げると、高い命中精度と威力で矢を射ることが出来る。

 代わりにコッキングレバーで装填を行うと、弦の巻き上げはやや甘いが、早いペースでの連続射撃が可能となる。


 そして何より、六発+一発のシリンダー式装填機構。いちいち矢筒から矢を取り出す必要がないため、既存のボウガンより速射力が高い。


 上記二つのモードはセレクタで選択することが出来、当然ながら六四式そのままの『アタレ』の表示である。


「それに、六四式で火薬弾を連射していると、部品の脱落が起きることが常々問題視されていたのですが……ボウガンだと、反動もたいしたことはありませんから、その問題はほぼ考えなくていいです」

「僕としては、そんな武器を使っている自衛隊のほうに驚きを隠せませんでしたが。アメリカではそんなことはないと聞いていますし」


 あまりに直球な言葉に、しかしもうディルムッドと親しいと言って良い間柄の自衛官は苦笑を返す。


「まあ、自衛隊は世界でも特殊な構造の軍事組織でして……武器の開発ひとつにも、いろいろとしがらみがあるんですよ。他の国とは質の違うしがらみが」

「うんざりしますね、そういうのは」

「全くです。――おっと、今のは聞かなかったことに」

「何の話でしょうか」


 こうした軍人同士の特有のジョークに互いに笑い合ってから、ディルムッドは試射をしている部下に声を掛ける。


「どうだ?」

「いいですね。前回の試作品より構造がさらに単純になってます。命中精度も、今まで使ってたM92より遙かにいい。これはいいですよ」

「一応、あれも最新鋭の武器ではあったんだがな。ともあれ、習熟に勤しんでくれ。これまで以上に衆兵アーミィの力が必要とされている。これは出世の好機だぞ」

「はっ」


 自分が撃つ楽しみはこれくらいだ。ディルムッドはヘルシングを、弦を外し、安全装置を掛けてから卓上に置く。


 日本には武器輸出三原則改め、防衛装備移転三原則なるものがあり、これらの武器を輸出するにも悶着があったと聞く。何でも自衛隊では、地面をほじくり返す重機ひとつ取っても武器と見做されるらしく、例え地球において軍事用の武器としてほぼ使われなくなったボウガンであっても、武器となるものを輸出するのは如何なものかという話があったようだ。


 結論から言えば、「既に竜騎国はボウガンを持っており」、「これはその改造案の試作品である」というかなり強引な解釈で以て輸出を通したらしい。拡大解釈が日常化してしまえば規則は形骸化するから、そうなる前にきちんとした枠組みを作るべきだと思うのは外野の意見だろうか?


 ともあれ、その建前があるため、竜騎国に送られたヘルシングは一〇〇挺に満たない数であった。だが工業技術においては実は地球と同格である竜騎国の工業界は即座にこれのライセンス生産を開始。現在では、政治的な理由から竜騎ドラグーンが最優先ではあるが、最外壁砦の衆兵には十全に行き渡ったと言って良い。


 その性能は申し分なく、兵からの評価も概ね高い。

 また、訓練を受けた弓兵には米製のコンパウンド・ボウが支給され、これもまた、その威力と命中精度で兵達を驚かせている。


 もっとも、現段階で問題が発覚していないわけではない。


 ヘルシングにせよ、コンパウンド・ボウにせよ、発射体となる矢が非常に高価なのだ。


 六四式小銃に使用されている弾丸、7.62x51mmNATO弾は、正確な金額は防衛機密になるので教えてもらえなかったが、自前で調べたところ、五〇発でおよそ一六〇〇円。

 それに対してヘルシングに使用しているカーボン矢の値段は、三本で二〇〇〇~四〇〇〇円。

 コンパウンド・ボウに至っては、一二本で四万円もする場合があるらしい。現在は何とか安い仕入れ先を見つけたようだが、弾丸に対してあまりにも費用対効果が壊滅的と言わざるを得ない。


 この差は大きいというよりもはや法外だ。矢は確かに回収して再度使用出来るものだが、果たして戦場でその機会が訪れるものかどうか。

 そのため、部下達には矢を大切に扱うように命じてはいるが、どうしても訓練中の破損などによる損失は免れない。これをなくせと言えば、今度は訓練そのものに部下が萎縮してしまうだろう。まあ、値段を聞いた段階で十分萎縮してしまっているのだが。大切に扱ってくれるのは結構だが、実戦の折には遠慮無く撃つよう、常に薫陶しておく必要があるだろう。


「しかし、やはり銃は欲しいですね」


 聞き入れてもらえないのは承知で口に出す。


 自衛隊の持つ八九式小銃は、石造りの壁ぐらいなら楽々貫通する威力を持つ。弾頭をフルメタル・ジャケットにすればさらに貫通力は増す。それは当然、陸戦型邪神竜に対しても高い効果を発揮するはずだし、地上に降りたところを狙えば、空戦型の鱗など間違いなく撃ち抜けるだろう。何より、魔導の才がなくとも、モノがあれば習熟可能なのが大きい。


 それが分かっているから、自衛官も渋い顔をした。


「そりゃ、あなた方が銃を持ってくれれば、頼もしい限りですがね。ただ銃を輸出するだけなら兎も角、『銃を持っていない国に銃を初めて輸出する』のは、意味合いが全く違ってしまうんですよ」

「僕らの世界でも、一応、銃は開発されているんですがね」


 といっても、五〇〇年以上前の話だ。当時開発された火縄銃マッチロック・ガンは精度が低く、手間もかかり、とても実戦で使いうるものではなかった。もっとも、日本の歴史書を漁っていて、火縄銃の陣を三段構えにするという運用を知った時には笑いが止まらなかったものだが。自分が五〇〇年前にその戦術を知っていたなら、きっと歴史は今とは全く違う形になっていただろう。歴史にイフは存在しないが、その想像は面白くあった。


 それでも時代が進んで工業技術が向上すれば、再び銃器を開発しようという流れは生まれなかったわけではない。

 それらは全て、既に世界における権力を不動のものにしていた各国の魔導師達によって悉く禁止・制圧された。彼らは聡明であるが故に、それが自分達に向けられた時の脅威を予測していたのだろう。


 だが賢明なのかと言われれば。

 結果として人類の進化を阻害したとも言える。少なくともディルムッドはそう受け止めている。事実としてこれまで、軍組織で最も数の多い衆兵はまるで役立たずの無駄飯食らいであったではないか。国によっては衆軍を解体したところもある。結局、今の戦況を動かすのは、ボウガンしか持たない衆軍ではなく、戦術魔導士達なのだ。もしも衆軍の手に銃があったならば、邪神竜に対する多大な力となるであろうに。竜騎国の戦術魔導師組織たる王立図書館は、未だに銃器の輸入も製造も認めてはおらず、国政を大きく変えてしまいかねないその提案を、日本政府も積極的には切り出せないでいる。


 もちろん、両国民には秘密ではあるが、自衛隊の制式装備である六四式小銃および八九式小銃の射撃訓練は、竜騎国軍(最外壁砦のみだが)にも行わせている。いざというとき――つまりは周囲の自衛隊が壊滅し、竜騎国軍のみが残った場合だが――、銃を手に最後まで諦めることなく戦えるように、という意図からの訓練である。


 ディルムッドは射撃場屋外に出ると、ポケットから煙草を取り出す。『SHINSEI』と書かれた黄色の包装の下側を破り、そこから一本引っ張り出した。不潔な、泥沼の戦場にいたことを示す習癖だ。軽くその辺の台で先端を叩いてから、口に咥える。

 すると、自衛官が気を利かしてライタで火を点けてくれた。ディルムッドは礼を言い、箱を差し出すと、彼もまた一本取り出して自分で火を点けた。


 日本との貿易が開始されてから、意外なほど売り上げ数を伸ばしているのが、日本ではすっかり販売数が減っていたこの煙草だ。フィルタをつけるのが当たり前になっている日本販売の煙草の中で、数少ない両切りであり、その素朴な味が竜騎国の兵士達に頗る評判が良かった。しかも安い。今では衆兵の大半がこれを喫っている。竜騎は航空自衛隊の指導により、喫煙を控えるように言われているが、禁止されているわけではないので幾人かは愛飲しているらしい。


 轟音に空を振り仰げば、赤い片羽を持つ灰鷹が、基地に帰還するところだった。そのパイロンのミサイルが減っていないことを確認し、呟く。


「今回は空振り……しかし、確実に交戦回数が増えていますね」

「ええ、本国でも、イーグルを増産中です。来たるべき決戦に向けて、出来る限り数を増やそうと。しかし、なかなか思い通りにいかないのが実情で」

「それはこちらも同じです。日本の助力を得られたということで、各国が竜騎国への出資を渋り始めています」


 竜騎国上層部もまた、まるで事態が解決したかのように海外との権力闘争をまだ続けている。こんなことは希望と慢心の時代以来だ。そこに危うさを感じずにはいられない。


「解決すべき問題は山積しているというのに、残された時間はあまりにも少ない」

「そうですね。日本もそれは同じです。今この瞬間も、恐らくは」


 ディルムッドは軍帽を被り直し、別の空を見上げる。その先には日本へと繋がる〈空門ゲート〉が、静かにその威容を虚空に漂わせていた。

お久しぶりで御座います。イーグル・プラスめに御座います。


まあちょっと数件トラブルを抱えておりまして、遅くなりました。なお、まだ一個も解決しておりませんので、亀更新が続きまする。ご了承くださいませ。

また、更新が停止している間も、見に来て下さった方々がいらっしゃったこと、申し訳ない気持ち以上に、本当に励みになりました。本当にありがとうございます。


なお、たいへん申し訳ありませんが、しばらく頂いたご感想への返信は控えさせて頂きます。何しろあのようなことがあった後ですので……この上、私にとっての憩いの場である小説執筆がまた阻害されるようなことがあると私が辛いです。

もちろん感想そのものはきちんと読ませて頂いておりますし、参考にもさせて頂いております。大歓迎で御座います。


とまあネガティブな書き出しをしちゃいましたが。

実際読み返してみると趣味に走りまくっているなという感じです。いいじゃないですか、日本の技術で改めて作ったボウガン。浪漫があるじゃないですか。

なお、突っ込まれる前に書いておきますが、竜騎国は地震がほぼ皆無の国なので、建築技術は未熟です(日本が異常とも言う)。

日本の、「津波さえ来なきゃ大丈夫」って一体どんなだよっていうね。

日本の建築物って、爆破解体出来ないらしいですね。やろうと思うと周囲に被害が出る規模の爆薬が必要だとか。その辺調べるのも面白いものです。

他にも日本のアーチェリー道具の値段が高騰しているとかね、いろいろと知らない世界の話を調べるいいきっかけになりました。手出しすることは出来ないんですけど。弾丸より矢が高いって、昔は想像もつかなかったんだろうなあ。いや、そうでもないのか? 弾丸そのものは安かったのか。今度調べてみましょう。


以後、ボダブレ話。

A上位に上がると、敵味方共に動きがダンチになりますね。マップによるセオリーが完全に変わるので、支援などは只の置き場所を考えるのが楽しいですね。

それはそれとしてホープサイド。

何であんなにメガロパイクでヒャッハーしてる人多いんや……おかしいやろ……

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