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02 最外壁領

 滑走路。


 現在、《ゲートキーパー・リーダーズ》最外壁砦駐屯地の滑走路は四本までが完成しており、あと二本が現在工事中である。保有機数二〇機のF-15J(うちF-15DJ二機)、訓練機が少々、E-2C等の支援機、そしてF-4EJファントム及びRF-4が配備されている。


 二〇〇機強しかないF-15をよくここまでかき集めたものだと感心するが、高価なF-2は、ここしばらく不穏な動きを見せる海外、特に大陸に対して海洋防衛の要となるために、異世界に配備することは出来ないため、やむを得ない措置でもあった。単発エンジンであることも大きな理由であった。生存性・生産性の高いF-15が適任だったのだ。トラブルなどで飛行停止になるリスクはあるが、それに備えてのF-4である。次期主力戦闘機・・・・・・・であるタイフーンは、トランシェ3の完成が機体トラブルによって遅れたため、導入は当分先になるだろう。


 いくら太平洋側、日本を囲むように米軍第七艦隊が展開しているとはいえ、それらは飽くまで「世界に災厄が飛散しないための最後の壁」として駐留しているに過ぎず、万が一大陸・半島から何らかの変化が生じても、必ず動いてくれるとは確約できず、日本側も防衛力を維持しておく必要が当然ながらあった。とはいえ、その第七艦隊の存在があるため、大陸もあまり大きな動きは出来なくなったのが実情である。もし自衛隊機と間違えて米軍機に挑発行為を起こそうものなら、やや内角を狙って抉り込むように殴られるのは目に見えている。


 結論としては、いくら損耗した場合の回収が難しい異世界とはいえ、戦力の投入をけちって地球への侵入を許せば、言い訳は効かない。そうなれば海外の軍勢が日本を経由して進出してくるだろう。その際にどんなトラブルが起きるか、考えるだけで頭が痛い……のが、政治家連中だろう。


 正直、自分には関係がない。

 鷲巣玲音二等空尉は、相棒の黒坂美也三等空尉と共に、着陸した二機のC-1から降りてくるその車体を眺めていた。


 八輪のタイヤ、森林迷彩の装甲、五二口径の回転砲塔。


 機動戦闘車(MCV)。


 本来は二〇一六年に配備される予定だったが、試験そのものは二〇一五年の段階で終了していたため、防衛省を急かして緊急に取り寄せたものだ。


 最新兵器、つまり機密の塊なわけだが、異世界間での輸送が、C-1かC-130によるピストン輸送しかない現状では、地上兵器はあまり重い物を何度も輸送するわけにはいかないため、履帯戦車の配備は見送られたという背景がある。基地に配備されている八七式などの装備のほとんどは、そうして輸送された。

 そもそも陸戦型邪神竜がちょくちょく見られるようになってきたとはいえ、その装甲は現代戦車には到底及ばず、九〇式や七四式戦車ほどの火力は過剰と言えた。履帯ほどの悪路走行性能がないことを加味しても、それとて正直、日本製のオフロード・ジープが走破できる程度なら問題なく運用出来るとの判断があった。


 日本側としては、災厄発生前に邪神竜の巣を何とか特定して、事前に止めてしまいたいという思惑が強くある。そのため、地上戦力の強化は必要不可欠な要素なのだ。

 もちろん、日本ばかりが軍事力を提供するわけにはいかず、ある程度、竜騎国軍隊、特に最も数の多い衆軍アーミィを強化する対策も取られた。まず、迷彩服の概念、防弾素材などの技術が伝達され、元々文明レベルの高い竜騎国はすぐさまそれらの生産に取りかかり、取り急ぎ最外壁砦の兵士には行き渡った形となる。今、MCVのついでとばかりに運ばれている、プラスチック製の大量の箱がそれである。中身は玲音達にも知らされている。


 そして異世界側からも、地球に対して輸出されたものがある。


 言うまでも無く、魔導技術、魔術だ。


 これらは軍事野においてはまだまだ試行錯誤の部分が多いが、初歩的なものだけで、既に生産業において多大な、革命的と言っていいほどの変化をもたらしている。


 現在、竜騎国と正式な同盟を結んでいるのが日本だけであるのだが、海外へも徐々に魔術は輸出されつつある。異世界の魔導技術企業ソーサリィ・カンパニーは、更なる販路拡大を目指しているようだが、実は最初の日本以外の輸出先であるアメリカで既に躓きを見てしまっているのが実情ではある。日本としてはありがたい話なのだが。


 ともあれ、遅れて着陸してくるmF-15のほうに、玲音は目を遣った。カナードによって、離着陸距離も短縮され、エンジン・パワーも増大させてある。工場はまだ小規模なものしかなく、修理・整備に関しては、基本的に地球のメーカーに送って行うことになる。ミサイルなどもそうだ。基本的に航空兵器ばかりなので、こういった真似が可能なのだが。メーカーも異世界側への進出を狙っているようだが、さすがに一年では準備が整わないようだ。


 《ミスティック・イーグル》の六機中四機はこちらに配備、残りの二機は実証などの目的で、地球で運用されている。生産ラインを確保したとはいえ、現在使われている機体そのものは全てアメリカ製だ。ボーイング社が保持していたものを半ば無理矢理、ほとんど言い値で買い取ったらしい。玲音達にはまだ支給されていないが、その代わり搭乗しているF-15Jには、実験的に魔導技術がいくらか導入されている。F-15DJは訓練用である。


「いいなあ、新型機」

「まあそのうち、あたし達にも回ってくるでしょ。メーカーの生産速度、倍増してるらしいし……技術開発もそれに合わせてスピードアップしてるとかなんとか」

「あんたって割とそっち方面詳しいよね、なんで?」


 美也は目をぱちくりさせる。


「あれ、言ってなかったっけ? あたしの従兄弟、三菱で設計士やってんのよ」

「マジで」

「詳しいことは言えないけど」

「あーまあ、そりゃそうよね」

「でも仕事が早くなった上に残業減ったって大喜びしてた」

「例のアレ?」

「みたい。こっちでもちょくちょく使ってるの見たけど、地球でも効率的な使い方を模索しながら、実戦投入してるんだって」

「へえ」


 特に属性系統の魔術は、様々な特殊状況を即座に限定空間に生み出すことが出来るために重宝されている。その他、妖精作成なども各分野で歓迎されている。


 図書館魔導士のうちかなりの人間が日本に出向し、日本の技術者も、竜騎国首都に留学している。現在は特措法とその関連法により、状況の対処に使えそうな技術は素早く企業の手で実験・実用化が図られるシステムが構築されている。


 日本政府の閣僚が変わってから、資本関連の異世界に対する姿勢が大きく積極的に変化している。今の総理は「守銭奴」と揶揄される人物だが、それだけに経済には貪欲で、この災厄を一種の商売のチャンスと捉えているようだ。ようだ、というのは、玲音は元々、テレビも新聞もあまり見ない人間だったのだが、ここ異世界に来てからはさらにその傾向が強まり、美也を始めとした自衛隊員からたまにそういった世間話を聞くか、PXや食堂に置かれた雑誌を読んで情報を仕入れているため、こと政治においては非常に疎いのだ。


 ただ、金回りはよくなったかな、という実感はかすかにある。ミサイルの輸送について相当手間や金が掛かった当初から、かなり状況は改善したと整備士や事務官が喜んでいるのを目にしている。


 ともあれ、当初想定されていた、何もかもを日本が用意する事態というのは避けられ、まだまだ手探りではあるものの、竜騎国との協力関係も築き始めている段階ということか。


 フライト・ジャケットにポケットを入れたまま、ふんと鼻を鳴らすと、


「戻るよ、美也」

「あ、うん」


 相棒に声を掛ける。


 今日の最外壁領は風が強く、あまり長く外にいると体力を奪われる。冬になると雪も積もるらしい。除雪車も早めに導入する必要があるのだろうが、まあ、それも上の仕事。

 自分達は体調を万全に整えてフライトに臨むだけだ。


 と。


「おや、鷲巣空尉」

「ディルムッド大尉。お疲れ様です」

「お疲れ様であります」


 足早に滑走路へ向かう小柄な男とその部下達が、生真面目な敬礼をしてくる。返礼。


 特に何か会話するでもない。恐らく、今回輸送されてきた武装の確認だろう。自衛隊に合流する赤黒い軍服を見送りながら、ああ、ここは異国なのだなと玲音は思った。

えー、そろそろネタ明かしというか、書いておかないと誤解をそのままにしてしまいそうなので。


この世界の自衛隊や大まかな国内外の事情は、基本的に現実世界に即していますが、ところどころ、今の地球とは違います。

例えば航空自衛隊には現在、女性戦闘機パイロットは一人もいませんが、この世界の日本では最低でも三人は誕生しています。同様にF-15Jの近代化改修プランも各所が異なり、しかもかなり早いペースで進められています(文中にある通り、二〇一二年には開始されています。この年に行われたリアリティについては一切言及しません)。それは文章中にいくつか示してあります。興味のある方は一度読み返してくださると、分かるところは分かるかと。

そして近代化改修が進められているということは、某政権の寿命はもっと短かったことになりますし、さらには、改修を進めなければならない理由が発生したと想像できます。

そのため、今の日本では無視されている技術が見直されたり、逆に不採用になったりしている部分も多々あります。次期主力戦闘機も本文の通り、タイフーンになっています。アメリカは根に持っているでしょうね。

一応、序盤に「今の自衛隊とは細部が違う」というところを散りばめたのですが、FBW導入とかくらいじゃ、ちょっと分かりにくかったですね。FXくらいはもっと早くに書いておくべきだったかも。


何が言いたいかと申しますと、「完全にリアルに即した小説」じゃないんですよ、これ。

私がカッコイイと思ったものを、無理矢理理由をつけて活躍させるだけの小説です。完全なリアルになると、作中で霞空将補が隊員に暴力を振るっていますけど、これ事案になっちゃいますよね。

異世界ものがリアルから切り離された話ですし。後々書いていきたいですけど、実はそれ以外にも現実と異なっている理由が存在します。


「今時カナードはないわ」ってご意見も頂きましたが、単にカナードがぴこぴこ動く様が可愛いと思うからカナードつけただけです。理由なんて後付けです。

好きなんですよ、カナード。クフィルとかグリペンとか可愛すぎるでしょう。架空機だと、スーパーシルフとか散香とか。世界観的には、上述のようにFXがタイフーンになっていることも影響しているのかもしれません。

寧ろ現実でそっぽ向かれてるからこそ、作中で使いたいわけです。ギチギチに現実で固めるなら、じゃあ魔法なんて要素入れるなよってなってしまうわけでして。


特に第二部からは、異世界の技術が混在してくるため、技術的な事情も大きく変化していきます。具体的な形を持った世界の危機なんて初めてだから(冷戦は形のない危機でしたし)、そのための態勢も既存のものとは違うものになるでしょう。

もちろん指摘などは存分にして頂きたいとは思いますし、参考にもさせて頂きますが、基本的には私の好み、趣味で書いている小説ですので、そこのところは念頭に置いてください。



以下はちょっと私見。


「現実はこうなんだから、これはこうでなければおかしい」では、SFやファンタジィなんて絶対に書けません。

「こういうのがあったら面白い」から、「ではそのためにはあの事情がこう変わっていればいい」というふうに、「やりたいこと」に肉付けしていくのが私のやり方です。もちろん違うやり方をされていらっしゃる方もおられると思いますが、私はこうです。


私にとっては、それが一番、書いていて楽しいやり方ですから。


なので、リアリティだの粗だのはこの際、味付け程度に考えて、純粋にエンタテイメントとして楽しんで頂けたら幸いです。



追記。

お嬢に「フル杖で一位どや顔取って宣伝してくれたら一回デートします」と言われたので、砂岸でフル杖凸砂してみたんですが、案外いけますね。フル路地に先手打たれても正面から撃ち勝つとか肩先生素敵。

あ、デートは来週です。

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