01 首都直上なのがまずいんです。
20140526 タイトルを『東京直上にゲートが出来たらそりゃ大騒ぎになるよね。』から 『スカイ・ゲートキーパーズ 灰鷹同盟』に改題いたしました。
東京直上、場所で言えば東京スカイツリーのさらに上。
そこに<通路>が現れたのは、夏も近い、6月8日のことだった。
予兆は何もなかった。
いや、もしかしたらあったのかもしれないが、少なくとも大多数の人間にとってそれは突然に起きた。
高度4000フィート上空。
メートル法に換算して言えば、地上からの高度1200メートルの宙空にそれは出現。
第一発見者は、東京都民1300万人。
隠しようもなく、あまりに唐突な出来事だった。
といっても、それからすぐに何が起きたわけでもない。
空に現れた巨大な円環。
それが<通路>であることを人々が知るには、さらに1週間ほどの時間を要した。
つまり、それまでは何も起きなかった。
スカイツリーの真上に、正体不明の円環が突如浮かび上がった以外、都民にも、日本国民の生活にも、何一つとして影響は起きなかったのだ。
人々は、「あれは何か」と口々に推論し合い、ワイドショーには大学教授とSF作家と左翼が入り乱れ、ネットでは陰謀論と異世界とのゲート論と巨神兵襲来説が溢れ出し、外国人はマジビビリして「ジャパンコワイ」と言いつつ次々と出国して経済に打撃を与え、中国と韓国と北朝鮮は日本の軍国主義の復活だと指摘してニュースを見た世界中の人間の頭の上にクエスチョンマークを浮かばせた。
そんな中でもいつものように都心に出勤する日本のサラリーマンは愚かなのか勇敢なのかニンジャなのか、遠く離れたアメリカでは主にそちらに注目が集まっていたがそれはこの際どうでもいい。
この段階で頭を抱えたのは、防衛と経済の関係諸氏であり、外資が一気に逃げ出したことで首都機能は一時期低下した。
が、日本人の図太いところは、それが直近の脅威でないならとりあえず気にしないで日常に戻ることが出来てしまう点で、幸いなことに都心から逃げだそうとする人口はごくわずかに留まった。
最大の問題は、もちろん「それ」が何であるのか分からず、さりとて放置するわけにもいかないため、対処をどうすればいいのかさっぱり分からない防衛問題であった。
防衛省の総意としては、スカイツリー周辺に陸自を配置し、都心上空を百里の戦闘機及び偵察機に毎日パトロールさせるのが案だったわけだが、それに某議員が猛反発。
「恐ろしいわあ! 都心に憲法違反の自衛隊なんてえ! 自衛隊はあ、憲法違反なんですからあ! 都心に入っちゃダメなんですよお!」
「いやですからね、何かあるのか、何もないのか、それが分かるまでの間だけでも自衛隊をおこうという、それだけのことでしてね」
「何も起きないかもしれないのに置くのお!? そんなこと言ってえ、また二・二六事件を起こそうという魂胆なのねえ! 恐ろしいわあ!」
国会で討論していた防衛大臣は面倒くせえなこのオバサンと思ったが、浮世絵に出てくる相撲取りのような顔には微塵もそれを出さない。
「いやほら、何か起きてしまってからじゃあ遅いんですよ。我々は国民の安全を考えてですね」
「何かあると思ってるのですかあ!? 今、何も起きてないじゃないですかあ! やっぱり二・二六を(以下省略)」
防衛大臣は面倒くせえなこのババアと思ったが顔には出さず、辛抱強く討論――というよりも説得した結果、戦車は駄目だがパトリオット・ミサイルならOKというよく分からない結論になり、それでもこれだけは譲れないということで空自による偵察は定期的に行われることになった。