5.古代メカニズムに則り
この章からしばらく、同じ時間軸(文化祭もの)のお話が続きます。
朝、目覚まし時計のアラームが鳴る前に目が覚めた。
現金なものだ。不意に可笑しくなる。
どうやら今日の約束を自分で思っている以上に、楽しみにしていたらしい。
ドーパミンの大量放出により、ただ今、適格且つ冷静で批判的な判断力は著しく低下している。
それが良いのか、悪いのか。
自然と弧を描く口元。それが苦笑に変わり、それから自嘲に変わるまであと一歩。
遺伝子の策略に漏れなく引っ掛かった―――科学的な理由付けとしては、妥当な線だろうか。
いつもより、気持ち時間をかけてメイクをする。それでも、あまり大げさにならないように。自然な感じを心掛けて。
この日、選んだ服装は、随分とカジュアルなものだ。
デニムのタイトスカートに、Tシャツ、パーカー、ヒールの付いたスニーカー。
ちょっとしたスポーツカジュアルといったところか。
忘れそうになる感覚を引き戻してみる。でも余り、砕け過ぎてはいけない。清潔感は忘れずに。年齢でカバーできる要素は、最早無いのだから。
姿見の前で確認。
いつもとは違う自分に、鏡の中の顔は若干、苦笑い。それをそっと頭の片隅に留めておく。
まるでお呪いみたいだ。
最後に、使い古していい具合に飴色のついたバッグを肩にかけて終了。
今日の自分。昨日の自分。
対になるにはどうもちぐはぐだけれども、どれもが自分を構成する要素。
少しずつズレて行くのは、意図的な誤差なのか、客観的な躍進なのか。結論を出すにはまだ早い。
湧き上がる心の高揚感を押さえ付けて、玄関から一歩踏み出した。
耳に付けたシャンデリア型のイアリングが、衝動を吸収するように大きく揺れる。
光に鈍く反射したシルバーと赤いガーネット。
目には見えない主張を小さく押しとどめて、見上げた空に微笑んでみた。