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29.実験予測への反駁  (*R15 ご注意下さい)

前回の続きです。内容的にはR15だと思います。お嫌いな方はご注意ください。こちらを読まなくとも、その後の話の流れには支障はありません。

 だからといって、何でこうなったのだろう。

 脱がされたレギンスの残骸を遠くに見て、沙由流は脱力するようにソファに凭れかかった。


 目の前にはいたく上機嫌な黒き豹。鋭い光を宿す目をうっそりと細めて、いつの間にか足の間に陣取っている。今にも鼻歌が聞こえてきそうだ。

 獲物を狙う目が、舌なめずりをする。ちろりと覗く舌先は、やけに赤く、倒錯の気分へと誘おうとしていた。

 それは、とても魅惑的で毒を持った招待状だった。

「やっぱり綺麗だ。悪くない」

 溜息のような呟きを乗せて、骨ばった長い指の感触が、露わになった肌を行き来する。明確な目的を持ったわけではなく、それでも確かな意図を持って大きな掌が動く。柔らかな感触を楽しむように肌を撫で上げられて、その刺激に体のどこかが波立った。

「こら。くすぐったい」

 体を起して、それ以上の悪戯を阻止しようと手を伸ばす。それを巧みにかわされた。

 そのままじゃれつくように太ももの内側に吸いつかれた。ねっとりと湿った舌が、柔らかい肉を甘く噛んで行く。気分は、まるで差し出された偽りの贄だ。

「そこは食べられないわよ」

 尤もらしい忠告に黒豹は顔を上げると愉快そうに口元を緩めた。だが、すぐさま元の作業に専念すべく顔を伏せ、黒い頭部を上へ上へと徐々に移動させていった。


 足元を覆っていたはずの布はすでになく、露わになった脛を晒している。幾ばくかの勇気を持って穿いてみたミニスカートが申し訳なさ程度に体を覆うだけ。しかし、それも隙間にねじ込まれた豹の胴体の前には何の意味もなさなかった。冷静になって見れば、酷く情けない体勢だ。

「か…いり」

 抵抗というには弱すぎる声を上げて、注意を逸らそうと試みた。

 信号を捕えた相手はチラリと見上げると、ふっと目を細めた。優しさの色を浮かべながらも、その中に意地の悪さが見え隠れする。


 いつ、どこで、どんな風に状況が一変するかは、いつも謎に包まれていた。一端入ってしまったスイッチを切り替える術も探しあぐねている。そのポイントがどこにあるのか。よく分からない。

「感じた?」

 ずいと黒豹が身を乗り出した。黒い髪がサラリと揺れ、低い掠れた囁きが耳を掠める。

 微かにシトラスの匂いが鼻を掠めた。


 発せられる空気が、いつにもまして甘さを含んでいる。火に集まる虫たちのように本能のどこかで危険を察知しながらも、抗えない疼きが理性とは真逆の行動を引き起こさせる。

 至近距離で目があうと、口の端をぺろりと舐められた。そのまま、ざらりとした生暖かい舌先が頸動脈をなぞる。血液が逆流するようだ。ざわりと肌が粟立ち、その感覚に耐えられずに仰け反るように顔を背けるが、それは大した抵抗にはならなかった。


 気がつけば両の腕に体を囚われていた。逃げ場はすでにない。

 喉笛を晒すのは服従の合図だ。最後の息の根を止めるか否かは、相手次第。生殺与奪権を握られている。それを敢えて奪い返そうという気にならない時点で、自分は懐柔されているのだと思わずにはいられない。

 このまま、どこに連れ去ろうというのだろう。

 悪戯な指先が肌の表面をなぞってゆく。触れるか触れないかの絶妙な間合いで行き交うのは、大きくて骨ばった掌。その少し低い体温に、私は自分の体の熱が伝動してゆくラインを想像した。背骨の奥が粟立つような感覚が、波のように引いては寄せてくる。


 もう、まともな判断はできなくなっていた。思考は靄が掛かったように霞み、感覚だけが鋭敏に澄まされて、強弱に反応する。絡みあう視線の中に反射するのは、熱に浮かされたように瞼を半分閉ざした互いの顔だ。それがどうにも堪らなくて、御返しとばかりに喉笛に噛みつき、空いている片方の腕で狩られる対象を引き寄せた。

「キミのいいようにはさせないわよ?」

「上等」

 受けて立つとばかりに不敵に弧を描いた唇を己のそれで塞いだ。相手の気を飲み込まんばかりの勢いで口付けが深くなる。絡みあう舌先が痺れ、唯一の情報取得器官となった。


この続きのようなものがムーンライトノベルズの方にあります。あちらでも同じkagonosuke で投稿していますので、もしよろしければどうぞ。

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