15.β波の行方
短いですが、熱血文化祭委員長、川端氏視点で。
一陣の風のように嵐の中心が過ぎ去ると、止まっていた時間が漸く動き始めた。
人間は余りに信じがたい光景を目にすると、全ての思考と動作が止まるらしい。衝撃は余りにも大きすぎて、その余波は計り知れない。
そこから、一番初めに回復をしたのは川端だった。
「ククク……アハハハ…ハハハ」
押し殺したような笑い声が、やがて爆笑に変わった。
初めて目にするアイツの顔。そこにごく自然に馴染んでいた綺麗な女の人。
小さな空間に突然、別次元のように現れた桃色的緩やかで甘い世界は、思春期真っ盛りのお年頃の諸君には少々毒だったようだ。
それにしても。思わぬ収穫に自然と笑いが込み上げてくる。アイツをどうやって捕まえてやろうかと散々策を巡らしてみたが、棚ぼた的に上手く行った。いや、出来過ぎだろう。
これで暫くアイツをからかうネタには不自由しなそうだ。予想以上に面白いものが見れて気分は一気に上昇気流に乗った。
「邪魔したな」
川端は、未だ解凍中のダーツのクラスの奴等に声を掛けて、上機嫌で廊下に出ると、ズボンのポケットに入れていた携帯のフリップを開いた。手早く操作をして通話ボタンを押す。
『はい』
ワンコールで出た相手に、手短に告げる。
「捕獲完了」
『……意外に早かったな』
ほんの少しの間に、電話の向こうで驚きに目を見開いているであろう相手の表情がありありと浮かんできた。
『どんな手を使ったんだ?』
興味深そうに空気が揺らぐ。
「不本意ながら、俺は何もしてない」
―――悔しいけれど。
自虐的な色を感じ取ってか、相手がふっと笑ったのが気配だけで伝わって来た。
「強力な助っ人が現れたってとこ? ま、じきに分かるから、楽しみにしておけば?」
『そうか』
そう言って川端は手にした携帯を閉じた。
さてと、何が待っているやら。何かが起こりそうな予感に、川端は口の端を愉快そうに吊り上げて、すっと目を細めると様々な人で賑わいを見せる校舎内を講堂へと足を向けた。




