1.優しさの対価
昔、手遊びに書いたものを投稿します。非現実的なご都合主義な感が否めません。砂を吐くほど甘いと思われる方もいらっしゃるかもしれません。それでも大丈夫という方、どうぞお付き合いくださいませ。
あの頃の自分が望んでいたのは、恋人と言うよりも家族という関係だった。
それをあの人はとっくに見通していたのだろう。
「しょうがないわね」
少し呆れたように口にしながらも、あの人は決して否定の言葉を言わなかった。
人の良さが表れている優しい微笑みで、困った顔を作りながらも、最終的には許してしまうのだ。
それを十分理解した上で、あの人に我儘を言った。
自分の狭量さに罪悪感や嫌悪感を覚える暇は無かった。それだけ必至だったから。
何処までも優しくて、温かくて、穏やかな人。
あの人が身に纏う緩やかな空気は、甘い匂いを発して周囲に伝播する。そこに癒しの効果を見出したのは、自分だけではないはずだ。
柔らかい気は人を魅了する。一度、知ってしまった甘さは、麻薬のように禁断症状を引き起こす。
それは、無意識に浸透する緩やかな連鎖反応。
思いの外に強固に絡みつく楔を断つ術を知ろうともしなかった。
だから、なりふりなんて構っていられなかった。
あの人の眼差しに、少しでも特別な色が入ることを夢想して、心の底から、あの人の手が、自分に差し向けられることを願わずにはいられなかった。
プロローグ的なモノローグその一。