第52章(親友からのSOS)
「明菜、助けて」 電話の向こうの由紀奈の声は泣いていた。 「どうしたの?」 と聞くと、
剛君が危ないらしい。徹夜明けで、最近は練習するヒマもなく体力も落ちていたのに、
ラグビーの練習試合に行って頭を負傷。意識が戻らないのだという。仕事が立て込んでいるので、
すぐに駆けつけることができない。 「わかった。今すぐエネルギー飛ばすから。
どこまでできるかわからないけれど、やれるだけのことはやってみる」 と答えて霊査する。
頭が痛くなる。血管が破れている。外科的手術でしか治せない。涼に電話する。出ない。
多分、立て込んでいるのだろうと理解する。外科的治療はしているはず。 剛の体に意識を集中する。
心臓も痛い。いや、体のあちこちが打撲か、怪我か。打撃を受けている。
頭の出血は止められないが、内臓の痛みはどうにかできるかも知れない。
「無駄だよ」 久しぶりに信彦兄貴が横にいた。 「寿命は変えられない。順番が来たんだ」
そんなことは、わかっている。運命は変えられない。
でも、由紀奈のお腹の中で育っている命はどうなるのか。
父親のいない子供はかわいそうだ。食い止めたい。不可能でも、少しでも長く生きていて欲しい。
「死神が待ってる。長くはない。由紀奈ちゃんの方が心配だ」 と言うので、ハッとした。
倒れている姿が見える。 涼に電話する。十五回ベルが鳴って、懐かしい声がした。
「由紀奈が危ない。すぐに救急車を」 と叫んでいた。理由がわからないようで、
戸惑っているのがわかる。 「剛君にもエネルギーを送っているけど、多分難しい。
植物人間になるかも知れない。でも、今は由紀奈が危ない。心臓か? お腹の赤ちゃんかも知れない?」 と言うと、 「赤ちゃんだって?」 と驚いている。 「説明している時間がない。早く」 と叫ぶ。
「わかった」 と言って、電話は切れた。 パワーを集中して、エネルギーを送り続ける。
フッと緊張が解けた。多分、大丈夫。助かった。 夜中遅く、お礼の電話が涼からあった。
「ありがとう」とだけ言って、何も言わなかった。話さなくてもわかる。
辛い現実に向かい合って、決断できぬまま疲れ果てているのだろう。
だから明菜も、何も聞かなかった。そして、互いに無言のまま、電話を切るのが憚られた。
繋がっていたかったというのが、本音だった。




