案の定、私運動神経は平均らしい。
ミナ先輩の呼びかけもむなしく、集まったのは私たち一年の4人だけだった。
「さてと、じゃあひよこちゃんたち行こっか」
「はい!」
「ルーカスは呼び込みお願いね。……ティントもそろそろ起きて! 弟が入るってよ」
「ん〜〜〜……ダークがぁ?」
「おはよう、ティント」
「ん〜……むにゃむにゃ……」
「ダメだこりゃ。よし、とりあえず行こう!」
ミナ先輩はティント先輩を起こすのを諦め、私たち4人を連れて剣術演習場へ向かった。
「さ、着いたよ」
到着した瞬間、私は思わず息を呑む。
体育館のような場所を想像していたけど、そこにあったのは簡素な石畳と、いくつか並んだ木製の訓練用人形だけ。
「あ、そっか。アキナちゃんはこういうの初めて見るんだよね?」
「はい……」
「じゃあ最初は見学でいいよ」
「わかりました」
端に下がって見守る私の前で、ミナ先輩は軽く手を叩いた。
「さーて、腕に自信ある子は?」
「はい!」
元気よく手を挙げたのはオーディンだ。
「君は……オーディンだよね?」
「はい。お願いします」
「いいよ。いつでもかかっておいで」
ミナ先輩は木剣をひょいと投げて渡し、自分も片手で構える。
「はじめ!」
ダークの合図と同時に、オーディンが一直線に駆け出した。
「頑張って、オーディン!」
思わず声が出た。
ミナ先輩はオーディンの猛攻を涼しい顔で受け流し、足さばき一つ乱さない。
それに対し、オーディンは全力で食らいつこうとしている。
次の瞬間――ミナ先輩の姿がふっと沈む。
気づけば、オーディンの木剣は高く宙を舞い、オーディン本人は尻もちをついていた。
「勝負あり! ミナ選手」
ダークの終了の声に、ミナ先輩はすぐオーディンの手を取って立たせる。
「んー、君、筋いいね! あとちょっとトリッキーな動きに対応できるようになれば、次は負けちゃうかも」
「先輩、ご冗談を。手抜いてたの、わかってますよ」
「まあね。新入生に怪我させるわけにいかないし。……あ、ミナでいいよ、みんなも」
「ありがとうございました」
オーディンは戻ってきて、私の横に腰を下ろした。
「お疲れ様、オーディン」
「ありがと。アキナも、やってみなよ」
「……うん」
「そうだよ、アキナちゃん。おいで」
背中を押され、ミナ先輩の前に立つ。
「よろしくお願いします」
「全力で来てね。ちゃんと受け止めるから」
「……はい」
彼女の笑顔は、ほんとに太陽みたいだ。
「はじめ!」
スカーレットの声と同時に私は踏み込んだ。
でも、わかっていた。――次の瞬間、私の木剣は宙を舞う。
想像通り。でも、やっぱり悔しい。
「初めてにしては上出来だよ。ちゃんと私とオーディンの試合、見てたんだね」
「ありがとうございます」
「じゃ、次は弟! おいで」
「はい、よろしくお願いします」
ダークが前に出る。
「はじめ!」
今度は私が合図を出した。
ダークはさっきとは違う軽さで駆け出し、ミナ先輩の目の前で大きく跳躍する。
ミナ先輩の体勢が一瞬だけ崩れた。
その隙に、ダークは背後へ着地し、ミナ先輩の左手の剣を狙って下から振り上げる――
その攻撃を読んでいたかのように、ミナ先輩は木剣を手放し、右手でキャッチし直す。
その流れのまま、ダークの剣を弾き飛ばした。
「うわっ――!」
ダークはバランスを崩して後ろへ転び、木剣が地面に落ちる。
「勝負あり! 勝者、ミナ選手!」
オーディンの声が響く。
なるほど。手から剣が離れて下に落ちたら即終了なんだ。
「やっぱ君は面白いね、弟。ティントに似てる」
「ぼ、僕なんてまだまだです」
「おいダーク! そんな動きできるなんて聞いてないぞ!勝負しろ!」
「えー、やだよ。ミナとやって疲れたもん」
「ぶーぶー」
オーディンが子どもみたいに拗ねる。
……弟勝負はオーディンの勝ちだな…。
「で、スカーレット。君はやる?」
「いえ、私は……ミナさんと戦えるほどの腕はありませんわ」
「ふーん、そっか」
一瞬だけ、ミナ先輩の声に疑うような色が混じった。
「これが剣術。剣術部は“剣を武器として扱い、手足のように使えること”を目的にしてます」
「俺、入ります!」
「ティントがいるし、僕も」
「私も! 強くなりたいです」
「アキナが入るなら、私も入りますわ」
「おうおう、みんな入ってくれるんかい? 嬉しいねぇ!」
本当に嬉しそうに笑うミナ先輩。
そこへ、奥から上級生の声が飛んできた。
「おーい、ミナー!」
「こっちー!」
「一年生、クラス交流会だってよ! 急げ!」
「やっべ! 行こ!」
オーディンを先頭に、私たちは全力で走り出した。
胸の奥がじんわり温かくなる。
――なんか、すごく青春って感じがする。




