この世界でも異端扱いされ、大変です。
時が過ぎるのはあっという間で、私は今日、魔法学園に入学する。
秋入学だから桜並木はないけれど、ひんやりとした空気に混じる紅葉の色が、私の門出をそっと祝ってくれている気がする。
「おはようございます、アキナ様。よく眠れましたか?」
「あぁ、おはよう。ティア。うーん、いまいち。やっぱり緊張するわ…」
「大丈夫ですよ、アキナ様。アキナ様には私がいますから。」
ティアの声を聞くと、自然にお姉ちゃんの笑顔を思い出す。声のトーンも、話し方も、何もかも似ている。胸が少し温かくなる。
「ねぇ、ティア?ティアって弟か妹はいるの?今まで聞いたことなかったけど。」
「ええ、弟がいますよ。そういえば、弟も今日入学のはずです。」
「え?それって私のそばにいてもいいの?!」
「問題ございません。両親が弟の方に付き添っているようですし、アキナ様が心配ですしね。」
まーたそうやって子ども扱いする。お姉ちゃんと、本当にそういうところまで似てる。ちょっとむずがゆいような安心感。
「さぁ、今日は忙しいんですから、ぼぉーっとしている暇はありませんよ。」
あ、そうだった。髪も服も、寝坊のせいで少し遅れてしまった。迎えの馬車の時間もギリギリだ。
大人しく鏡の前に座り、髪を結わえてもらう。手際よく動くティアの指先に、わずかに安心感が混じる。
その間に軽く化粧を済ませると、自分の顔が少し大人びたように見えた。
「どうかしら?」
「お似合いですよ、アキナ様。」
「ありがとう。やっぱりティアのセンスは最高ね。」
「とんでもない。アキナ様の顔立ちが、どんな色でも美しく引き立てますよ。髪型はこれで大丈夫ですか?」
「綺麗!見たことのないアップスタイル…まるで魔法みたい。」
ティアはいつも、魔法でもかけたかのように髪を可愛く仕上げてくれる。
服を整え、支度を終えると、門の前で馬車が待っていた。
柔らかい秋の日差しに照らされて、見送りに来た人々の笑顔がキラキラしている。
「皆さん、2カ月間ありがとうございました。」
「我々も、この2カ月間アキナ様と過ごせて幸せでしたよ。またいつでも帰ってきてくださいね。」
「はい!じゃあ、行ってきます!」
馬車に揺られながら、商人街を越え、辺りの風景が田畑に変わる。
土の匂い、木々の香り、遠くで鳴く鳥の声が心地よく、少し緊張がほぐれる。
さらに進むと、大きな白い壁に囲まれた赤レンガの建物群が視界に飛び込んできた。
「アキナ様、あの赤レンガが魔術学園の学び舎です。奥に寮もありますよ。」
「すごく広いのね…。」
「えぇ、学び舎、学生寮、警備や先生方の宿舎、魔術演習場もあります。」
「そんなに広いんだ。」
「ここからは王女殿下直属の部隊の魔術団に入る学生が多いですから、戦闘訓練もあります。」
「凄いところなのね…。」
門が近づき、誇らしそうな保護者や教師たちが写真を撮る姿に、胸が少し高鳴る。
「入学生の方はこちらの列に!保護者様は左へ、大ホールへお願いいたします!」
若い教師の声が響き、空気が少し緊張に包まれる。
「では、行きましょうか、アキナ様。」
「えぇ、ティア。」
歩き出した瞬間、後ろから急に抱きつかれる。
「アキナさん!おはようございますわ!」
「スカーレット!おはよう!」
「おはようございます、ドレイン嬢。」
「ええ、おはようございます。グーデリアン嬢。私のことはスカーレットで構いませんわ。これから同じ釜のご飯を食べる仲間ですもの。」
「では、スカーレット。私のこともティアで構いません。」
「ありがとうございますわ、ティアさん。じゃあ、アキナさん、行きましょ!」
あぁ、思い出す。日本でも、クラスの友達と校門前で集まり、教室に向かったなぁ…。
胸がじんわり温かくなり、懐かしい感覚が蘇る。
遠くから、ひそひそ声が聞こえた。
「ほら、あの子だよ。無色魔法の使い手。」
「あの伝説の?あんな子が?」
「しっ!聞こえるって。何されるか分からないんだから。」
「それもそうね…。」
はぁ、ここでも私は異端者なのか。
でも、気にしても仕方ない。強くなれるなら、慣れるしかない。
「ねぇ、あなた方?聞こえておりますわよ。そういうのは醜いですわ。」
「スカーレット様…怖くはないのですか?感情魔法を取消す無色魔法の使い手なんて。」
「私は怖くありませんわ。だってアキナさんは私のお友達ですもの。あなた方も彼女を知ろうとしてみたら?」
スカーレットが、ひそひそ話をしていた女子たちを庇うように立つ。
久しぶりに、心の奥底がじんわり温かくなる。その温もりが、私に勇気をくれる。
「あのね、確かに私のこと知らなかったら怖いわよね。私もあなた達だったら怖いと思うもの。だから、仲良くなってみて欲しいな。」
「そうですわね…何も知らずに言ってしまって申し訳ありません。」
「ううん、いいの!さ、皆、大ホールへ行こ!入学式典が始まっちゃう!」
これからのことを考えると、やっぱりスカーレットとあの日出会ってよかったと思う。
しかし、私は見逃していた。ティアの、少し怪訝そうに眉をひそめた表情を。




