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「恋をしないなんて可哀想」と言われ続けた私が、感情が全ての力になる異世界で、恋愛感情ゼロゆえになぜか無限魔力を得て魔王と戦うことになった話  作者: きりりんが
第10章: 無色の継承者、絶望を越えて

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壊す者と抱える者

びっくりするくらい、深く眠れた。

目覚めた瞬間に分かる。疲れが、ちゃんと取れている。


これも全部――お嬢様、スカーレットのおかげだ。


……ん?

甘くて、香ばしい匂い。


いや、お願いだから嘘であってほしい。


「おはようございます、アキナさん。パン、焼きましたわ」


はい。淡い期待は、粉々に打ち砕かれました。

この子、朝食用にパンを焼いてました。


もう驚くまい、と思っても無理だ。これは。


「どうしましたの?」

「いや……パン、美味しそうだなって」

「ええ。焼き立てですもの」


そういう意味じゃないんだけど。

……もういいや。突っ込むのも疲れる。


「あ、今日は下の階層の部隊と昨日できなかった調整をする必要があるので、一緒には行けませんけど……大丈夫ですわよね?」

「うん。気を付けて」

「ええ。皆さんも」


朝食もそこそこに、私たちは魔王遺跡城の最上階を目指した。


王を名乗るだけあって、階段は金と宝石で彩られ、豪華絢爛。

だが、一段上がるごとに空気が重くなる。


――重力の操作。


並の人間なら、ここで膝をつくだろう。


それでも攻撃に堪え、たどり着いた最上階は、意外なほど簡素だった。

無駄な装飾はない。ただ、使われている素材そのものが高級だ。


「ようこそ。俺様の住処へ。せっかくだ、もてなし代わりにティーパーティーを用意した」


「あら、ありがとう。魔王とお茶を飲む経験なんて、滅多にないもの」

「話が分かる女は嫌いじゃない。奈落騎士(ナイツオブヴォイド)


「はっ」


短い号令とともに、整えられたテーブルと茶器、椅子が並ぶ。


「で? どこまで知ってる?」

「全部よ」

「ほう。なら、浄化演練(オルド・プルガ)が管理と選別のためだって話も?」

「薄々ね」

「それで協力してる。やっぱ信用ならねぇ」


「信用? 面白いわね。階段に絶望重圧(グラビ・デスペリオ)、私たちには羞恥影縛(ウムバラ・プルド)――ずいぶん丁寧な歓迎じゃない」


「……気づいてたか。黒檻魔獣(アビス・ビースト)、食事の時間だ」


竜体の魔物が姿を現す。

でかい。想像以上だ。


――でも、怯んだら終わり。


「へぇ。思ったより小さいのね」


挑発に反応したのか、黒檻魔獣(アビス・ビースト)が暴れ出す。


「ははは! その強がり、いつまで続く?」


奈落騎士(ナイツオブヴォイド)まで動き出した。


まずい。でも――想定内。


「ティア! 黒檻魔獣(アビス・ビースト)を!」

「はい! 大地結界(ガイア・パシス)!」


階層そのものが歪み、巨大な檻が形成される。


「ティア、監視継続!

 ダーク左! オーディン、サポート!」


息の合った2人が、次々と騎士を無力化していく。


「あらら、意外と人間も強いのですね。押されてますわ魔王様」

三公(トリアキ)か」

「ええ、勇者の相手はお願いしますね」


三公(トリアキ)が、それぞれ前に出る。

ティント、ミナ、ルーカス――ぎりぎりの攻防。


私は、私の役割を果たす。


「ねぇ。私の相手は、あんた?」

「古から勇者の相手は、魔王と決まっておるだろ?」


玉座を降り、魔王が歩み寄る。


恐怖毒(ヴェノム・メトス)。精神崩壊して死ね」


「残念。それ、私には効かない」


「効かない?虚栄を張ってるのは見え見えだぞ勇者」


その通り。

オーディンの精神浄化(メンス・プリタス)と、ミナの強化紐帯(カリタスヴィンクルム)――二重掛けだ。

それでも恐怖毒(ヴェノム・メトス)の方が勝っている。


「まぁ、思うのは自由よ。――深淵中和(ヴァクウム・エモリス)


発動と同時に、絶望の公が消えた。


「封印……成功」


「アキナ様?! 聞いてませんわ!」

「アキナ! 解除しろ!」


解除するわけない。


これが――言っていない作戦。

言ったら怒られるもん。


世界から重力が消えたみたいな静寂。

魔王は倒れず、怒りもせず、ただ私を見ている。


「面白い。お前は壊す者でも、裁く者でもない」


懐かしむような光が、その瞳に宿る。


「……なるほど。お前も、世界が耐えられなかった側か」


否定しない。


「うん。でも――終わらせたくない」

「お前と俺様は同類だ。だからこそ」


「抱え続けることを選んだ君に、俺様が殺されるわけにはいかない」


それでいい。

私は、あなたを殺しに来たんじゃない。


対話するために来た。

あなたをも、抱えると決めたから。


声にならない想いを胸に抱いたまま、

私は、深い深い眠りへと落ちていった。

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