全員集合。
騒ぎを聞きつけたのだろう。
足音が重なり、視界の端に見慣れた顔が増えていく。
「アキナ様、大丈夫ですか?」
ティアの声に、返事をしようとして――できなかった。
泣きすぎて喉が詰まり、息が上手く通らない。
ただ、小さく頷くだけで精一杯だった。
「うんうん、大丈夫ならいいよ、アキナ」
そう言って、ミナが場を整えるように立ち上がる。
「ティント、男子たち呼んで先にコミュニティールームに集まってて?色々みんなで話す必要があると思う」
「わかった。先に行ってる。ティア、行こう」
「あ、はい」
2人が去ったあと、ミナは静かに私たちの前に座り込んだ。
何も言わず、ただそっと腕を回してくれる。
その腕が、ぎゅっと包み込む。
言葉はいらなかった。
温度で、圧で、伝わってくる。
――ここにいていい。
――もう、どこにも行かせない。
胸の奥に、じんわりと染み込む感覚。
ああ……愛されてる。
それは、単なる友情じゃない。
戦場を越え、痛みを共有し、何度も背中を預けてきた相棒だからこその感情。
私はこの世界で、
血の繋がりとは違う――自分の家族を作ったんだ。
誇らしく思うと同時に、この家族を、何が何でも守ると心に誓う。
やがて涙も引き、呼吸も落ち着いてくる。
私とミナとスカーレットは、ゆっくり立ち上がり、コミュニティールームへ向かった。
扉を開けると、
そこには男子メンバーだけでなく、ヴァイス教官、ローレンツ宮廷魔術師、そしてルダス博士の姿もあった。
「途中で会ってな。我々も同席しても構わないか?」
最初に口を開いたのはヴァイス教官だった。
私は無言で頷く。
当然だ。
ここにいる全員が、これまでの困難を一緒に越えてきた。
居なかったら私...、いや、私たち全員六将軍相手に倒されていただろう。
「まず……私から、皆さんに言いたいことがあります」
スカーレットが1歩前に出る。
「本当に……ごめんなさい」
勢いよく頭を下げるスカーレット。
空気は重たいけれど、誰も彼女を責めなかった。
ここにいる全員が、彼女の置かれていた状況をちゃんと理解している。
沈黙を破ったのは、ルーカスだった。
「俺はさ」
少し視線を逸らしながら、続ける。
「お前が何か抱えてるってのは、正直、気づいてた。だからこそ先輩として、ちゃんと手を差し伸べられなくて悪かったよ」
「私も……ごめんね、スカーレット」
ミナが続く。
「最初、あなたが何か隠してるって思って……信用できないなんて、距離を置いた。あなたはこんなにもいい子なのに」
「ルーカス様……ミナ……」
「それに、僕たちもだよ」
ダークが静かに言う。
「一番近くにいたのに、気づけなかった。ごめん」
「ダーク様も……」
一通り、謝罪が巡ったところで。
「……もういいか?」
ヴァイス教官の低い声が、空気を引き締めた。
「今後の話だ」
――今後。
その一言で、場の温度が変わる。
「最後の魔王戦は、正直に言って消耗戦になる」
言い切る教官に、ルダス博士が頷いて続ける。
「こやつの言う通りだ。そしてな……一番しんどいのは、アキナくん。君だろう」
わかっている。
私の魔法がなければ、魔王は変わらない。
誰も救えない。
「魔力以上にきついのは、心だ。君たちは……境遇が似すぎている」
「そうですよ、アキナさん」
ローレンツ宮廷魔術師も口を開く。
「あなたは強い。それは私も知っています。ですが……心は、別です」
心配の色が、2人の目に滲んでいる。
私は1歩前に出た。
「ルダス博士。さっきの王女様の話……答え、わかりました」
「ほう。聞こうか」
「はい。あの6人だったからです。心を通わせて、王女様も“友達”で“仲間”だって思ってたから」
博士は満足そうに微笑んだ。
「それが分かっているなら、大丈夫だ。……だが、気を付けなさい」
「はい」
ふと周囲を見る。
何が何だか分かっていない顔の、オーディンとルーカス。
察して任せろと言わんばかりの、ダークとティア。
無言で寄り添う、ミナとスカーレット。
少し離れた場所から、全体を包むように立つティント。
――この人たちがいる。
このみんながいれば、私は大丈夫だ。
何があっても、生きて帰ってこられる。
そのまま、全員で夕食を取った。
生暖かい空気に包まれた、穏やかな時間。
食器を片付けていると、ティントがふいに聞いてくる。
「ねぇ、アキナってさ。元の世界では、どんな子だったの?」
「え?」
「ほら……前の世界での話。友達とかさ」
「……長くなるけど、いい?」
「もちろん。全部聞きたい」
私は話した。
魔法のない世界のこと。家族のこと。
親友のノンちゃんのこと。
そして――いじめられていたことも。
「ふーん……どの世界も、似たり寄ったりだね」
「……そうかもね」
そこへ、洗い場からティアが顔を出す。
「アキナ様。魔王戦の作戦会議をしましょう」
「うん、今行く」
私は駆け足でコミュニティールームに戻った。
「で……作戦なんだけど」
一つ一つ、丁寧に説明していく。
――ただし、
たった一つの情報を除いて。
これを伝えたら、きっと全員が反対する。
だから今は、伏せる。
それでも。
この作戦で行くと、私は決めていた。




