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「恋をしないなんて可哀想」と言われ続けた私が、感情が全ての力になる異世界で、恋愛感情ゼロゆえになぜか無限魔力を得て魔王と戦うことになった話  作者: きりりんが
第9章:無色の継承者、友のもとへ

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たった一つの真実

魔術師団との訓練と、戦闘。

それらに追われる日々の中で、私たちはいつの間にか「学生」であることを忘れていた。


――私たちは、まだ高校生。


当たり前のはずの学園の授業は、当然のように私たちを待ってはくれない。

戦場に出ていた間も、世界は何事もなかったかのように進み続けていた。

その遅れをようやく取り戻せたのは、春休みに差しかかる頃だった。


季節はじりじりと暑さを増し、肌にまとわりつく風に少しだけ不快さが混じる。

この世界に来て、気づけばもうすぐ1年。


……感慨深い、なんて言葉で済ませていいのかは分からないけれど。


「アキナ、用ってのは何だ?」


背後から、低く太い中年の声がかかった。

振り返ると、そこにはヴァイス教官が立っている。


「あ、ヴァイス教官……。

六将軍との戦闘のあと、私の判断ミスで仲間を危険に晒してしまって……」


自分で言葉にした瞬間、胸の奥がひりついた。


「聞いている。

各将軍の部隊の動きまで、頭が回らなかったんだろう」


責める口調ではない。

だからこそ、逃げ場がなかった。


「はい……。結果的には、グラウ=ノクティス将軍が場を収めてくれて……」


「なるほどな」


ヴァイス教官は腕を組み、短く唸った。


「自分にはリーダーシップに似た何かが足りなかった。

それを自覚した、という顔だな」


「……はい」


数秒の沈黙のあと、教官は踵を返した。

振り返ったその視線は、明確に「ついてこい」と告げていた。


辿り着いたのは、薬草学の研究室だった。


「入るぞ、狸爺」


許可もなく扉を開けると、

薬草特有の匂いと、色とりどりの実験煙が流れ出してくる。


壁一面を埋め尽くす本棚。

中には、この国の言語ですらない文字で書かれた書物も混じっていた。


「いつも言っておるだろうが!勝手に入るでない!」


奥から怒鳴り声が飛んでくる。


「……ん?そちらのお嬢さんは?」


「初めまして。アキナです」


「おお、噂の勇者の子か。

なるほど……何も聞かされておらんようだな」


そう言って笑ったのは、白髪の好々爺といった風貌の老人だった。


「薬草学を教えているミーク・ルダスだ。

ルダス博士でいい」


……狸爺?


見た目はどう見ても、温厚そうなおじいさんなのに。


「アキナ、見た目に騙されるな。

この狸爺は、そうやって学生を篭絡してきた」


「ほほほ。随分と言うようになったの」


どうやら、この2人には長い付き合いがあるらしい。


「あの……私、この間の戦闘で……」

「なるほどなるほど」


私の言葉を遮り、ルダス博士はゆっくりと頷いた。


「これ以上、君が説明する必要はない。

代わりに一つ、話をしてあげよう」


博士は、まるでこちらの心を見透かしたような目で続ける。


「――昔々、ある王国に、待望の王女が生まれた」


活発で、冒険を好む王女。

ある日、魔族に言われた言葉。


――お前の周りの騎士は、全員がお前を慕っているわけではない。


怒りながらも、胸に残る違和感。

そして、婚姻前最後の冒険で襲われた魔族の大軍。


騎士は一人、また一人と去り、

最後に残った騎士は、幼少期から共に育った6人だけだった。


「なぜ残ってくれたの?」


そう問う王女に、6人は答える。


――立場は違えど、あなたは我々の友ですから。


そして、婚姻の儀のために立つ王女はその6人の騎士に囲まれ、安心して祖国を離れたという。


「……どうして」


気づけば、私は呟いていた。


「たったの6人なのに……

どうして王女様は、そんなに安心していたんですか?」


ルダス博士は、穏やかに微笑んだ。


「君がこの話の本当の意味を理解したとき、

その答えは自然と見えるよ」


研究室を出ると、

気づけば足は中庭へ向かっていた。


――そこに、先客がいた。


「……スカーレット」


「アキナさん……」


最後に顔を合わせたのは、六将軍と相対したあの日以来。


「ここに来たら、会える気がしてましたの。アキナさん、この場所お好きでしたでしょ?」

「……うん。でも、ここを好きになったのは……スカーレットが好きだって言ったから」

「あら……そうでしたの?……嬉しいですわ」


沈黙。

先に声を出せば、何かが壊れてしまいそうで。


「あのね、スカーレット。

私……あなたのこと、何も知らなかった。ごめんなさい」


「謝るのは、私の方です……」


短い沈黙のあと、彼女は続けた。


「許されないと思います。

それでも……このまま、支えてもよろしいですか?」


――ああ。


その瞬間、分かった。


王女が安心していた理由。

一番大切なものは、数じゃない。


「スカーレット。あなたは、ずっと私の友達で……仲間だから」


気づいたら、泣いていた。

怖くて言えなかった、たった一つの真実。

ずっと心のどこかで抱えていた違和感。


二人で抱きしめ合い、声もなく泣いた。


他の学生から見れば、異様だっただろう。

それでも、この時間は――必要だった。


おかえり、スカーレット。

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