彼女にこんなに早く出会うなんて聞いてません!
馬車に揺られて15分。窓の外が一気に開けたかと思えば、そこはアーディン王国の心臓部――王都の商人街だった。
「わぁ……!すごい!ティア、見て、あっちもこっちも人だらけ!」
人の熱気で空気が震えるようだ。日本とは違う活気に、思わず胸が躍る。
「迷子になったら困りますので、手をつないでいてくださいね、アキナ様」
「ちょっ、子ども扱いやめてよ!……でも、知らない土地だし、ちょっと心強いかも」
「路地裏に入ると一気に治安が悪くなりますからね。アキナ様は危なっかしいので」
はいそこ、余計な一言。イエローカードだよ、ティア。
でも――こうやって心配してくれる存在がいるのって、嬉しい。
「着きましたよ。仕立て屋です」
ティアに呼ばれて顔を上げる。目の前には高級感あふれる店構え。扉も磨き込まれていて、なんだか近づくだけでドキドキする。
「こ、ここで……?」
「はい。さ、行きましょう」
恐る恐る扉を開くと、すぐさま店主がにこやかな笑みで迎えてくれた。
「ティア様、お久しゅうございます」
「ラークさん、こちらがアキナ様です」
丁寧なお辞儀。物腰は柔らかいけど、長年の職人の自信がその目に宿っている……気がする。
――いや、私社会人経験とかないんだけどね?ここ来るまでそこら辺にいる女子高校生だったし。
話はとんとん拍子に進み、私はラナルータというスラッとした女性に採寸室へ通された。
ラナルータの手際は、まるで芸術。メジャーが舞ってるみたいだ。
「ラナルータさん、ここで何年働いてるんですか?」
気づけば、聞いていた。
「私ですか?まだ三年ですけれど」
「もうそんなに!すごいですね」
「ふふ、まだまだです」
照れながらも嬉しそうな顔が、なんだか胸に染みた。
……こういう“普通の会話”って、本当にいい。
採寸を終えてティアの元へ戻ると、彼女はじとーっとした目を向けてくる。
「アキナ様?顔がにこにこしてますけど、何かありました?」
「ううん!ティア以外の人と話せて嬉しくて」
「そう……ですか。なら、また街に来ましょうね」
その言い方がまるで姉みたいで、ふと日本の家族を思い出し、胸がきゅっとなる。
そんな余韻も束の間、
「アキナ様、生地をお選びください」
ラークの声で現実に引き戻された。
「軽くて丈夫なのがいいです!」
「かしこまりました。こちらの栗色など、髪色にも合いましょう」
「素敵!じゃあそれで……あと、このワインレッドも!」
買い物は順調に進み、本屋、文具店、杖職人の店まで巡り――
ぐぅぅぅぅ。
「……あ」
「お昼も過ぎましたし、そろそろ食事にしましょうか。シチューなどいかがでしょう?」
「シチュー!?行く!!」
テンション爆上がりで歩き出した、そのとき。
―――ドン!
「痛っ……!」
誰かとぶつかった。見上げると――
淡いピンクの髪。宝石みたいに輝く緋色の瞳。
同い年くらいの女の子が、気遣わしげに手を差し伸べていた。
「ごめんなさい。お怪我はありませんか?」
その声が、驚くほど甘くて軽やかで、心の奥にすっと入ってきた。
「こ、こちらこそ……前を見てなくて。えっと……」
言いかけて、息を呑む。
「……綺麗」
「え?」
「ごめんなさい!瞳がすごくきれいで。私はアキナ、あなたは……?」
「私はスカーレット・ドレインですわ。よろしくお願いします、アキナ様」
完璧なお嬢様スマイル。何これ、ヒロイン?いや、女神様?
「スカーレットで構いませんわ。同じ学年のようですし」
「え?なんでわかるの?」
「その本、魔術学園の教科書ですよね?」
あ、やばい。顔が熱い。
「学園が始まったら、仲良くしてくださいね。では失礼しますわ」
スカーレットは軽やかに人の波へと消えていった。
――後に“緋色の魔術師”と呼ばれる少女との出会い。
その重大さを、このときの私はまだ知らない。
ただ、“初めてできた友達”に胸をときめかせていた。




