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「恋をしないなんて可哀想」と言われ続けた私が、感情が全ての力になる異世界で、恋愛感情ゼロゆえになぜか無限魔力を得て魔王と戦うことになった話  作者: きりりんが
第1章: 無色の継承者、目覚める

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初めまして、私、勇者になることになったようです。

雨上がり特有の匂いが、玄関のドアを開けた瞬間ふわりと鼻をくすぐった。

昨日、この地域はどうやら梅雨明けしたらしい。


「アキナ、お弁当は持った?昨日みたいに購買でパンまみれになったらダメよ?」

「持ったってば!ほら、ここ!」

「はいはい、行ってらっしゃい」

「いってきまーす!」


私は家を飛び出し、湿気の残る朝の空気を切り裂くように走る。

今日は珍しく家を出るのが早かった。これなら急行にギリギリ間に合うかも。


アスファルトに反射した光が眩しく、汗ばんだ手でスクールバッグを押さえつつ、駅の階段を駆け下りる。


「よし、今日はやっぱツイてる!間に合いそう!」


誰に聞かせるでもない、いつもの独り言。

この日常が、たった数十秒後に崩れ去るなんて思っていなかった。

黄色い何かが、私の足元に突然浮かび上がったまでは。


「なにこれ?魔法陣……?」


足を止めたかったが、運動神経は平均。なんなら平均より少し下。

むしろ止まれたら褒めてほしい。


結果、私のつま先はその魔法陣にタッチし――

世界が、白に塗り潰された。

眩しすぎて思わず目をつむる。次に目を開けた時には――。


真紫のローブを着た五人の大人。黒い杖。

その後ろには、絵本かゲームに出てきそうな中世ヨーロッパ風のドレスとタキシードの集団。


「王よ!成功しました!」


……成功?なにが?ていうかここどこ?


「転移者アキナよ、急に呼び出してすまぬ。私はアーディン王国の王、ダレス・マクリーン=アーディンだ」


王様が喋った。

いやいやいやいや。


「転移!? 嘘でしょ!? 今日、学食のA定食がサバの味噌煮の日なのに!? どうしてくれるのよ!!」


ざわつく大人たち。王の眉がピクリと動いた。


「サバの味噌煮とは何かは知らぬが……そんなことよりアキナよ、この世界を救ってくれ」

「サバの味噌煮を軽く扱うな。私の大好物なのよ!で、なにから救うのよ」

「魔族からだ」


魔族。響きだけで胃が痛くなりそう。でも、顔を上げると王様は本気の表情だった。


・・・・ああ。本当に日本じゃないんだ。

お母さんと交わしたあの会話が、最後になるなんて。

そして、サバの味噌煮とも……永遠のお別れ……。なんて悲劇...。ま、悲しんでる場合でもないか。


「わかった。何すればいい?」


「まずは説明をだな……」


そこから始まった王の長話は、学校の全校集会の校長先生を三倍濃くしたレベルに長かったが、まとめるとこうだ。


●世界は剣と魔法のファンタジー

●魔法の源は“他人への感情”

●魔族には“恋愛の感情”を源にした魔法が特に効く

●魔王復活の兆しあり


――そして私は、この世界に“呼ばれた特別な存在”らしい。


……最悪だ。非常に最悪だ。


「王様、私、恋愛感情ないよ?」

「ない?」

「ないのよ。家族とか友達は大好きだけど、恋愛だけは本当に無理。アロマンティックでアセクシャルなの」

「アロ……? アセ……? なんだねそれは」

「気になるなら各自調べて。とにかく“恋の魔法”なんて期待しないで」


王様はしばらく固まった後、


「……ないものは仕方ないな」

「そうよ、ないものはないの!」

「どのみち魔術学園に通ってもらうつもりでおった。仲間を集めるがよい」

「仲間……! それはちょっとワクワクする!冒険って感じがするわ!」


こうして私は、魔王復活の危機という激やば鬼ハードモードな環境に放り込まれつつも、魔術学園へ通うことになった。


学園の秋入学までの2か月間、私は王宮の貴賓館で基礎勉強を受けながら生活することになった。

最初は緊張でガチガチだったけれど、人間意外と慣れるもので、王宮の食事が美味しかったのもあって比較的すぐ順応した。


そして迎えた、とある朝。


「魔術学園ってどんなところなのかしら、ティア」


髪を結いながら話しかけると、世話役のティアは手を止めず微笑む。


「この世界一の学園ですわ。優秀な若人が集まっていますから、すぐにお仲間ができますよ」

「ティアも来てくれるよね?」

「もちろんです。アキナ様おひとりではまだ危なっかしいですもの」

「ありがとう。私、正直心細かったのよ……本当にひとりぼっちで」


そう言うと、ティアは鏡越しに優しく目を細めた。


「できましたわ、アキナ様。痛くありませんでしたか?」

「うん、ありがとう。すごく綺麗。流石ティアね。ほんと手先が器用だわ。」

「今日は制服の採寸や教科書、杖などの買い出しに街へ参りますよ」

「街に!? ようやく出られるのね!!」


私の目は一瞬で輝いた。

王都の街はとても広く、流行の服も揃っているらしい。

久しぶりのショッピングに胸が躍る。


「はいはい、では参りましょう」


ティアが笑い、私たちは馬車に乗り込む。


――そして、この日の“街での買い物”が、

後に私の運命を大きく変える出会いへとつながることを、

この時の私はまだ知らなかった。

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