彼氏の彼女
オレの方が先に髪を切り終わったので、近くのカフェで時間つぶすから、慌てなくていいよって連絡を柚猫に入れておいた。
そしてしばらくすると、キレイに髪をなびかせてくる柚猫がこちらにやってきた。
オレの目の前に腰を下ろした瞬間、お花畑に一瞬でつれてこられたかのような、なんとも心地よく華やかな香りがふんわり柚猫から、漂った。
「おっ、髪サラサラでめっちゃかわいいな!髪からもいい香りがする」
そう、オレの作戦はほめごろしだ。
で、もうひとつある。
じっと目をみる!だ。
なんか、聞いたことあるんだよね。
何秒か目を合わせると、おちるみたいなね?
あるよね?
てことで、褒めたり目をじっとみたりしてたんだけど…
そんなに簡単には、いきませんでしたとも…。
どうしよう…ムリかもって、あきらめつつあるオレ。
そんな時に、柚猫からいきなりなことを言われた。
「指輪…さっきあげたい人がいるみたいなこと言ったね。あれって…もしかしてカズって…彼女いるの⁉︎」
と、柚猫から聞かれた。
…
それは、あなたです‼︎六人の彼氏もちのあなたです‼︎なんて、言えるか⁉︎
そもそも彼氏いるんだから…オレには負け確なんよ。
でさ、そもそも彼氏が普通一人じゃん?
でも、柚猫には六人も彼氏がいるわけじゃん。
一人ならまだしも…六人の壁は、いくらなんでも多すぎるって…‼︎
あ、でも…考えようによったら、一人の分厚い壁よりも、六人分の薄い壁の方が…
…
いや、そもそも薄いかどうかなんてオレには、知るよしもない…。
オレは、柚猫の質問にきちんとこたえた。
「彼女は、いない。でも、渡したい人がいるのは、本当」
…
「ふーん」
柚猫は、少し面白くなさそうに返事をした。
…
ふーんって…
あっそうー、まぁどうでもいいけどねーみたいな…軽い感じの返事って…。
そりゃ、彼氏でもないただの幼馴染のことなんて、そもそもどうでもいいんだろうね。
柚猫は…そもそも結婚願望とかあるんだろうか?
「あのさ、柚猫ってさ…」
「なに?」
「柚猫は、結婚願望とかあるの?」
柚猫は、しばらくオレをじっとみたあとに目を逸らしながら
「ある」
と、こたえた。
なぜ目を逸らしたん?
って、少し困惑していると続けて言った。
「本命がいて…さ、でもその人とは絶対に幸せには、なれないの」
なんて、悲しい表情をみせてきたんです。
本命が…いるんだ⁉︎
で、なんで幸せにはなれないんだよ…
彼氏のうちの一人なんだろうけど…まさか、その六人のうちのだれかが、結婚してるってことか?
既婚者と付き合ってるってことかよ⁉︎
な、なんでそんな大冒険を…
素手でボスにたたかいを挑んでるようなもんじゃないか‼︎
なんなら、紙の剣でたたかう…的な?
柚猫…
かなわない恋だとしても…六股なんてすることなかったじゃないか‼︎
その人を一人に絞ればいいんじゃ…
たとえ、かなわなくてもさ…
一途に思い続けることも大事っていうか…
…
それが逆に苦しくて寂しかったから、それを紛らわすかのように、他の人たちと交際してるってこと?
さみしさを数で埋める…てきな?
そっか…
本命がいるんだな…柚猫にはさ。
叶わない恋か…。
一気に自分の心が、テンションダウンしたのがわかる。
会社の人なのか…それとも…
オレは、柚猫がただの六股なんだって思っていたから…だから、やめさせようって必死だったけど…
これは…なかなか難しい心の問題なのかもしれない。
どうしようもないことが判明してしまったので、オレは大人しくたわいもない会話をその後は、ずっと続けた。
そして、その日はそのまま解散した。
ただの暇つぶしとか、軽い気持ちで六人と交際してると思っていたのに…
そうじゃないとなると…
…
「あれ、幼馴染さんじゃないっすか!よくあいますね‼︎」
声の方を振り向くと、そこには柚猫の彼氏の一人が立っていた。
「…あ、先程はどうも。あれ、彼女さんは…?」
「いま、化粧直しに行ってまして」
これは、チャンス‼︎
「あの、こんなこと聞くのもあれですけど…彼女さんは、柚猫の存在を知っているのでしょうか?」
恐る恐る聞いてみると、柚猫の彼氏が
「あ、もちろん知ってますよ」
と、笑顔でこたえた。
…
えー…
そ、そうなんだ…。
…
「お待たせー」
彼女が戻ってきたので、オレは慌てて挨拶して、その場を立ち去った。
…
知ってるんだ?
もちろんって…
そんな即答で、笑顔でこたえてくるなんて…
続く。




