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08

 魔女イルニアは王都エンジュ公爵邸へ呼び出された。





 そこそこ広い室内には、森の薬屋までやってきた当主代理のルドー、次期当主と聞く十歳の少年が並んで三人掛けのソファに間を開けて座し、その向かいには四組の母子が用意された椅子に座している。


 そして三人掛けのソファの横、一人掛けのソファには何故か国王が座し、その後ろに騎士ユプシロン卿が控えている。


 壁際には使用人達も立っているが、他の護衛はどこにいるのか。


 「さて……」


 最初に口を開いたのはルドーではなく、十歳の少年だった。

 「君たちにまた集まってもらったのは他でもない。国王陛下にご紹介賜った、血族判定魔法が使える魔女殿の都合が漸くついたからだ」

 少年の言に、四組の母子はざわついた。

 「血族判定と申されますと……」

 中の一人の母親が恐る恐る問う。

 「うん。先だって王家の血筋かどうか判らない娘の判定を行った実績もある。知っているよね?」

 一連の騒ぎは、全部ではないにしろ市井にも知られている。

 それだけ元王太子が囲った少女は王都で話題になってもいたのだ。

 「保証は国王陛下がしてくださる」

 少年はちらりと一人掛けソファに座す男を見やる。

 それが誰か紹介もされていないが、最初からそこに座って茶を供されていた男の庶民どころか目の前の公爵家の二人とも違う、何か抗いがたい雰囲気を敏感に感じ取っていた母子たちは不安そうに、あるいは何か思惑がありそうに男を見た。

 が、男は黙って成り行きを見守っている。

 「入ってもらって」

 少年が壁際に控える使用人に言うと、皆が案内されて入ってきた扉とは違う方向の扉から、いかにも魔導師のローブをまとい、深くフードを被った人物が同じくローブを着た弟子らしき少年を連れて現れた。

 少年はフードを下していて、見事な銀髪と灰色の瞳の、集まった四人の子供達の誰よりも貴族的な色合いと美貌を曝していた。意図せず、四組の母子が気後れするような。


 「彼女は魔女イルニア。早速お願いするよ」


 エンジュ公爵令息に言われ、魔女は四組の母子の前に用意されたテーブルの上へ、ほの青い薬瓶を置いた。

 並べられたグラスそれぞれにほんの一滴を垂らし、懐から出したとしか思えない水差しから水を注いだ。

 グラスの底がわずかに凍った。


 それを目に入れた母子はまたざわめいた。


 魔女は二つグラスを持ち、まずは次期当主の少年とルドーへ差し出した。

 「確実に血のつながりがあるはずのお二人にまずは血を一滴ずつ頂きたい」

 二人はお互いを見交わした。そして魔女へそれぞれが手を差し出した。

 「私が採取してよろしいか?」

 二人は頷いた。

 魔女はグラスを弟子へ預け、まず少年の差し出した左手をやんわりと取り、己の右の人差し指を少年の親指へ近づけた。

 触れるか触れないかという所で、きらりと何かが光り、少年がぱちりと瞬きした。

 弟子がすかさずグラスの一つをその下へ差し出す。

 魔女が少年の親指をつまんでぎゅっと圧をかけると、グラスへぽたりと紅い一滴が落ちた。

 途端に、薄青い液体が淡く発光し、グラスの上に複雑な魔法陣にも似た円が浮かび上がった。

 魔女は驚きに目を見開く少年の親指をひと撫でし、グラスはテーブルの少年の前へ置かれた。

 ルドーからも同様に血を一滴グラスへ落とした。


 「これは染色された魔力紋」


 魔女が少年とルドーに告げる。

 少年は円の中に浮かぶ細かな模様に見入っている。

 「エンジュ公爵家の特色は水の魔法」

 魔女が言うと、紋章のごく一部がほのかに光って円を離れ、何かの文字列のように直線になった。

 少年の紋も、ルドーの紋も。


 「どちらも水魔法の発現は既にあるようだ」


 そう言って、二つを重ね合わせる。

 ぴったりと重なった。


 「おお……」


 ルドーが思わず声を立てた。


 「ルドー殿の母君、つまり、先々代のエンジュ公爵夫人は、特徴的な魔力をお持ちだった」


 更に一部がまた光って二つの円からほぐれて短い一列になった。

 重ねると、途中から少年の物は途切れている。

 「叔父と甥だとまるきり同じにはならないね……」

 とはいえ、短い少年のそれと重なっている部分はぴったり同じである。

 「時代が遡ると融合していくが、近い世代であれば、そして一族に特徴的な魔力であれば、先ほどのようにぴたりと一致する部分がある」

 そう言って、もう一杯グラスを用意し、魔女もまた自らの血を一滴そこへ落とした。

 複雑ではあるが、エンジュ家の二人とは全く違う魔法紋が現れた。

 するすると一部解けて伸びた文字列は、先ほど少年とルドーにぴたりと一致した文字列の下に並んだが、見るからに異なっていた。


 「これは私の水魔法。この通り似ても似つかない」


 そして振り返った。


 「さて」


 四組の母子はじり、と後ずさった。

 「この検査を受けないと、血筋が認められないが、どうする?」


 それぞれが顔色を悪くして、だが、一縷の望みをかけたか、一組の母子が子供の腕を掴んで一歩前へ出た。母親の目は必死だったが、子供は今にも泣きそうに顔を歪ませていた。

 魔女は歩み寄り、まずは母親の手を取った。

 不思議そうな顔をする母親から手早く血を採取する。弟子もさっとグラスを差し出し受け止めた。

 何故自分まで、と母親は抗議したが、「母子関係も調べる為だ。当たり前だろう」と魔女に冷ややかに言われて押し黙った。

 浮かび上がった魔法紋は、簡素だった。

 続いて、若干怯えた様子の子供の手を優しく取って、魔女は素早く親指から血を採取した。

 痛みの覚悟でもしていたのか、子供はぎゅっと身体を固くしたが、ぱちんと一瞬弾かれたような感触が走っただけだった事に拍子抜けしたような顔をした。

 子供の魔力紋も母親と同様、単純だった。

 二人の前へグラスを置き、後の三組へ目をやる。

 評価は全員分の魔力紋を並べてから、ということのようだった。

 次は、濃い金髪と青い目の子供が一歩踏み出した。後ろに続いたまだ少女のような母親は何故か闇のように黒い髪をしている。

 それを見て、皆も恐る恐る手を差し出した。






 三組の母親の魔力紋は単純だった。

 家系的に強い魔力持ちを掛け合わせてきた貴族とは違う、庶民の魔力紋で、一人は僅かな火魔法を持っていたが、火花が飛ぶくらいだろうとイルニアは言った。

 庶民だとて少しは魔力を持っている筈だが、先ほども言ったように時代が遡ると融合してしまい、さして強い魔力でもないとなると単純な一文に集約されてしまう。

 親世代の魔力も貧弱であれば、その一文も短い。


 その三組の子供達だが、これもまた、母親と同じく単純だった。

 エンジュ公爵家の水魔法の欠片すら存在しない。

 そして一番明瞭な文字列の半分が、母親のそれと一致している者もまた一人しかいなかった。


 後に判明した事だが、髪色が金や銀の子供を連れてきて、母子のふりをしていたものらしい。


 そんな得体のしれない魔法薬で何が判るのかとその母子は抗議した。

 しかし、四組目、黒髪の母親と、金髪の子供の魔法紋を見て黙った。


 二人のそれは先ほど見たエンジュ公爵家の二人と同じく複雑で、エンジュの血統かどうかはともかく、貴族階級の出身である事は明らかだった。



 そこで、三組は別室へ退けられ、一組が残った。

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