友人が頼んだ唐揚げ定食にレモンをかけたら戦うことになりました。
人集りが集まるショッピングモール。全部で五階ある大型商業施設のうち、一階にあるフードコートにて僕は友人と食事を取っていた。──取っていたという過去形より、これから食べ始めるが。
「お待たせ~」
友人がハンカチで濡れた手を拭きながらこちらに戻ってくる。僕の目の前に座ってくると、「あ、丁度俺の頼んだ唐揚げ定食が来てるやん」とこちらに視線を向けてきた。
僕とは違い、彼は端麗な顔つきで鼻がシュッとしており、かつキリッとした目つきをしていた。──対して僕は何の取り柄もないし、その上弱々しい体つきをしているから、毎年学年が上がる事につれていじめられていたけどね。──肉付きがいい友人とは違って。
「……」
「どうかしたの?」
訝しげな目で友人が自分の頼んだ唐揚げ定食を見つめる。すると、こちらに顔を向けて、
「……レモン、かけた?」
「……れ、レモンがどうかしたの?」
──確かに友人に“も”レモンをかけた。だが、それはあくまで僕なりの気遣いだ。
「かけた?」
そう真顔で訊ねてくる友人の表情は慄くような表情をしていた。──まあ、分からなくもないし、勝手に唐揚げにレモンをかけられたら怒るのも無理はない。だって、唐揚げにレモンをかけるかかけないか、それ自体論争が巻き起こっているから。
「だって──、一度僕が頼んだ唐揚げ定食を食べたんだけど、少しだけ味に惜しい感じがしたから……それで、自分の唐揚げにもレモンをかけたんだけど」
「あっそ。だからこっちにもレモンをかけたわけ?」
舌打ちを込めながら友人は話す。──早いこと謝った方が良いか。
「ごめん。やっぱかけない方が良かったかな」
と軽く頭を下げると、「いや」と友人はかぶりを振った。
「どうせだったら──レモンをかけた状態で唐揚げを食べるのも悪くはないかなって」
「……ふぇ?」
呆けた声を出してしまう。──ん、んん?
「いただきます」と箸を手にし、唐揚げを一口食べる友人を一瞥する。次の瞬間、「……悪くないな」と彼は低い声で云った。
「悪く……ない?」
「ああ、失敬。──悪くないな、は俺なりの上級の褒め言葉なんだ。気にしないでくれ」
と云った後、また唐揚げにかぶりつく友人。
──なんだ、普通に食べられるじゃん。
と思っていながら、僕は自分の唐揚げに手をつける。
──まあ、そう思っていたのもつかの間なんですけどね。
「……やっぱ無理だ」
「は?」
首を傾げていると、次に降りかかってきたのは友人が(なぜか持ち合わせている)斧だった。小さな悲鳴をあげながら、どこか聞き覚えのある某RPGゲームの音楽が脳内で流れた。
「勝負だ!!」
──こうして、僕は友人と戦うハメになったとさ。
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