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別れろ【美麗の話1】

一ヶ月前、俺は、社長である針山さんに呼ばれていた。


「来月、発売予定の週刊誌だ」


そう言って見せられたのは、笹森梓の家で飲んだ時の写真だった。


「針山さん、俺…」


「違うのは、わかってる。でも、世間はそうは思わない」


そう言って、針山さんは煙草に火をつけた。


「向こうも急に売れたから、狙われてたんだろうよ」


俺は、何も言えずに俯いた。


「飴と別れろ、時間やるから」


「えっ?それは、無理だよ。針山さん、わかってるよね?」


俺の言葉に針山さんは、真一文字に口をひいて首を横に振った。


「笹森梓の事務所は、2か月前に別れさせた。彼女と…。だから、美麗も飴と別れろ。笹森梓を見たらわかるだろ?本物の愛に絶望した人間は、誰もが見いる程の危うさと色気を放ってくんだ。意味わかるよな?」


そう言われて、俺は針山さんから目を反らした。


針山さんが言いたい事は、わかっている。


愛する人と別れた後から、さーに妙な色気が生まれたのも理解してる。


でも…。


俺は飴ちゃんを手離したくなどなかった。


「飴は、絶対、美麗おまえの為に別れるよ。美麗おまえが、昇りつめてく人間だって飴はちゃんとわかってる。後は、美麗の気持ち次第だ」


針山さんは、そう言って灰皿に煙草を押し当てた。


「針山さん、俺、飴ちゃんいないと生きていけないんだよ。飴ちゃんは、俺の人生の全てなんだよ。わかってるよね?飴ちゃんいないと俺が駄目になるって…。わかってるよね?」


俺は、針山さんにすがりつくような目で話した。針山さんは、俺の姿を見てやれやれと言いたそうな顔をして話してくる。


子供ガキみたいなセリフ吐いてるんじゃねーぞ。30歳になるお前は、もう可愛いだけじゃ生きていけないんだ。その為に、お前を乙女にさせる飴との恋は捨てるんだよ。年頃過ぎたおっさんの可愛いは、売れないんだよ。わかるだろ?美麗」


「わかってるよ」


俺は、針山さんを見たくなくて下を向いた。


「お前が言えないなら、俺から時期をみて話す」


「ちゃんと言うから、針山さんは出てこないで…お願いだから」


「わかったよ」


俺は、針山さんに頭を下げて、事務所を後にした。


(ハチコイで、人気急上昇中の若手俳優と若手女優熱愛!!通い愛は、恋の味?)


ふざけたタイトルの見出しだった。


俺は、地面を蹴飛ばした。


二年前に撮影した。


(蜂蜜味の恋)で共演した。笹森梓と俺。


昨年夏に公開されると一気に、

(ハチコイ)ブームがやってきた。


主演をつとめた俺達は、そのお陰で忙しくなり、引っ張りだこになった。


今年は、去年の5倍になった。


さーの事務所も俺の事務所も、ここで勝負をかけたいようだった。


今年の1月さーは、彼女と別れさせられた。


そして、3月。


4月に発売される週刊誌のせいで

俺も飴ちゃんと別れろと言われた。


人気なんかでなくてよかった。


細々とやって、飴ちゃんと生きるそれだけでよかった。


飴ちゃんが、いれば何もいらなかった。


飴ちゃんは、俺の事を乙女にした。


飴ちゃんと付き合ってから、俺は可愛い俳優さんと言われるようになった。


トゲトゲしてた、俺のトゲを全部抜いてくれたのは飴ちゃんだった。


飴ちゃんは、喋り方は偉そうなのに夜は優しい。


絶対に俺を傷つけなどしない。


俺は、ずっと飴ちゃんの嫌がる事をしていた。


子供みたいに困らせる。


でも、飴ちゃんは俺を離さない。


飴ちゃんと俺の愛は、永遠なんだよ。


ピンポーン


「はい」


「終わった」


玄関に入ってすぐに、飴ちゃんを抱き締めた。


「今日早かったな」


飴ちゃんは、俺の頭や背中を優しく撫でてくれる。


「ドラマ撮影、明後日からだから。今日は、事務所に呼ばれてただけ。ビール飲みたい」


「ああ、はいよ」


飴ちゃんは、もやしとキャベツと人参と豚肉で野菜炒めを作っていた。


「食べるか?」


「うん、食べる」


食べる事も飲む事も命をギリギリ繋げとく手段にしか思っていなかった飴ちゃんに、食べ物が美味しいと思える感情を教えたのは

俺だと、自負している。


「はいよ」


そう言って、飴ちゃんは、野菜炒めをくれた。


「乾杯」


俺は、ビールを飴ちゃんのビールにあてる。


飴ちゃんの料理は、美味しい。


「お店だせるよね?飴ちゃんの味覚はすごいよ!俺の好きな味だもん」


「褒めすぎだろ?」


「シャキシャキでうまいよ」


「よかったな」


飴ちゃんとの時間が幸せ過ぎて涙が出てくる。


「泣く程うまいか?」


飴ちゃんが、指で俺の涙を拭ってくれる。


優しい指、愛してる。


針山さんには、悪いけど…。


俺、飴ちゃんと別れないから…。



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