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アネモネと太陽  作者: 社員
6/8

引き金

 その日の朝、ソルはいつもより少しだけ早く起きていた。

 歯を磨き、顔を洗い、髪に香油を付けて整える。

いつも通りのルーティンを行っている最中、部屋の扉を誰かがノックする。


「殿下。失礼致します」

「アネモネか。入って良いぞ」

 アネモネは入るや否や、単刀直入に告げた。


「国王陛下がお亡くなりになられたようです」

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 一国の王だけあり、セローの葬式は式典と間違えるほどに華やかなものであった。 

 宝石が散りばめられた棺に遺体は入れられ、歴代王が眠る墓地へと葬られた。

 その一連が終わると、式場からは水のように人が溢れ出し、残ったのはソルとセムリットだけであった。

 ソルは赤くなった目から涙を流し、セムリットに言った。


「結局、私は父上の死に目に会えなかった。親不孝者だな」

「あまり気に負いなさるな。アネモネが心配致しますぞ」

「それはそうだが……。それでも悔やまずにはいられない。私が無理矢理にでも行っていれば」

「過ぎたことを言っても始まりませぬ。むしろ、今後のことを考えましょう」

 セムリットは自らの白い顎髭を優しく撫でながら小声で言った。


「今回の件。あまりにも急すぎます。シュタイン様が何かされたのではないでしょうか」

「……セムリット。何が言いたいのだ」

 問い返すソルに、セムリットは続けて言った。


「国王様はベランダで亡くなられておりましたが、私が極秘で遺体を調査したところ、お体から毒が検出されたそうです」

「……父上は、暗殺されたということか」

「間違い無いでしょう。毒の入った薬を飲まされたか……。何にせよ、これは願っても無い大義名分ができましたな」

「何を言うか! 控えろセムリット!」 


 セムリットの言葉の示す意味を察したのか、ソルは思わずセムリットを怒鳴りつけた。

 しかし、セムリットは逆に彼を怒鳴り返す。


「控えませぬ! 殿下!今こそが機会なのです!

 貴方様は王になるために生まれてきた。ジャムール王国の民には、貴方のような人間が必要なのです!」

「し、しかし」 

「ええい! 何を臆するか小童! シュタインは貴様に嫉妬している! 何もせずにいれば殺されるのは時間の問題であるぞ!」

「兄上、いや国王陛下が私に? あのようにお優しいお方が?」

 何も分かっていないソルに対し、セムリットはため息をつきながら言った。


「あなたは純粋すぎる。先日シュタインに会った時、私はその場に充満する殺気に身が凍りつきそうでした」

「そうか。私は何も知らなかったのだな。サーム兄上はそれを知っているのか?」

「恐らく、誰よりもご存知でしょう。同じ母から産まれた双子の兄と弟なのですから」

「そうか。分かった。分かったが、もう少しだけ時間をくれ。私にも心の準備があるのだ」


 消え入るような声で言うと、ソルは逃げるように去って行った。

 その背中を見て、セムリットは大きな舌打ちをする。


「戦場での姿とは正反対だな! 臆病者め」

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         ・

 ある日、ソルが一人で宮中を歩いている時であった。

 どこからか三人の黒頭巾をした者たちが現れ、彼の周りを取り囲んだ。


「ソル殿下。お命頂戴いたす」

「誰の差金だ! この無礼者共!」

 ソルの叫びに、黒頭巾達は不適な笑みを浮かべている。


「さあ? 誰でしょうか」

「国王陛下か! いや、犯人を突き止めるのは貴様らを退治してからだな」

 ソルは腰に下げている剣を抜くと、瞬く間に一人の首を刎ねた。


「流石は噂に聞く武勇ですな。しかし、これはどうかな?」


 黒頭巾達は前後から突撃し、ソルが剣を振るや否や、宙に飛び上がり急降下する。

 ソルはそれを後ろに飛び避けると、不敵な笑みを浮かべた。

「歯応えのない連中だ。大道芸でもしているのか?」

「我らの暗殺技術を大道芸と一緒にされるか! 侮辱されるな!」

 頭に血が昇って冷静さを欠いた黒頭巾を、ソルは頭から股下まで両断する。

 続いて最後の一人を、力強い剣技で圧倒していく。


「ほら! ほら! どうした!」

「くっ! 捌ききれぬ」

「これで終いだ!」

 ソルの剣先は黒頭巾の喉を勢いよく貫いた。

 死体が地面に倒れた瞬間、騒ぎを聞きつけたのかセムリットとアネモネが急ぎ足でソルの下まで駆け寄った。


「殿下! お怪我はございませんか!」

「心配するなアネモネ。大したことない連中だった」

 アネモネを安心させつつ、ソルはセムリットの方を見やって哀しげな表情を浮かべた。


「もう、どうしようもないのだな」

 セムリットは力強く頷く。


「ええ。ここまでされて黙っていては、殿下の名が廃ります」

「そうか。血は繋がってないとはいえ、尊敬できる兄だと思っていた。それは私だけだったようだ」

 ソルは覚悟を決めると、低い声でセムリットに告げた。


「セムリット。兵をニ、三万集めてくれ。それだけあれば充分だ」

「よくぞ申されました。すぐに召集致します」

 セムリットは歓喜の表情で深々と頭を下げた。

 対照的に不安気な表情を浮かべるアネモネに、ソルは優しく呟いた。


「心配するなアネモネ。私はシュタインには負けぬ。必ず勝利しジャムール王国を豊かにしてみせる」

「承知致しました。私も微力ながらお力添え致します」

「ああ。頼むぞ」


 ソルはそう言って、思いきり黒頭巾の頭を踏み潰した。


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