帰っておいでドラムンベース
ポストモダン文学、ハイドラマ(普通のパターンからずらした展開のお話)です。
かつて私たちは歴史を持っていた
親の世代、またその上の世代から連綿と受け継がれてきたそれだ
あの大きな戦争が終わってちょうど80年という時
私たちも戦争を始めた
世代間闘争である
この争いで私たちは親から受け継いできた名前を棄てた
この戦争は長引く
やがて私たちは恋人が自分につけた新しい名前を密かに互いに呼び合う
まるで映画「ブレードランナー」にでも似合う絵にかいたような心のディストピアの中で
私たちは2つの世界を持っていた
現実社会と仮想現実社会
両者は相互に補完している
総じて両世界とも含めこの世はポイント制だ
ただ2つの世界は相互補完で釣り合っているため現実社会でポイントの髙いものは仮想現実社会では低いポイントのランクに振り分けられるというシステムになっている
「お弁当はレンジで温めますか?」
「お願い」
チン! 温め終わった弁当をいつものようにレジ袋に入れるだけだった
そうするはずだった
だが、、、弁当のラップをこじ開けておもむろに箸で弁当を平らげ始める
誰が、
コンビニのアルバイト店員のレジ係、私がである
熱い、熱い真正面からの視線をまるで無かったかのようにして犬のように食べる
あっけにとられていたのは目の前にいるお客さんだけでなくレジ横で雑務をこなしていたこの店のオーナー
その日のうちにというかその5分後には私はその店をクビになっていた
なぜそうなったのかわたしにも分からない
一つ言わせてもらえば、ホントは誰もが狂っている
本当は、、、
外は雨だった
私の傷心の表れでもあるかのように
水色の傘を差しながら堤防でボーっと川岸を眺めている、するともう一つの黒い傘が私のほうへ近づく
美しい女だった
村上春樹の小説ばりのメロドラマの展開をはしょって、私たちは恋愛した
私は彼女に「セラート」という名前を付けた
いつでもコスれるからだ(”DJ”でググって下さい)
彼女はわたしに「ミニムーグ」と名付けた
ムーグにしては小さいからだ
やがて私たちには娘が生まれる
デビルフィッシュである
デビルフィッシュは快活な娘だった
彼女はあらゆるものを知りたがった
知るだけではない、実践もした
ただ私はそこに不穏なものを感じていた
彼女が本などから知識を吸収するたびに彼女の顔が薄緑に変色していくように思えたからだ
それにやややせ細っていくようにも見える
それとは反比例して彼女の作る絵画や造形物はこの世の至宝に近ずいてゆく
世のあらゆるジャンルを想起させ見る人々をカタルシスへといざなう
「淀みの淵に光が、メタモルフォーゼが見えたわ」
彼女は時々、そうもらすのであった
彼女の作品が"オフィス密林"のレビューでの星を獲得するほど彼女からは明らかに何かが奪われていった
不安、そして彼女の作品の行く末への期待
現状維持バイアス、まあ、どうにかなるさ、気のせいだろ
ある小鳥たちのさえずる朝、デビルフィッシュはベッドの上で冷たくなっていた
真っ白に燃え尽きていた
死んでいたのである
またこの川辺に来ていた
いつだったか雨の日に眺めていいたこの川辺
少年二人が川遊びをしている
彼らの笑顔ははちきれる
その表情に影は無い
何かを失ったときここに来る
自分の一部分
そうわたしはそれを失った
7日、14日、21日、灰色の景色が移ろいで行く
ただ表面社会の無機質がわたしの前を通り過ぎていく
わたしは心してそうしようと思ったことと何かをまぎらわすために少年たちのように石で川の水切りをしようとした
その時である
足元の小石を握りしめた瞬間わたしは天使に蹴られた
猛烈な眩暈、、、そして嘔吐した
気付いてはいけない何か
それに気付いてしまった自分に気づいた
・・・・・実存、水の滴る音が微かにする、どこか懐かしい幻影・・・
・・・それでも取り返したいものがある
わたしはこの世界では小学校の教師である
コンビニのバイトは副業だった
音楽のサブカルを教えている
70年代後半のディスコから00年代のグリッチテクノまでをカバーしている
なのでジェイムス・ブラウン(ファンクの帝王)は神人の如く敬愛している
生徒に例えばテストでこんな問題を出す
「電気グルーヴが初期のアルバム、カラテカ、で主にベースの音で使用していたアナログシンセサイザーの機種名を答えよ」
答えは「Roland SH2」
超簡単である
はしごを使ってでもしないと上に届かないほどの背丈の棚
広大な敷地にびっしり並ぶ大きな本たちの壁、壁、壁
ここには膨大な知がある
集積情報をストレージしておくという人類の知恵、わたしはいま図書館にいる
娘の蘇生の手がかりを見つけるためにだ
いろいろ調べてみたが手がかりはやはり見つからない
とうとう受け入れなければならない現実と向き合わねばならないか、
暗い闇が世界を覆い始める
図書館の受付係が私に興味のありそうな態度をとりだす
私の図書カードをみてそそられたのだろう
「あんたが探しているものを当ててみせるよ?」
受付が言う
「ズバリ、蘇生薬でしょう!」
べつにそうなんだが、ズバリ、は要らない
「ありかを知っているのか?」
「知っているよ。」
受付が言う
「教えてやる代わりに一つお願いがあるんだ
ここにボタンの入っている箱があるからこれをしばらくしたら押してほしい」
「それだけでいいのか?」
受付がうなづく
「魔法の世界に行って、ザオリクを覚えな。」
「なんだそりゃ?」
言うには
「100%蘇生の呪文だよ。」「ホグワーツ城へ行け。」
「・・・・・」
図書館を出る
公園脇のベンチにうな垂れるように腰をかける
足の底に根が生える
小箱を取り出す
「・・・・・」
わたしはおもむろにボタンを押した
すると図書館が大破した
それに連動して学校自体が吹き飛んでしまった
あとから知ったことだがあの受付はルディー・モレロとの失恋で傷心だったそうだ
わたしは片道切符の魔法の世界へ行くことを決意する
それは現実世界で失敗をした人間の行くところだ
仮想現実の世界(魔法の世界)
前にも話したが現実世界、仮想現実は相互補完である 釣り合いを持っている
現実世界で副業失敗と公共施設爆破容疑者の私は魔法の世界ではエラいポイントの髙いキャラになっているに違いない
そう誰もが予感するようにわたしも期待した
わたしはスライムになっていた
ドラゴンクエストというゲームが始まって勇者がまず初めに戦う超雑魚キャラである
弱すぎてもはや萌えキャラの部類に入る立ち位置である
ただ幸いだったのが不思議と私についてきてくれた恋人のセラートである
彼女は僧侶だった
復活系の魔法が覚えられる
わたしたちは図書館の受付だった男の言ったとうり、ホグワーツ城へ向かった
もうどれくらい歩いただろう
入ってみれば何てことないダンジョン(迷路)
脳神経細胞キャパの限界で過去の事を全く覚えていない
いつまでもいつまでも同じ部屋、同じループ
またこのパターンかよ
バカでも気づく
悪者が必ずいるんだろ?今まで何人の仮想敵を相手にしてきたんだ?
フリーメイソンにイルミナティー、果てはディープステイト、カバール
闇夜の枯れすすきである
ホグワーツ城5階のカウンター席に鎮座するわたしたち
そこはバーだった
カウンターの左のわきに佇んでいる女がいる
わたしはその女に「預言者5」という名前を付ける
さっそくわたしはその階の簡易トイレへその女を連れ込む
そこには皿があった
わたしは便座の上でその皿をぐるぐる回す
預言者5は高揚して頬が赤くなりだす 吐く息も荒くなる
「もっとぉ~、もっとまわしてぇ~。」
預言者5はまくしたてる
「こうかぁ~、こうかぁ~!」
わたしは女の股に力でぐるぐる回す
彼女は絶叫する
そして果てる
汗だくだくの中預言者5はわたしに話しかける
「ザオリクを覚えたいんでしょう?」
「この城の屋上に行くといいわ。」
わたしは何かを成し遂げたのだろうか?
さっきバーで飲みかけたカルーアミルクの味が遠い昔の記憶の断片のように忘却の彼方へ向かってしまう
色々な思いが胸をかすめる
なぜ、あの時娘を止めなかったのか
好きなことをさせてやれ
可愛さのあまりそれが優先されていた
それが本当の愛情か?
だが、それとひきかえに・・・
判断力
わたしの頭に重くのしかかる言葉
もう間違いを起こしたくない
あともう少し
高鳴る予感が階段を上る足音と共に脈打つ
屋上になにか手がかりがあれば
屋上
といっても何もない
3本の細い鉄柱の真ん中にこの国の国旗がはためいているだけである
何もないのでしばらくそこらを散策していると声が聞こえる
「・・・リク。」
なんだ?
「ザオリクを知りたいんだろう?」
その声は言う
「ザオリク。そんなものは無いんだ。皆がそう言うと納得するからある。ただのナラティブ(語り口)だ。」
一緒にいたセラートが私を指さしている
わたしが私自身に喋っている?
いや、喋っているのは、わたしの影だ
「わたしはべリンガー。お望みとあれば作ってやるぞ。ありとあらゆるクローンをなぁ!」
影は言う
「ただお前の命と引き換えにだ。」
冷汗が頬をしたたる
わたしの足元がゴールドに輝く
メタライズ(金属化)されている
ホグワーツ城上空をばらばらと飛び交うヘリコプター
この一部始終をリポーターが全国中継している
セラートがスピーカー片手にわたしに叫び声を上げる
「ミーム!ミームと叫んで!」
わたしは藁をもつかむ思いで叫ぶ
「ミーム!!」
その時はわたしが完璧に銅像になった瞬間だった
-無関心は権力者、統治者への静かな支持である-
そう刻まれている銅像だ
地響きが大地にこだまする
時間が逆行する
鳥が地を這い
魚が空を飛ぶ
何もかもがあべこべになる・・・ゴゴゴゴゴ・・・
正確なピッチでうちよせ音をたてる波
強烈な爆風で吹き飛ばされた峰
波は残酷に削られたその巨大な円形痕の端にうちよせる
日差しはまっすぐ上、正午に近い
ポツンと丘の一軒家
朱雀のような緑の森の中の赤い点
ありふれた一家だんらんのシーン
「NI」という
セラートが男と並んでいる
「マッシヴ」という授かりもの、娘を胸に抱えて
読んで下さってありがとうございました。




