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4話 セーラは剃刀を買いに行く

カランコロン


 客が来たことを知らせるドアベルが鳴り、その音を聞いた店主が挨拶をする。


「いらっしゃいませ」


 セーラは店に入り、他に客が居ない事を確認し、店主に近づく。彼女は、年配の優しそうな女性の店主を見て安心する。


(よかった、若い女性や、男性じゃなくて。この方なら話もしやすそう……)


 安心したセーラは、なるべく人がいないうちに剃刀を選んで、帰りたいと思い、すぐに店主に相談する。


「すいません、ムダ毛を処理する剃刀がほしいのですが……」

「剃刀ですね、少々お待ちを」


 そう言って店主は店の奥に向かい、いくつかの箱を持ってくる。


「剃刀でしたら、これらになりますね」


 店主がそういって、出したいくつかの箱には、それぞれ剃刀が入れてある。

 

「見せてもらいます」


 セーラはそう言って、すぐにその中身を確認する。箱の中にあったのは、綺麗な新品の剃刀であった。


 だが、それを確認したセーラはすぐに泣きそうな顔になり、そんな彼女の顔を見た店主がギョッとし尋ねる。


「お客様、どうかなさいましいたか?」


 店主にそう聞かれたセーラは、持っていたバックの中から箱を出す。


「あの、これより切れ味の良い剃刀を探しているんです」


 そう言って、箱の蓋を開けるセーラ。店主はすぐに箱の中身を確認する。


 箱の中の剃刀を手に取り、光に当て、刃の様子を確認する店主。セーラはじっと、その店主の様子をうかがう。店主は一通り剃刀を見ると、箱の中にそっと収めセーラに言う。


「すいません、うちの店には、この剃刀以上に切れる剃刀はありません……」

「そ、そうですか……確認までしてもらって……あ、ありがとうございます」


 セーラには、剃刀の良し悪しはわからない。そのために店主に尋ねた。もし、店主がセーラに嘘をついて剃刀をすすめても、セーラは買ってしまっただろう。そうしなかった店主にセーラは感謝を伝える。


「あ、あの、お客様……」

「はい、なんでしょうか?」


 店主は店から出ようと思ったセーラを呼び止める。


「お客様がお持ちになった剃刀は、貴族様が使う物ですよね? それならば、貴族様が行かれるお店になら、それ以上に切れる剃刀があるかもしれません……場所をお教えするので、そちらに行かれてみてはどうでしょうか?」

「ほ、本当ですか⁉」

「いえ、必ずあるかはわかりませんが、一度見に行ってみては良いのではないでしょうか。お力になれなくてすいません」

「いえ、そんな、気にしないでください」


 店主は、そう言うと地図をかきはじめる。


「では、これが地図になります。ご来店ありがとうございました」

「あ、ありがとうございます」


 そう言って、セーラは店主から地図を受け取ると、頭をさげ、足早に店をでる。


 カランコロン


「……びっくりしたー。今のって聖騎士セーラ様だったよね……」


 店主は、セーラが出ていき、店に誰もいない事を確認すると、そう呟くのであった。


 店を出たセーラは、自然と足早になり、地図に書かれた場所に向かう。


「ふふふふ、これで良い剃刀が見つかれば、ついに勇者様と……」


 貴族が行く道具屋に向かうセーラは、もしムダ毛の処理ができた後の事を思い、独り言をつぶやきながら笑顔を浮かべる。勇者シュウダの事を思い浮かべながら歩くセーラ、魔王を討伐の一員である彼女の身体能力は高い。後日、セーラが高速で歩きながら独り言をつぶやいていたという噂が広がる。


 キィッ!


 そんなスキール音を出しながら、セーラは一軒の店の前で止まる。その店は、綺麗な装飾のされた店。


「ここで間違いないよね……」


 そう言って、セーラは店のドアを開ける。


「「いらっしゃいませ」」


 ドアを開けると、すぐに店のスタッフ数名がセーラに挨拶をして、そのうちの1人が近づいて来る。


「いらっしゃませ、本日はどういったご用件でしょうか?」


 セーラの傍まで来た女性は、もう一度セーラに挨拶をし、要件をうかがう。


「実は、この剃刀よりも切れる物を探しています」


 そう言って、セーラはバックから剃刀の入った箱をとり出した。


「拝見します」


 そう言って剃刀を手に取ったスタッフは、先ほどの店主の様に剃刀を光にあて、刃の状態を確認する。しばらくの間、スタッフは入念に剃刀の状態を確認し、その後、残念そうにセーラに向き直り口を開く。


「すいません、お客様この剃刀以上に切れる剃刀はありません。そもそも、この剃刀もうちの店で取り扱いのある最高級の剃刀ですので……」


 スタッフの言葉を聞いたセーラは、絶望の淵に叩き落された。セーラはうつむくと、その目からぽろぽろと涙を溢れさせる。


「お、お客様⁉ どうされたんですか⁉」


 セーラの様子を見たスタッフは慌ててセーラに声をかける


「い、いえ、なんでもありません。ぐす……」


 そう言ってセーラは、バックから出したハンカチで涙を拭き続けるが、涙はしばらくの間溢れ続け、その間スタッフは心配そうにセーラを見ていた。


「……すいません、お見苦しい所をお見せしました」


 しばらくして、落ち着いたセーラは、自分が泣き続ける間、心配そうに見ていたスタッフに謝罪する。


「いえ、気にしないでください。それよりも、ご加減は良くなりました? ずいぶんと辛そうでしたが……」


「はい、少し取り乱してしまいました」


 そう言って、笑顔を見せるセーラであったが、スタッフから見たら明らかに辛そうであった。そんな姿を見かねてスタッフは言う。


「あの……もしもこれ以上の切れ味をもとめるなら、剃刀ではなく武器になるかと思います」


「武器?」


「はい、お持ちになった剃刀は、あくまでも体の毛の処理に使われる者で、それ以上の切れ味となると武器くらいしかないと思われます……」


「っ⁉ そうですか……ありがとうございます。その言葉を聞くだけで、救われた気がします」


 そう言ってセーラーは深々とスタッフに頭を下げた。


「そんな⁉ お気になさらないでください……⁉」

 

 そう言って、深々と頭を下げるセーラの前で腕をふるスタッフだが、頭を上げたセーラの顔を見たスタッフは思わず息をのむ。


 それは、誰もが振り返る美貌を持つセーラが、何か硬い決意をした顔を見せたからであった。

 清々しい顔で店を出たセーラ。それは、解決策が既にそばにあったことに気づいたから。


「城に直ぐに戻らなくては……」


 そう言ったセーラは、その身体能力を使い大急ぎで王宮に戻るのであった。


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