7 新・男しか居ない三角関係
その目つきは至極真剣で、無言ながらも何かを訴えかけるようやった。
そんな宗太に気圧されるように、俺は尋ねた。
「な、何や急に黙りこんで?お前の話はこれで終わりとちゃうんか?」
それに対して宗太は小さな声で、
しかしそこに腹の底からの想いを込めるようにこう言った。
「なあ昌也、お前、やっぱり今からでも大京山に転校しないか?
お前と俺が組めば、今の一軍でも十分に通用する。
俺の本気の球を捕れるのは、お前しか居ないんだ」
「・・・・・・・」
その言葉に、俺は咄嗟に答えが返せなかった。
確かにこいつの事は嫌いやし、伊予美が居る以上、
永遠に仲良くなるなんて事はないやろう。
そやけど、こいつの投手としての才能は、全国の高校生の中でも指折りのレベル。
碇に勝っても劣らんぐらいや。
そんな宗太の球をまた受けたいという願望は、
キャッチャーとしてない訳ではない。
以前大京山からのスカウトを断った俺やけど、その気持ちは正直ある。
そやけど・・・・・・。
と、俺が口を開きかけた、その時やった。
「断る!」
と、声を荒げたのは、俺ではなく、いつの間にか現れた碇やった。
「い、碇⁉いつからそこに居ったんや⁉」
俺が驚きの声を上げると、
碇は瞳に噴火した火山のような怒りを燃え上がらせてこう続けた。
「昌也君の後をついて来ていたら、昌也君をつけ狙う怪しい男が居たから、
こうして後をつけてきたんだ!」
いや、それってお前も俺をつけ狙う怪しい男って事やろう?
という俺のツッコミはさておき、碇は宗太をビシッと指差して言った。
「君が中学時代に昌也君と恋人同士だったのかは知らないけど、
今昌也君と恋人同士なのはこの僕だ!絶対に渡さないよ!」
恋人ではなくバッテリーね。
こいつのせいで話が完全にややこしくなりました。
とても残念です。
それに対して宗太はとてもまともな口調でこう言った。
「恋人ではなく、バッテリーだ」
ホントそうです。
しかし碇は力強くこう言った。
「どっちも同じ事だよ!」
違うわい!
俺が心の中でツッコミを入れるが、碇はこう続ける。
「君と昌也君の関係はもう終わってるんだよ!
昌也君と一緒に甲子園に行くのはこの僕なんだ!」
まあ、それに関しては否定しない。
するとそれを聞いた宗太はしばらく黙りこみ、
深いため息をついてからこう言った。
「・・・・・・お前がどれほどのピッチャーか知らないが、
昌也と組んだ時の俺の球は、お前じゃ足元にも及ばないよ」
それに対して碇は更に声を荒げてこう返す。
「それはこっちのセリフだ!
昌也君と組んだ僕の球は、君じゃあ話にならないよ!」
そして碇と宗太は火花が散るような闘志むき出しの視線を激突させた。
な、何か、伊予美を賭けた三角関係の話が、
いつの間にか俺を賭けた三角関係みたいな話になってしもうたぞ?
こういう時、俺はどうすればええんや?
と、半ばパニックになっていると、宗太は俺の方に向き直り、静かな口調で言った。
「まあ、考えておいてくれ」
そして踵を返して去って行く。
そんな宗太の後姿を俺は言葉もなく眺め、
碇は敵対心むき出しのオーラで宗太の背中を睨みつけていた。
宗太の姿が見えなくなると、碇は俺に食いかかるように言った。
「あんな奴の誘惑に惑わされちゃダメだよ!
僕の方がピッチャーとしても恋人としても、昌也君にふさわしいんだから!」
そんな碇の言葉に、俺は丁寧な口調で答えた。
「ピッチャーだけでいいです」




