6 また来た宗太
その日、遠川監督の猛練習を終えてクタクタな身体で家に帰り着くと、
門の前で「おい、昌也」と声をかけられ、
振り向くとそこに、スラッと背が高く、端正な顔立ちの男が立っていた。
俺が中学時代バッテリーを組んでいて、
今は大阪の強豪の大京山高校の野球部に所属している、荒藤宗太やった。
俺と宗太と伊予美はいわゆる幼なじみで、
宗太も昔から伊予美に片思いをしており、
甲子園に出場を果たしたら、伊予美に告白しようとたくらんでいる。
つまり野球でも恋愛でも俺の宿命の敵なのや。
そんな宗太に、俺はぶっきらぼうな口調で言った。
「何や?わざわざこんな所まで来て、
(宗太は中学卒業と同時に、この近所からよその街に引っ越した)
また俺に何か話があるんか?」
それに対してユニフォーム姿の宗太は
「そうだよ」
と言って頷き、ビシッと俺を指差して言った。
「お前、抜け駆けして伊予美ちゃんに告白とかしてないだろうな?」
「ああ?そんな事する訳ないやろ。
俺は甲子園出場を果たしてから、伊予美ちゃんに告白するんや」
「だろうな。今のヘッポコなお前が告白したところで、
フラれるのは目に見えているもんな」
「やかましいわ!お前かって大京山の野球部に入ったとはいえ、
どうせ控えのピッチャーやろ!」
「うるさい!俺の本気の球をちゃんと捕れるキャッチャーが居ないんだよ!
まともなキャッチャーさえ居れば、俺だって今すぐにでも一軍に上がれるのに!」
「ああそうですかい。
でもお前みたいに性格も投げる球もひねくれてるピッチャーじゃあ、
バッテリーを組んでくれる奴もそうそうおらんやろうなぁ」
「フン、一軍に上がればそんなキャッチャーいくらでも居るさ。
そして俺がエースになって甲子園出場を決めたら、伊予美ちゃんに告白する」
「おお、望む所やこの野郎」
そう言って俺と宗太はバチバチと視線の火花を散らす。
大阪で甲子園出場を目指すとなると、
宗太の居る大京山は絶対に倒さなければいけない相手。
つまり伊予美を賭けた三角関係にケリをつけるには、
宗太の居る大京山を倒すしかないんや。
こっちはまだ一回戦もロクに勝った事がない弱小校やけど、本当の勝負はこれからやで。
そう腹をくくり、俺は宗太に言った。
「ま、お前の言いたい事はわかったわ。
わざわざここまで足を運んでもろうて、えらい御苦労やったな」
すると宗太は突然黙りこみ、俺の目をまっすぐに見据えた。