7 伊予美の決心
鹿島さんと別れて教室に戻ると、廊下の所に伊予美が居た。
彼女いわく、大事な話があるとの事。
なので俺は伊予美と二人で校舎の屋上へ向かった。
そして屋上に到着した俺と伊予美は、
フェンス際のベンチに並んで腰かけ、しばらくの間黙っていた。
今日は抜けるような青空の広がるいい天気で、
気持ちのよい穏やかな風が、屋上を吹き抜ける。
しかし今の俺に、それを味わう余裕はなかった。
伊予美の大事な話とは何やろう?
やっぱり、チア部に入ると決めたんやろうか?
それともまさか、応援団のマネージャーに?
野球部のマネージャーには、なってもらわれへんのやろうか?
そう思いながら暗い気持ちになっていると、
伊予美がぎこちない様子で口を開いた。
「あ、あの、ね?ウチ、決心してん」
そうですか、チア部に入るって決心しましたか。
まあ、伊予美が自分でそう決めたなら何も言いませんよ。
「ウチ、野球部のマネージャーになる」
ほらね、野球部のマネージャーにはならないって・・・・・・
え?あれ?今、なるって言うた?
予想外の言葉に、俺はアホみたいな声で聞き返した。
「え?マネージャーに、なってくれますのん?」
「う、うん・・・・・・」
俺の言葉に伊予美は照れくさそうに頷き、
自分の頬を右の人差し指でかきながら続けた。
「ちょっと前まで、どうすれば自分なりに、
精いっぱい昌也君や宗太君を応援できるかなって考えて、
チア部に入ればそれができるかなって思ってたんやけど、
この前の試合を見て、やっぱりもっと身近で応援したいって、
心から思ってん。
昌也君も、凄く頑張ってたし」
「そ、そう?
でも俺、この前の試合でイマイチ活躍でけへんかったで?
試合を決めたのは、碇や小暮やったし」
「そんな事ないよ!
昌也君も逆転につながる貴重なホームランを打ったやんか!
あれがなかったら昨日の試合は逆転できてないよ!」
「い、伊予美ちゃん・・・・・・」
伊予美の言葉が、俺の心にやさしくしみわたる。
まるで枯れきった砂漠が命の水で満たされ、
新緑の芽が萌え出づる様で候。
嬉しすぎて古典のような言い回しになってしまった俺に、
(何故そうなるのかは俺にもわからない)
伊予美はこう続けた。
「だからウチがマネージャーになって、
甲子園に連れてってくれたら嬉しいなぁ、
なんて、何か昔の高校野球のマンガみたいやね、アハハ~」
と、伊予美は照れ隠しのように笑ったが、
俺はそんな伊予美の両手をガシッと掴み、無意識にこう叫んでいた。
「俺は必ず君を、甲子園に連れて行く!」




