2 原平順平と羽本明日香
という訳で俺は昼休みになると同時に、
碇の手足を縄跳びで縛り上げて掃除箱にブチ込み、
(これ以上話をややこしくされてはかなわんので)
急いで伊予美の居る教室へ向かった。
が、そこにまたもやこの前の女子生徒が居て、伊予美と親しげに話している。
そしてまた二人でどこかに歩いて行く。
くっそう、何やねんあの女子生徒は?
一体伊予美とどういう関係なんや?
これじゃあ伊予美とちゃんと話がでけへんやないか。
そう思いながら廊下の曲がり角の影から伊予美の後姿を眺めていると、
そんな俺の背後で俺と同じように伊予美の事を眺めている男子生徒が居た。
今朝校門の所に居た、不良っぽい金髪の男子生徒やった。
「あ、あのぅ、今朝ももしかして、あの子の事を見てました?
一体あなたは誰なんです?」
俺が思わず問いかけると、その男子生徒は
「ああ?」とイカツイ目つきで俺を睨みながら言った。
「俺は三年の原平順平や!張高応援団の団長をやっとる!
何か文句あんのかコラァッ⁉」
ガラ悪ぅっ!
見た目通りの奴やないか。
しかも応援団の団長をやっとる人が、こんな所で何をやっとるんや?
と思いながら、俺は遠慮がちに言った。
「べ、別に文句はないですけど、
何か朝も校門の所であの一年の女子の事を見てたみたいやから、
何でかなと思っただけです」
「何をしていようがお前には関係ないやろ!
大体お前こそ誰やねん⁉人に名前を聞いといて自分は名乗らんつもりかい⁉」
「あ、俺は、一年の正野昌也っていいます。野球部に所属しています」
何か、いつぞや張高に乗り込んできた、
大京山の定山っていう人みたいに暑苦しいなぁと思いながらそう答えると、
原平先輩は俺に鼻をこすりつけるほど顔を近づけて言った。
「あぁ、あの弱小ヘッポコ野球部かい。
そんなヘッポコ野球部のクリクリ一年坊主がこんな所で何をしとんねん?」
「ええと、俺はさっきの女の子に、
野球部のマネージャーになってもらおうと思って、ここに来たんです」
「ああん⁉マネージャーやとぉっ⁉」
俺の言葉を聞いた原平先輩は更に声を荒げ、俺の胸ぐらを掴みあげた。
「あの子はお前らみたいなヘッポコ野球部のマネージャーにはもったいないわ!
あんな天使のような愛らしい子は、応援団のマネージャーにこそふさわしい!」
「な、まさかあんた、
それを口実にあの子をチアリーダーにスカウトしようとしているんですか?」
「それをしているのはさっきあの子と一緒に居た女や。
チアリーディング部の部長の羽本明日香。
あいつは彼女を一目見た時から、
チアリーディング部にスカウトしようと狙っていたんや」
「そ、そうなんですか。
それであなたは、応援団長として、それに協力しているんですね?」
「違う!」
「え?違うの?」
「俺はあの子を、羽本明日香の魔の手から守ろうとしているんや!」
「ど、どういう事ですか?
あんたらの目的は、彼女をチア部にスカウトする事なんでしょう?」
「違う!そうやない!」
「ええ?」
「説明は後でしたる!とにかく来い!」
原平先輩はそう言うと、
俺の胸ぐらを掴んだまま伊予美達が歩いて行った方に駆けだした。
一体何がどうなってるんや?
状況がさっぱり飲み込まれへん俺やったけど、
ここはこの人について行くしかなさそうやった。




