9 昌也が鹿島さんをもてあそんで泣かせた説
その証拠に、翌週の月曜、
朝廊下でバッタリ俺と出くわした伊予美は、
気まずそうに眼をそらし、そそくさと逃げるように走り去ってしもうた。
あかんわ、完全に誤解されてますわ。
俺と鹿島さんが付き合っていて、痴情のもつれから、
俺が鹿島さんを泣かせてしもうたとでも思うてるんやろうか?
もう考えただけで頭がぐちゃぐちゃになりそうや。
こんな事じゃあ野球の練習にますます集中でけへんやないか。
そんな調子で午前中の授業を終え(もちろん何も頭に入らなかった)、
昼休みになると、いきなり小暮の奴が乱暴に教室の引き戸を開け放ち、
ズカズカと俺の元へ歩み寄って来た。
見ると大層おっかない顔をしている。
「な、何や?どうした?」
とたじろぐ俺の右腕をガシッと掴み、小暮は言った。
「いいから、来い!」
そして連れてこられたのは校舎裏やった。
俺の正面に仁王立ちした小暮は腕組みをしながら俺を睨みつけている。
一体何やというのやろう?
俺、こいつを怒らせるような事をしたかいな?
そう思う中、小暮は俺にズイッと詰め寄りながら言った。
「お前、鹿島さんに何をしたんだよ?」
「え?いや、俺は何もしてないで?
ただ、最近キャプテンと鹿島さんの中がギクシャクしてるみたいやから、
その仲立ちをしようとしただけや」
俺は本当の事を言うたが、小暮はそれを信じる様子もなくこう続ける。
「でも伊予美ちゃん言ってたぞ?お前と一緒に居た鹿島さんが泣いていたって」
「だからあれは、鹿島さんからキャプテンとのイキサツを聞いてたら、
突然泣き出してしもうたんや」
「お前が鹿島さんをもてあそんで泣かせたんじゃないのか?」
「何でそうなんねん⁉まさか伊予美ちゃんもそう誤解してんのか⁉」
「いや、そうじゃないかと俺が、伊予美ちゃんに吹き込んでおいた」
「やめろや!何話をややこしくしてくれとんねん⁉」
「でも大体そういう話なんだろ?」
「全然違うわ!その悪意と誤解に満ちた解釈はやめろ!」
と、俺と小暮がそんなやりとりをしていると
「そうだよ!」と声を上げ、真剣な顔をした碇が現れた。




