1 遠川監督も大人気
カキィーン!
抜けるような青空の下、心地よい金属バットの打球音が響く。
ここは早朝の張金市の市営グランド。
すっかり通いなれたこのグランドで、俺達張金高校野球部は、
今日も甲子園目指して朝練に励んでいた。
ついこの前、関西大学野球の超名門の浪速ノ国体育大学野球部に
所属していた遠川沙夜さんが、
晴れてこの張高野球部の監督になってくれた。
野球選手として一流で、指導者としても優れている彼女の指導の元、
張高野球部は一層練習に気合が入っていた。
この人の元で頑張れば、例え超激戦区の大阪でも、
甲子園を狙えるようなチームになる。
そう信じさせてくれるものを遠川監督は持っているし、
そんな彼女の指導に応えるため、俺達も毎日必死のパッチで頑張っていた。
今日も遠川監督の華麗にして過酷なノックで、
俺達張高野球部は骨の髄まで絞りあげられている。
カキィン!「山下!出足の一歩が遅い!」
カキィン!「扇多!もっと早く打球の落下点に入れ!」
カキィン!「手古山!立ったまま失神するな!」
打球とともに、遠川監督のよく通る声が飛ぶ。
この人は黙っていれば凛とした顔立ちのべっぴんさんなんやけど、
一度グランドに出ると、情けも容赦もない鬼監督に変貌する。
その迫力は遠川監督が女性である事を完全に忘れさせ、
俺達はある意味恵まれた緊張感の中、練習に取り組む事ができた。
そんな遠川監督に憧れる女子生徒も現れ、
最近の張高野部は、随分練習を見に来る女子生徒の数が増えたように思う。
ただしそのお目当ては今言った遠川監督や、
イケメンピッチャーの松山碇(実はホモやけど)や、
男前のセカンドの小暮双菜(実は女やけど)であって、
残念ながら俺にキャーキャー言うてくれる女子生徒は一人も居ない。