1 バレなきゃ問題ない(※この作品はフィクションです)
「はっはっはっは!」
放課後の練習を終え、
後片付けをしながら今日の小暮の一件を俺から聞いた遠川監督は、
豪快な笑い声を上げた。
「そうか、二年の奴らは小暮が女だと知らなかったのか。
確かに小暮はなかなかの美人だから、
学校で見かけたら、まるで別人に見えるだろうな」
「はい、小暮本人だって聞いた時も、
すぐには受け入れられない感じでしたからね」
俺の言葉を聞いた遠川監督は再び吹き出し、
ひとしきり笑ってからこう続けた。
「まあ私も、中高時代に似たような経験をしたからよくわかるよ。
でも小暮はウチの不動のセカンドだから、マネージャーをやらせる訳にはいかない」
遠川監督の言葉に、俺はひとつ疑問に思っていた事を聞いてみた。
「あの、ちなみに、甲子園って確か、女子は出場できませんでしたよね?
小暮がウチの不動のセカンドというのは実力的に間違いないんですけど、
ルール的に、小暮は甲子園に出られないんじゃないんですか?」
すると遠川監督は俺にズイッと顔を近づけ、声をひそめてこう言った。
「そんなもの、バレなきゃいいんだよ」
「え、そ、そうなんですか?」
戸惑う俺に、遠川監督は自信満々に頷いて言った。
「そうだ。現に私もそれで甲子園に出場したんだから」
「ええっ⁉監督は甲子園に出た事あるんですか⁉」
「ああそうだ。甲子園に出る時に、
別に身体検査とかをされる訳じゃあないからな。
ユニフォームを着て帽子を目深にかぶっていればバレやしないよ」
「そ、そういうモンですか?」
「そうだ。あとは甲子園に出るにふさわしい実力を見せつければ、
誰も文句は言わないし、とにかくバレなきゃ問題ない!
(※この作品はフィクションです)」
監督は力強くそう言いきると一転して冷静な口調になって言った。
「ところで、マネージャーの方はまだ決まらないみたいだな?
私からもやってくれそうな女子に声をかけてみようか?」
「い、いや、大丈夫です!マネージャーの件は俺が何とかしますから!」
俺が両手をブンブン横に振りながらそう言うと、
遠川監督は「そうか」と軽い口調でうなずき、
一通り片づけを終えた部員の皆を集合させて言った。




