9 モガガガ、モガーッ!
という衝撃音とともに俺の背中に誰かが思いっきりぶつかってきて、
不意を突かれた俺はそのまま前のめりに床につんのめった。
「どわふぅっ⁉」
床に鼻とどてっ腹を打ちつけられ、物凄く痛い。
おまけにぶつかって来た奴が背中に覆いかぶさってきて結構重い。
「ぐ・・・・・お・・・・・・」
ジンジン痛む鼻を押さえながら、背後に目をやる俺。
するとそこに、口一杯に焼きそばパンを頬張った小暮の姿があった。
「こ、小暮、いきなり何すんねん?」
俺のその問いかけに対する、小暮の答えはこうやった。
「モガガガ、モガガーッ!」
「いやわからんわ!食うか喋るかどっちかにせぇや!そして早くどいてくれ!」
そう言われて俺の背中からサッと飛びのいた小暮は、
「モグモグモグ」
食うんかい!喋れや!
と心の中でつっこんでいると、小暮は、
「モグモグモグモグ・・・・・・ゴックン」
焼きそばパンを飲み込んでからこう言った。
「ちょうどよかった!助けてくれよ!俺、切羽詰まってんだよ!」
「全然詰まっとらんやないか!余裕で焼きそばパンを食うとったやないか!」
「違うんだよ!
さっき購買にパンを買いに言ったら野球部の先輩達に声をかけられてよ、
いきなり俺にマネージャーになってくれとか言い出すんだよ」
「だからしばらくは校内をウロチョロすんなって言うたやろうが!
先輩達は今、双菜ちゃんに夢中なんやから!」
「双菜ちゃんって言うな!仕方ねぇだろ!
弁当はもう午前中の休み時間に食っちまったんだから!」
「この食べ盛りが!」
「腹が減るんだからしょうがねぇだろ!」
そんな事を言い合っていると、
廊下の向こうから息せき切って岩佐先輩と近藤先輩、
更には山下先輩と手古山先輩と扇多先輩が走って来るのが見えた。
それを見た小暮は「げっ!」と声を上げ、咄嗟に俺の背後に隠れる。
やがて目の前まで先輩達がたどり着き、岩佐先輩が息を切らしながら言った。
「ゼェ、ゼェ、正野、その子だよ、小暮にそっくりな女の子ってのは」
「彼女にマネージャーになってもらえませんかってお願いしたら、
いきなり逃げ出しちゃったんだ」
と山下先輩。
そりゃいきなりこんな怪しい男子の集団に囲まれたら、
小暮やなくても逃げ出すわな。
と思っていると、手古山先輩は小暮を指差しながら言った。
「正野、その子と知り合いか?」
「あ~、まあ、知り合いというか・・・・・・」
小暮本人なんですけどね。
と思いながら背後の小暮を見やると、
小暮はコロッケパンを頬張っていた。
「何でこの状況でコロッケパンを食うとんねん⁉」
俺が声を荒げると、小暮もコロッケパンを口から離して声を荒げる。
「仕方ねぇだろ!腹減ってんだから!」
「この食いしん坊万歳が!」
などとアホなやりとりをしていると、扇多先輩が真剣な口調で言った。
「なあ、正野からも頼んでくれや。
俺ら、その子が野球部のマネージャーになってくれたら、
もっと野球の練習に打ち込めると思うねん」
「俺達はもう、その子無しでは生きていかれへんねん!」
と手古山先輩。
凄いな、モテモテやないか双菜ちゃん。
その双菜ちゃんは今コロッケパンを食うとるけど。
そんな中隣に居た碇が、シミジミとした口調で言った。
「もう、本当の事を言うしかないんじゃない?」
「う~ん・・・・・・そうやなぁ・・・・・・」
とつぶやく俺。
確かに、こうなってしもうてはごまかす事は不可能。
そう思った俺は、背後の小暮をグイッと先輩達の前に押し出して言った。
「先輩方、今まで隠していた訳でもないんですけど、
この子は実は、小暮本人なんです!」
するとそれを聞いた先輩達は、
「な、何だってぇええええっ⁉」
と、しこたまぶったまげた声を上げた。
 




