5 本人の登場
という声とともに、ユニフォームに着替えた小暮が部室に現れた。
それと同時に張高野球部全員の視線が小暮に集中する。
それに気付いた小暮は、怪訝な顔をして言った。
「な、何ですか皆して?俺の顔に何かついてます?」
小暮の問いかけに構わず、ファーストの千田先輩が小暮にズイッと詰め寄って尋ねた。
「なぁ小暮、お前、姉ちゃんか妹っておるか?」
「え?いや、居ませんけど?」
小暮がそう答えると、先輩達はそれぞれ顔を見合わせてボソボソとつぶやきあった。
「という事は、あれは小暮の身内とかではないんか?」
「ホンマに他人の空似なんやな」
「でもホンマに可愛かったよなぁ」
そんな声が聞こえてきて、小暮はますます怪訝な顔をする。
そして先輩達に食いつくように言った。
「一体何なんです?俺に言いたい事があるならハッキリ言ってもらえませんか?」
あかん、このままでは張高野球部がギクシャクしてしまう。
ここで残された選択肢はふたつやった。
一つ目、本当の事を言うて先輩達を納得させる。
でもこれは小暮の意志も尊重せなあかんから、俺の独断で暴露する訳にはいかへん。
二つ目、嘘をつきとおしてこの場を丸く収める。
うん、ここはこっちの方がええ気がする。
そう判断した俺は、咄嗟に小暮の前に割り込んで言った。
「いやあ、実は先輩達が最近学校で、
お前に(・)そっくり(・・・・)な(・)女子を見かけるらしいんやけど、
お前の身内とかじゃあないよな?な?」
俺が必死に目で訴えかけると、
それを察したらしい小暮は、慌ててうなずきながらこう言った。
「あ、ああ、この学校に俺の身内は居ないし、
そもそも俺は一人っ子だからな、そんな女子は知らねぇよ」
「先輩達はその子を、マネージャーにスカウトしたいらしいんや」
「えええっ⁉マネージャーだってぇっ⁉」
俺の言葉にしこたまびっくらこいた様子の小暮。
そんな小暮をなだめるように俺は言葉を続けた。
「でもお前の身内とかじゃないんやったら、
マネージャーになってもらうのは無理そうやな。
いきなり見ず知らずの人間に野球部のマネージャーになってくれなんて言われて、
引き受けてくれる訳ないもんな!」
「そ、そうだな!全くその通りだ!」
小暮も俺の話に合わせてそう言い、必死に頷く。
するとそれを聞いたキャプテンはそれを疑う様子もなくこう言った。
「まあそういう事ならしゃあないな。
お前らもしょうもない事言うとらんと、さっさと準備してグランドに行くぞ」
それを聞いた他の先輩達は、
「へ~い」と残念そうな返事を返した。
よかった。とりあえずこの場は何とか乗り切る事ができた。
俺が苦笑いを浮かべて小暮を見やると、
小暮の奴も複雑そうな笑みを浮かべて俺を見やった。
碇はいまいち腑に落ちない様子やったけど、この場はこれでよかったんや。
そう自分を納得させ、俺もグランドに行く準備に取り掛かった。




