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ゆくさき

作者: 仮:綴

 ここはどこか、虚空に向けて男は尋ねた。

 ここは集積場、どこからか返ってくる。0と1に単純化された情報を集め、分類し、再構築する場なのだという。

 これは全く難解なもので理解に苦しむことだが。言葉の主によれば、その情報は実世界において生産され、ここに集まってくるのだという。それを再構築する場、というのも、認知しやすい方向へと0と1の情報を組み立てるのだという。組み立てられたものはその性質と由来から「影」と呼ばれるらしい。

 ならば私も影であろうか、違うらしい。

 君は影ではないし、また君の影はここにはない。だから君には困っている。

 虚空の主はなおも続ける。

 さて、そんな例外の君ではあるが、してもらわねばならぬことがある。

 あろうことが集積場を訪ねた君、君のデータは分散されてバラバラ、このモノクロな世界の中でチリジリだ。残念ながらそれの追跡は私にもできない。とはいえ、君のような例外を放っておくわけにもいかないのだ。つまり君に、君自身のデータを集めてもらいたい。これは君自身を補完するのだから、断る理由もなかろう。

 男は考える。彼は自らのことも、この世界のこともわからない。だが、虚空の主の言い分をもってすれば、この世界を探索する中で自らを発見することができるのだろう。また、どうやらそれは義務でもある。

 わかった、と男は答える。


 その言葉によると、男の混入によって一切の作業が停止されているのだという。不完全な男のデータというものもその中。散らばっている、構築途上で破綻したガラクタに含まれているらしい。また、それ以外のものについては、未出力の情報を精査すれば発見できるだろうとのこと。

 ひとまず、目についた山に手をかける。最上部にあったのは何か、硬い板状のものだ。冷たく、重い。しかしそれは情報に過ぎず、質量に関わらず難なく持ち上がる。

 これはなんだろう、男は呟く。返事はなかった。

 そのようなもの、あるいは同じような材質で柱状のものをいくつかどかすと、何か柔らかいものがあることに気付く。引っ張り出そうとしたが、千切れた。

 するとなんということか、男がそれを理解するよりも前に、その情報は消去される。

 醜きものは消去された。あってはならないそのものは、初めから存在しなかった。言葉が男の脳裏を抜けると、彼は歩き出す。

 ガラクタを一つずつ、崩れ去ることのないようにと運び出す。それはどこからか現れた影に運ばれていく。彼らを眺めていると、『ぼさっとするな!』


 作業を終えた男は床に座り込んでいた。肉体的な疲労はないが、精神的には疲れる。そのことから自らを人間として認めると、次の指示が聞こえてきた。

 水が流れている。冷たい。そして、その中にやはりガラクタが混ざっている。それはやはり無機質であり、無機質でなければならない。

 流れは速く、底は深い。流されながら、大きく、浮いたガラクタにつかまる。そしてそこへと這い上がると目が

 重量はなく、肉体的疲労の生じない世界。先ほどまではそうであったのに、今は水の流れ、水圧と、浮力がここに存在している。だが、すべきことには変わりない。無機物のガラクタを整理し、処分すること。清掃すること。清算すること。。。

 どこからか流れてきた板を持つ。重みはやはりない。手頃なガラクタを寄せ集めると、どこからか船が近づいてきた。それは水平線よりも手前から、唐突に表れたように思われた。いいや、私が見落としていたのかもしれない。

 それは私の集めたガラクタのみを器用にも回収すると、水の中へと消えた。どうやら気のせいではなく、水平線の手前から現れたらしかった。 


 ただずっと雨が降っている。ただただ暑い、熱い。水はどこへと流れゆくのか、流れる過程で蒸発しきる。再びここへと降り注ぎ、再び宙へと浮き上がる。

 ガラクタは既になかった。そんなものすべてほろんだよ。

 誰もこない。指示もない。あまりにあっさりとした別れではないか。何も起きない。

 ただ雨が降る。ただ水が流れる。ただ干上がって雨となる。私は何をすればよいのだろう。何をしたのだろう。

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