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神との遭遇

 「ここは日本海? 太平洋か?」


 気が付くと俺は米俵や金銀財宝が積まれた船に乗っていた。


 四方八方、海。

 太陽が水平線に半分だけ顔をのぞかせているせいか、空は黄色みがかっていて幻想的だ。

 潮の流れは緩やかでどこに行くでもなくただ漂泊するばかり。


 「この船はどこに向かってるんだ? まあ、当分はこのお米と食糧で何とかなりそうだからいいか」


 積まれた米俵に何げなく触った。

 すると神々しく輝いていた太陽は月に変わり、一瞬にして辺りは暗闇に包まれた。


 「いやはや、まさかこんなお間抜けが選ばれるとは」

 「ほんまやで、どれだけ徳を削ればあんな死に方ができるんやろか?」

 「大量出血ならまだしも、溺死て。ぷふふふふふ」

 「そんなこと言ってはいけませんよ。このお方もごく普通の人間だったのです。ただすこぉし、運が……ぷっ、悪かっただけですよ」


 聞き馴染みのない、しかし厳かでどことなく品のある声が、この夜の空に反響していた。


 「誰だ! 黙って聞いていれば俺のことを馬鹿にしやがって!」

 「嗚呼なんと悲しい青年なのか。天照よ、笑ってあげるでない。こんなに不憫な男だからこそ選ばれたのではないか?」

 「釈迦さん……。そうですね。嘆かわしい青年とその仲間たちを助けてあげねば、我々のメンツも保てませんからね」


 そういうとまた月は太陽に変わり、あたりを黄昏色に染め上げた。

 ふと上空を見上げると、着物姿で剣を持ち勾玉を首にかけた少女と、袈裟姿の老人。

 さらにはいくつもの太鼓を背負った鬼と巨大な袋を背負った鬼が対になって浮いていた。

 後ろを振り向けば、木づちを手にした恰幅のいいおっさんを中心に鯛を持ったおっさんや琵琶をもった色っぽいお姉さん、総勢七名が鎮座しており、空中に浮いている人たちをざっと見ても恐らく百万人は優に超えるほどの人数だった。


 「あなたたちはもしかして、神……様?」

 「いかにも、八百万の」

 「あなた方は皆我々をそのように呼ぶ。まあいつもあなた方とともに生活をしているので同種族だとは思っているのですが……」

 「わしたちはお前さんからしたら実態もないし、会話もできない。わしは幸せを人に与えるのが趣味じゃが、その趣味でさえもお前さんからしたらチョウノウリョクとかいうのになるのだろう。不思議じゃのう」


 大黒天は嬉しそうにポンポンと木づちを鳴らした。


 「神様が俺に何の用だ!」

 「おいおい、そんな食って掛からんでもいいだろう」

 「私たちはあなたの味方です」

 「味方? さっきまで馬鹿にしてたじゃないか」

 「それは本当にすみませんでした」


 天照大神はゆったりと頭を下げて謝罪をした。

 突然神様が頭を下げるのだから、俺は少しドキッとした。


 「実は、あなたは人類で百億人目に死んだ方なのです。そして私たちは百億人目に死んだ者をある戦いの挑戦者として転生することを決めておりました」

 「ある、戦い……?」

 「いかにも。それは、人類存亡を賭けた大一番なのであーる!」


 毘沙門天が、フォークみたいな杖の柄を力強く床にたたきつけた。


 「あなたはこれから異種族の長が集まる世界に転生していただき、そこでその長たちと戦っていただきたいのです。もし勝てば、あなたは元の世界に蘇生することができます」

 「生き返られるんですか!」

 「そうです」

 「……でも、負けたら?」

 「復活はおろか、人類は滅亡します」

 「なっ……。辞退することは」

 「できません。その場合も我ら八百万の神諸共人類はお終いです」


 天照大神は一度も瞬きすることなく、じっと俺の目を見つめていた。

 ほかの神々もそうだ。

 一歩も動くことなく、じっと俺に視線を注いでいる。


 「これは、逃げられそうにないな」


 どうせここで負けようと、人類が滅亡するところを目の当たりにするわけじゃない。

 別に思い入れのあった世界でもないし。

 まあまたどうせ死ぬんだったら、あんな無様な死に方より、全力で楽しんで死んだほうがマシじゃないか!


 俺は決意を固めこう言い放った。


 「よし、いっちょやってみるか!」


 神々の歓声が俺を包み込んだ。

 俺の決意を称賛するかのように、天照大神は天使の、釈迦は古式の微笑みを浮かべていた。


 「それでは、満場一致ということで、雲類鷲透(うるわしとおる)さん! 私たちの希望を全てあなたに託します」

 「おう、託された!」

 「それでは、いってらっしゃい!」


 八百万の神々が上空に手を掲げると、ホワイトホールが出現し、俺は一瞬にしてその渦の中に飲み込まれた。

 そして、再び目を開くとそこは、閑散とした。






 グラウンドだった。

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