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四章第11話 審判の森



「――結構走ったな、追っ手もあれから見てないし」


「……ん、ここまで来れば大丈夫。一旦、落ち着こう」


 ミエムが修道服の男との魔法戦で快勝した後。

 明かりひとつ無い森の中を暫く走っていたモノとミエムはそう短く会話。


 様々なことが濃密度で起きたからか、いつもより夜を長く感じる。

 まだまだ空には星が輝いており、森は不気味な程の暗さで支配されていた。


「ふう。こう、立て続けに事が起こると、流石にこの身体でも疲れるな」


「この身体っていう表現は理解できない。だけど、色々大変そう」


 腰を下ろすには丁度いい形の石に座り、一息ついたモノ。

 『最終兵器(アルマフィネイル)』という身体に生まれ変わってからというもの、その力が強まる度に、そういった疲労感等の人間臭い感覚は遠ざかっていった。

 勿論、現在進行形でその自分が人間では無くなるような感覚は大きくなっていっているが、今日は濃すぎた。

 久々の疲労感は結構辛く、座った瞬間、身体にかかる重力が増えたように錯覚する。


「ミエム程じゃないけどな。……と、今日はこのままここで野宿だろ? なら、寝る前に色々と情報整理したいんだけど」


「……いいよ。うちも聞きたいことある」


 そもそも鎖国状態のイルファ及びこのルートヴィヒの情報は少ないのだ。何故、ヴァガラ達が『メリア教会』と戦っているのか、など色々と疑問は尽きない。

 逆にミエムからすれば、モノも突如現れた謎の人物である為、こちらからも疑問が尽きないだろう。

 だからこそ、ここらで情報のすり合わせが必要なのだ。


「んじゃ早速だけど、ミエム達が戦っているあいつらは、メリア教会とやらの教徒ってことでいいんだよな?」


「うん」


「教会ってことは神を信仰してるんだよな? まあ確かに『神』って聞いていい予感はしないけど、なんでこんな状況なってるんだ?」


「……あいつらは『神』を信仰してない」


「なんだって?」


 斜め上の返答を聞いて、ぽかんとするモノ。

 教会と言うからには何かの『神』を信仰しているのかと思っていたが、それは今真っ向から否定された。

 ならば、何を持ってして教会と名乗っているのか。

 その答えは直ぐにミエムがくれる。


「あいつらが信仰しているのは『奇跡』。そしてその『奇跡』を起こせるという人物――メリア・アティだから」


「メリア・アティ……? いまいち要領が掴めないな?」


 響きからして普通の人間の名前だが、『奇跡』という謎の力を扱えるその人が信仰の対象だとミエムは告げる。

 教会の名前にもなっているメリア・アティ。

 メリア教会が今のルートヴィヒの最高権力を保持しているとは聞かされていたが、聞くにそのトップであろうメリア・アティは実質この大陸において最高位に座することを意味するのではないか。


「あいつらは数年前に突然現れて、聖遺物の力を使い、この大陸を支配下に置いた。うち達はその『奇跡』とやらの信仰を強制して、従わない者は(はりつけ)にするあいつらのやり方が気に食わない。だから、反抗した」


「…………」


 ミエムの説明に、先の突如勃発した争いを、ジオの死を思い出し、モノは言葉を喉に詰まらせた。

 怒り、ではない。悲しみ、でもない。

 だがモノ自身も分からない謎の感情が込み上げて――否、違う。

 衝撃は受けたものの、それほど怒っても悲しんでもない自分が分からないのだ。分からないから考えようとして、それでも分からないから、黙りこくった。

 得体の知れない恐怖は感じる、自覚よりも早く変わっていく自分に。

 だから、その寒気を紛らわすように、重くなった口を相殺するように、モノは軽口を言葉にして、


「つまり、支配する方とそれに抵抗する方で内戦中。そこに現れた、『道に迷った』とかいう謎の美少女が私……めっちゃ怪しいな!?」


「うん。だからうち達もモノのことを警戒した。けど、頭領の恩人だし、『聖遺物』も持ってないのを確認しだから、もう疑ってない」


「聖遺物……?」


 募る不安をオーバーなリアクションで遠ざけたモノは、ミエムの返答に引っかかりを覚え首を傾げる。

 ミエムは『モノが聖遺物を持っていないことを確認した』と言ったが、事実モノは持っているからだ。

 例のフォルとかいう自称神の『聖遺物』である、()()()()()()()()()()()()()()()を。

 あの小さな集落で貰ってからいつも持ち歩いている大切なお守りだが、フォルとの出会いにより、『聖遺物』であることが判明した代物。

 だから持っていない筈はないのだが。

 しかし、ミエムの口振りからすると、『聖遺物』かどうか判別する方法があるようで。


「な、なあ、もし『聖遺物』っぽいものがあったとして、それを『聖遺物』かどうか判断するのはどうやってやるんだ? あと、そういやその『聖遺物』の発掘場に用があるんだった」


「……? 『シェイド発掘場』はメリア教会の息が大きくかかってるからオススメしないけど。それと、聖遺物かどうかは勿論、『神力』の有無で判断する」


「『神力』……? 確か、リオラもそんなこと言ってたな?」


「…………そうそれ、そこがうちの聞きたいこと」


「お?」


 モノのなんて事ない呟きに、相変わらず無表情のミエムは『そうそれ』と指を突き出す。

 突然の彼女のその動作に目をぱちくりとさせたモノ。

 随分といきなりだが、一方的に質問しっぱなしも良くないと、聞く体勢を取ってミエムの問いを待った。

 それから逡巡して、彼女は再び口を開き――、


「――モノ、貴女は『魔力無し』……違う?」


「その質問、さっき私が言ったことと繋がってなくないか……? いや、今は茶化すのは違うか」


 質問に対する答え、ではなく誤魔化すような態度を取ってしまったモノは反省し、首を横に振る。

 動揺、とはまた少し違うが、どう答えるべきか迷ったのだ。

 勿論だが、魔法技術が発達しているという大陸に向かうと決まった時に、『魔力無し』体質がバレてしまうことは想像していた。

 しかし、こう真正面から問われるケースはあまり想定していなかった。前世の『魔力無し』の扱いの悪さを知っているモノは、『魔力無し』とバレるや否や、言葉よりもまず先に軽蔑の視線を向けられると思っていたから。態度に、行動に現れると思っていたから。

 だから、こうして真っ直ぐと『魔力無し』であることを問われる未来を、どうにも考えていなかったのだ。


 だが、それは目の前の彼女がモノを過剰に傷付けないように配慮した結果の行動であると、はっきりと理解出来た。

 故に、モノもミエムを信頼して、敬意を持って回答を――、


「ああ、そうだぞ。私は魔力を持ってない、『魔力無し』だ。けどなんでわかったんだ?」


「はっきりとは分からなかったから確認した。けど、ここまで至った理由は三つ。一つ目。そもそもモノから魔力を一切感じない、けど、強い人ほど隠すのが上手いからそれだけでは判断できない」


「うんうん」


「二つ目、私の使った基本的な魔法にさえ驚いていたこと。三つ目、その上『神力』も知らないこと。『神力』は魔力を持った人にしか目には見えないから」


 聞きながら、我ながら思い当たる節が多すぎると苦笑。まあもとより隠す気などそこまで無かったのだが、ここまで並べられると自分の不用心さに笑えきてしまう。


「もしかして、めちゃくちゃバレバレだった?」


「うん、あまり知られたくないだろうから。これからはもっと気を付けた方がいい。うちはそんなことで軽蔑とかしないけど、『魔力無し』の人の扱いの悪さは知ってるから」


「あー、やっぱり悪いんだ。魔法大国だから特に酷そうだよな」


 ミエムの態度が、モノが魔力無しと知っても何も変わらなかったので、もしかしたら前世から今のモノになるまでの空白の時間で、魔力無しの扱いが変わったのかと思ったが、どうやら違うらしい。


「何故か他人事だけど……さておき、今の問いはただの確認。モノが『魔力無し』なのを踏まえた上で、一番気になることがある」


「うん?」


 何やら改まった様子のミエムに、モノは何だ何だと身構える。


「なんであんなにも色々な気配に敏感? 魔物の時然り、さっきの教徒の時も然り。魔力を持たないモノが、魔力探知を使っているうちより早いのは……正直に言うと、有り得ない」


 構えて、投げかけられた問いに、何だそんなことかと、緊張を解いて直ぐに答えを返そうとした、


「それは――――」


 ――その時だった。


「――あれ? こんな森の中に、人が、いるなんて」


「っ!?」


 背後から突如、声が。

 しかし、そんなことは丁度今、ミエムの問いに対する答えであった『最終兵器』のセンサーを起動している故に、起きないはずだ。

 身体をビクつかせ、反射的に立ち上がったモノは声の聞こえた方角、闇に染る木々の間を見つめ、身構える。

 それから『暗視』を発動し、視界にようやく、ふらりふらりと歩く誰かの姿を捉えた。

 捉えて、先の声が幻聴ではなかったことにモノは戦慄する。

 今までに一度もなかったからだ。

 声が聞こえるほどの距離まで、近づかれて尚、『センサー』に引っかからなかったことが。


「――迷い人ですか? それとも、旅の方々? 憎たらしい神の臭いはしませんので、そこは安心ですが。……どちらにせよ、時間は取らせませんので、これだけは聞かせて下さい」


「何者……!?」


 モノと同じく驚いた様子のミエムも、そう声を上げ魔力を練って、何やら呟きながらやってくる人物に警戒する。

 只者ではない、それだけは分かった。声を聞いて、影を捉えた今でも、気を抜けば直ぐに夜の闇に溶け込んで仕舞いそうなほど、気配がないのだから。

 そこまで気配を消すことに特化した技術を持つ事になった理由なんて、いいものは見つからない。

 だからこそ、目を、集中して、全力で離さない、否――離せない。


 周りの存在を全て無視して、否定して、己にのみ注目する事を強制する、ふらふらと左右に揺れながら歩く、その()()は。

 紫の強い黒紫の髪をダラリと下げ、黒い、修道服のような地味な服を着た、少女は――。


「――()()()()()()()()()()()()


 ――『尋問』を、審判を、ぶら下げやってきた。





 前回登場した時と随分と様子が違うようですが、間違いではありません。

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