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四章第4話 三兄弟




「――――じゃーんっ★ こんな感じでどうかなっ? 本日はポニーテールです!!」


「おおお、いい感じだ、俺可愛い!」


「俺……?」


 ナナリンの手で、黒いフリルの付いた髪留めを用い、後頭部に束ねられたモノの純白の髪。

 鏡を前にして、椅子に座る自分の姿を確認し、そのあまりの美少女具合にモノはいつものナルシズムだ。


「姫、よくお似合いですよ。……貴様がやったということ自体は気に食わないがな」


「ぶーぶー、アズラク君ひどーいっ」


 アズラクのナナリンに対する態度はこの通りだが、ナナリンの行動の結果は否定していない。

 やはり、可愛いものに目が無いだけあって、ナナリンのこういったスキルはどれもレベルが高い。


 ちなみに、始まりは『アゼルダ』の朝に寝癖を直してもらったところからだ。

 それから王都での一件を挟み、その後すっかり、毎朝ナナリンの気分次第で髪をセットしてもらう事が日課となってしまった。


「今日もありがとな……毎度の如く、うなじを見て鼻息荒くするのはやめて欲しいけど」


「うへぁ!? ば、バレて……おほん。なんのことかなー、ナナリンわかんないなー」


「ナナリンお前、ほんと嘘つけない性格だよな」


 考えてることが全部表面に出てきてしまう為、ナナリンは徹底的に嘘が下手である。

 ここがナナリンの良いところでもあり悪いところだとモノは思う。良い意味で素直、悪い意味で欲望に忠実すぎる。

 

「――そういや、アズラク、私に何か用があったんじゃなかったか?」


 そんなこんなで朝の支度、兼ルーティンを終えたところで、モノはアズラクに問う。

 モノが寝惚けていた所為で、結局今まで先送りになってしまっていた話題だ。アズラクは何か用があったから、モノの、『九番隊隊長』の部屋に足を運んだ筈で。


「はい、その……あの馬鹿()()()がクソ煩くてですね」


「あぁ、そういえば。あいつらのこと、保留にしたまま日を越してたな……わかった、すぐ向かう」


 頷いたアズラクの言葉に、こちらもまた納得の様子で頷き返すモノ。

 

 モノが隊長を務める『レイリア王国軍九番隊』。

 ライラがかつて言っていた通り、隊長の座について直ぐに、その人員はモノの独断で選ばせて貰えることに。

 その結果、現在の『九番隊』のメンバーは以下の通りだ。

 ――『白雪姫』モノ・エリアス。

 『赤の吸血鬼』エリュテイア。

 『白雪姫の騎士』アズラク。

 『盗賊』ナナリン。

 そして――『()()()()()()』。


 ちなみに、ナナリンは兵士嫌いである為、参加の際に大きく葛藤することになったのだが、その話は今は良いだろう。


「……あと、アズラク言葉遣いな。イルファにはお前も連れていくつもりだから、相手の癇に障るような言葉に気を付けてくれよ? あくまで調査の任務だから騒動になると面倒だしな」


「うっ、姫の指示とあらば気を………………………

………………………………………善処します」


「そこはっきり『気を付けます』って、言い切って欲しかったな!?」



※※※※※※※※※※



「――ったく、アズラクの奴……ほんとに大丈夫かな……」


 アズラクの歯切れが悪い返答に不安が募ったが、その後モノはレイリア城内の、とある部屋の前へ。

 そのアズラクに言われた『三兄弟』の事で、モノは半ば放ったらかしにしていた題がある。

 いや、先延ばしにし過ぎて、モノ自体そもそもの存在を忘れていたのだが。


「……よし、ここだ」


「○×※△#!」


「相変わらず、五月蝿いなあいつら……」


 とある扉の前で立ち止まり、そう呟いたモノ。

 中から何やら、男が複数で騒ぐ音が聴こえたが、最早いつもの事である。

 なのでモノはノックも無しに、落ち着いた赤色が塗られた扉の、金属取っ手を掴みそのまま押して、


「へ!? お嬢!?」


「……ん? ああ、なるほど」


 ガチャリと音を鳴らすと、どうやら何か慌てた様子の声がモノの鼓膜をついた。

 その声に疑問を持ったモノだったが、それも一瞬。

 直ぐに理由に思考が及び、モノは一人納得し頷いて、ニヤリと笑う。


 ――部屋の中には男が三人。それから、先程までの扉越しにも伝わる程の盛り上がり。そこへ可憐な少女が現れた。

 奴らは馬鹿だが、それでも男だ。

 この状況を踏まえた上で、中の男が慌てふためく理由など、一つだけ。

 間違いない、『女性には聞かせられない話』をしていたのだろう。

 元男のモノにも、引きこもり出会った為談義イベントこそ無かったが、その気持ちは理解出来る。


 だからこそ、あいつらの為にも、モノは寛容な心持ちで、気付かないフリをしてやらなくては、と謎の覚悟。

 間違えても、『一体何の話をしていたんだ』などと質問してはならない。


 などと瞬く間のうちに思考して、どこか達観した表情のモノは一歩を踏み出す――。


「よう、お前ら! 一体何の話をし、へぶぁっ!?」


 足を踏み入れた途端、視界が飛来した何かに黒く覆われ、刹那、モノの顔面に鈍い衝撃が走った。

 飛んで来たそれは柔らかく、痛みはない。

 しかし、その勢いと重さと、適度な反発力に押され、モノの身体の重心は、綺麗に頭に持っていかれる。

 その間僅か約一秒。

 直立していた時の体勢のまま、廊下へと倒れ込み――、


 ゴチン。

 

「いったぁぁぁああ!?」


 ――無防備な後頭部を床に強打。

 自身を襲う猛烈な痛みに、モノは思わず絶叫。

 その箇所を両手で押さえて、涙目になりながら、左右へジタバタと転がる。


「す、すいません、()()!! 丁度、枕投げしてて……」


 そう言って、悶絶するモノに駆け寄ったのは、赤いバンダナの妙に耳飾りの多い男。だが、その男の首から下に纏った服は、半年前のものとはガラリと雰囲気が違っていて。

 それは続けて部屋から出てきた、猫背の男ともう一人も同じだ。

 三人とも心做しか目付きも、前と比べて優しげだ。


「なんでお前らこんな朝っぱらに枕投げしてるんだよぉ……!!」


「それは……」


 若干、ノックせずに揶揄ってやろうとしたモノの自業自得、バチが当たった感が否めないが。

 想定外の痛みに悶えるモノに自身の行いを省みる余裕は無い。そもそもなんでこんな時間に枕投げなどをしているのかという思いに至った故に、モノはそれをそのまま口にする。

 

 すると、それはそれはもう深刻に思い詰めた表情で答え出すのは赤バンダナの男だ。


()()()()がお嬢に似合う一番の髪型はツインテだとか言いやがるからよー」


()()()、お前だってショートが良いとか言っただろうが! そもそも、お嬢はまだ一度もショートにしてねえだろ!」


「おま、俺の妄想上のお嬢はショートやってたんだよ!!」


「いや、ないわー、お前。それはないわー、キモすぎじゃん?」


「おい()()()、裏切りやがったな!? お前も『ショートいーな……』って言ってたじゃねーか!? お嬢の前だからって『俺はまともです』みたいな感じ出すんじゃねー!!」


 そのまま言い合いになる三人の男、いや、『三兄弟』――赤バンダナのルーク、猫背のジャックに、チャラくなくなったチャラ男のウェイ。

 胸に黄金の蝶の描かれた、レイリア王国軍の兵士鎧に身を包んだ三人は、半年前に路地裏でモノに突っかかってきた人物だ。

 結果、モノの説教により改心したジャック達だったが、その直後にあのクリスタ絡みの大事件が起きたせいで、モノ自体、この三人の存在を暫く忘れていた。

 だが事件後、『九番隊』の結成式の際に、乗り込んで『俺達を隊員にして下さい!』と猛アピールされ、モノもそれを認め、今に至るわけである。

 

「だが兄弟。俺、今日のお嬢の姿を見て、一つ確かに分かったことがあるぜ」


「奇遇だな、ルーク、僕もだ。……ウェイお前もだろ?」


「ああ勿論だぜ、オレっちもそう思う」


 痛みを堪えるモノを無視して会話を進めていた三兄弟が、突然、一斉にモノへと振り返った。

 モノは何事かと目を見張るが、どうせ下らないことだろうと思い直し、深く考えるのを止める。


 交錯する視線。三兄弟は同時に息を吸い込み、声を張り上げる。


「「「ポニーテールのお嬢も超可愛い!!!」」」


「やかましいわ! ただでさえ痛い頭に響くだろうが!! まあ、私が可愛いのは当然だけどな」


 大声で震え、ますます痛んだ頭を抱えながら、やっと立ち上がるモノ。三兄弟を苛みながらも、結局はナルシズムでいつもの調子だ。

 褒められると調子に乗る、それがモノの性である。


「くっそ、これ後から気持ち悪くなるやつだ……つと、それはまあいいや。んで、お前らまだウダウダ言ってるのか?」


「そりゃーそーですよお嬢!」


 色々と朝から散々だが、このままだと一向に話が進まないと、モノはアズラクに頼まれた本題へ切り込む。

 切り込んで、第一声で返ってくるのはルークの猛抗議の言葉だ。

 

「なんで俺らを調査任務に連れてってくれないんですか!! 納得できねー!!」


「いやだから、お前ら連れてくと大所帯になるからだって。調査任務つっても、今回は潜入調査に近い形だからな。エリュテイアとアズラクと私で人数ギリギリなんだよ」


 そう、この三兄弟が昨日から何を騒いでいるのかというと、ズバリ調査任務に自分達を連れて貰えない不満である。

 三兄弟のモノの役に立ちたい欲求の大きさは、モノも理解しているが、今回に至ってはこの三人を連れていけない理由があった。


「ティアが言うには、今回連れていくのは、ナックと私の隊からそれぞれ最大二人まで。それに加えて、個々に行動することが多いから、いざという時に一人でも何とか出来る奴じゃないといけないってな」


 そこで、モノが『今回の任務に連れて行く二人』に選んだのはエリュテイアとアズラクだった。

 アズラクの他人と確執を生みそうな態度は不安であるが、エリュテイアも含めてこの二人の危機対応能力の高さは、『アゼルダ』と『王都』の事件でモノはよく知っている。

 勿論今回の任務では、何か戦闘のようなものは上手くいけば起きないが。

 だがモノは、そのもしもの時に『一人でも』何とかなりそうなメンバーを選んだ訳だ。


「そりゃあお前らが訓練頑張ってるのは知ってるし、私の役に立ちたいっていう気持ちもすげぇ有難いけどな」


「なら……!」


「でも駄目だ。三人だと目立ちすぎる」


「くぅっ!」


 要するに、お前らは個々では力不足だと。

 少々厳しい事を言っている自覚はモノにもある。

 しかし、悔しそうな顔をしながらも、三兄弟が反論出来ないのもまた、一つの事実なのだ。

 それに、個々としてはまだまだだが、三人を一つのグループとして見た時の三兄弟の力はモノも高く評価している。

 だからこそ――、


「それに、私はお前らの三人揃った時の力強さも解ってるからな。だからこその、この選択だ」


「だから、こそ……?」


「おう、私達が任務に行ってる時にこの国に何かが起きても、お前ら三人になら安心して任せられるからな」


「……!」


 レイリア王国軍の二番隊から八番隊は、各隊ごとに各『超越者』に対抗する為に存在している。

 だから『王都』、否、『レイリア王国』の防衛を明確な目的としているのは、ライラ率いる一番隊だけだ。

 ちなみに、モノが率いる九番隊は所謂『リベロポジション』。『対超越者』等の縛りを無しに、動き回れる自由度の高い隊だ。


 その使命の中には一番隊の役目である防衛の補佐も含まれている。

 これもおまけのように見えて実は大事な役目である。

 実際、半年前の『王都』の事件では、ライラが封じられていた為にあそこまで事態が大きくなったと言っても過言でない。

 再びそれに似たような状況に陥った場合を考えれば、その役目の重要さは理解出来るだろう。

 

「もし、あの時みたいにライラに問題が発生した時に、お前らが居たなら大丈夫だって私は思ってるからな」


「お嬢……!!」


「てことで、留守番は任せた。頼りにしてるぜ」


「…………お嬢にそこまで言われちゃ、これ以上俺らも無理は言えねーな」


 我ながら卑怯な言い方だと、小さく自己嫌悪に浸るモノだが、半ば俯いたルーク達だが、一応納得した様子だ。

 いや、納得はしていないが、己のモヤモヤより、モノの期待に応える方を優先したのだろう。

 三人がやり切れない表情で頷いたのを見て、そう理解する。


 『白』の副作用で緩やかにモノの感情の起伏は薄まっているが、それでもまだ三人の態度を見て、罪悪感が芽生えないほどには腐っていない。

 だから、


「ま、有り得ないけど、あっちの大陸でもし、潜入とか関係なくなる程の事件でも起きたりしたら、お前らのこと大声で呼ぶからな。聞き漏らすなよ?」


 などとモノは冗談っぽく笑みを浮かべて、罪悪感を誤魔化す為の方便を使う。

 どこまでも、三人の信頼に甘えてばかりだ。加えてタチの悪いことにモノは、次のルーク達の反応も分かっている。

 そう――、


「まったくしょーがねーです、お嬢は。なあ、お前ら?」


「全くです」「なー」


「……まー、お嬢、任せてくださいよ。俺達、お嬢の窮地にはソッコーで駆けつけるんで!!」

 

 ――なんて格好つけて、キザったらしく笑うのだ。




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