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四章第2話 与えられる使命

 多忙だったため、本っっっ当に長らくお待たせしました、すみません!

 今日からまたぼちぼち更新再開です。失踪はしません。

 久しぶりなので、普段より文字数多めです(万超え)!!!! 何故!!!!!




「……オイ、アイツはまだこねぇのか! あぁ!?」


 九つの塔に囲まれた王城――レイリア城の一室。

 その塔と城の形状と同じように、大きな真ん中のくり抜かれた円形のテーブルを、九つの席が囲む。

 

 現在、その九つの内、五つには何かしら人物が座っていて。

 三十分程の遅刻をしているとある人物に対して、悪態をつき、机を拳で叩いた山賊のような身なりの男――ナック・ベイルも、デカい態度でその席に座る一人だった。

 

「はぁ、本当に君は落ち着きがないな、ナック。見ろ、あのラグゥの瞬きすらしない、全てを静観する大岩の如く立ち振る舞いを。君も見習うべきだろう?」


 そう言って、鮮やかなマゼンダのショートカットヘアの上に獣耳をつけた、発育のいい男装少女――フィリル・ラーバスは、席に座る一人の巨男を指さす。


「――――」


 一般の人の二、三倍はある体格。フィリルが表現した通り、大岩の如く鍛え上げられたゴツゴツとした身体。

 本人にその意思があるかは謎だが、焦げ茶の身体を見せびらかすかのような、(ふんどし)だけの服装。

 ラグゥと呼ばれた巨大な男は、ただじっと一点を見詰めて、物音を立てないどころか、瞬きすらしない。

 それは赤子が見れば、否、大人でも逃げ出してしまう程の、あまりに威圧感の有る態度で――、


「……ラグゥはただの人見知りだろうがよぉ! これは緊張して動けねぇだけだっての、てめぇも知ってんだろうが!」


「君は騒がしすぎるから、少し彼の姿を見て勉強しろと言っているんだ。そんな事も分からないのか?」


「んだと、てめぇ!! いい加減にしねぇとぶち殺すぞ!!」


「――とはいえ、確かに遅いな。心配だ、可憐な花のような彼女の身に何かあったら、ワタシは……!」


「無視すんなクソが!」


 綺麗に脅しを無視されたナックが更に吠える。

 対してフィリルはやはり、ライトピンクの瞳を伏せて、やれやれと落ち着いた様子で、


「悪いね、様々な言語を会得しているが、犬語はまだなんだ。キャンキャン言われても、分からないよ」


「あぁ、決めた、てめぇ今殺す! 覚悟しやがれぇ変態ロリコン女ァ!!」


 徐々にエスカレートする言い合い。

 そして遂にその低い沸点が限界を迎え、椅子から立ち上がり、テーブルに身を乗り出そうとしたナック。

 だったが、そこでふと口を挟むのは、それまで黙り込んでいた一人の少女だった。


「――ナック、フィリル、なかよし。わきあいあい」


 そう呟いた日頃から半目開きの、茶色のコートに無理やり身体を全部丸めて収めた少女は、綺麗な宝石を見たかのようにうっとりと、優しい笑みを浮かべている。


「んなわけねぇだろ、ちゃんと目と耳と頭付いてんのかてめぇ」

「そんなわけが無いよ。あぁ、けれど『()()』……君はやっぱり今日も美しいね……」


「やっぱり、いき、ぴったし。すごく、なかよし。いしんでんしん」


 こともあろうに、『ユニ』と呼ばれた少女の言葉への否定のタイミングが被ってしまうという、『仲良し』という言葉のある意味の肯定をしてしまったナックとフィリル。

 勿論、二人は納得していない様子だが、途切れ途切れの独特な話し方をするユニは、毛先のカールが特徴的な翡翠の髪を揺らして満足気だ。


「だからちげえって――」


「……だああ! やかましいのだ!! お主ら少しは静かに待てんのか、なのだ!!」


 収まるどころか、勢いを増す言い合いに、くり抜かれた円形のテーブルその中心の、一際豪華な椅子に座した小さなシルエットが揺れる。

 淡い黄色と毛先になるにつれて緑にグラデーションした髪を、お団子にまとめた幼女――『レイリア王国現王』ティア・ニータ・レイリアだ。


「大体、あのライラですら静かにしておるのにお主らが騒いでどうするのだ!」


 地団駄を踏む子供のように、蝶の飾りの付いた杖をぶんぶんと振り回す、外見からはその高貴さを全く想像できないティアは、自分の後ろのライラを指差してナックらに怒鳴りつける。

 それから、激しく動いた結果、ずり落ちそうになっていた王冠をいそいそと直す様子はどうにも締まらない。

 が、事のほか、怒られた当人達には効いたらしく、


「…………そうだね、一番隊隊長ですら大人しかったのに、ワタシ達は……申し訳ない、王よ、少し落ち着くよ」


「ちっ……そうだな。あのライラですら黙ってんだ、悪かったなティア」


「うむ、そうだろうそうだろう、なのだ。……ってちょっと待てい! ナック、おま、今、舌打ち? 舌打ちしたのだ? この余に向かって!? しかも呼び捨てとはいい度胸なのだ!! 死刑!!!」


「揃いも揃ってお前らな……もしや今日の招集はそういう趣旨だったのか……?」


 王に向かってあまりに不敬な態度のナックに、ティアが首を切るジェスチャーをして騒ぐ中、何故か流れで貶されたライラが文句が有りまくりな顔で呟く。


 なんともカオスな状況である。他人の目から見れば、ストランド大陸を支配する王国、レイリア王国の中枢で行われている会議の場とは思えないだろう。

 それでも、一応はここにいる人員は全て、国の軍の隊長を任される程の実力者で――、


「――悪い悪い、遅れた」


 コントじみたやり取りで、どういう訳か収拾がついた場の雰囲気。

 そんな中、突然、会議室の窓の方からの、たいして悪びれていなさそうな謝罪が一行の鼓膜をつく。


「おっせえぞてめぇ! そもそも、てめぇの足で、遅れるとかそんなわけねぇだろうが!!」


「……お前、それ怒ってんの? 褒めてんの?」


「殺気立ってるに決まってんだろうが! あんましふざけてっと殴るぞてめぇ」


「わあお、第三の選択肢きた」


 声の聞こえた窓の方。その外側に立つ純白の髪を揺らす少女に、ナックはこれでもかと怒声を浴びせる。

 それにあくまで飄々と、むしろ、火に油を注ぐような言葉を返す少女。

 この場の全員にとって、ここ半年のうちに最早、見飽きてしまった光景だが、最初の頃は皆、目を見張ったものだ。なんせ――、


「だいたいてめぇは――」


 少女――モノ・エリアスが立っているのは、レイリア城の()()、それも、指の第一関節までくらいしか無い、『窓の縁』という細すぎる足場で――。


「あーわかった、わかったから…………取り敢えず、窓開けてくんね?」


 そんな足場に、片足の先をほんのちょこっと乗せて、軽々と体重を支える常人離れの少女は、少年の言葉を遮って、鍵を開けるようにチラと目配せをするのだった。




※※※※※





「――おいテメェ、こんだけ遅れるなんて何してやがったコラ」


「えっと……、まず王都付近に出た魔物の退治だろ? それから、街の見回りだろ? それに、市場の商品の運搬の手伝いに、腰の弱い婆さんの家事の手伝いに、泣きじゃくる赤ん坊をあやしたり、逃げ出した飼い猫の捜索に、悩める二人の恋愛相談ってとこかな」


「テメェは何でも屋か!!」


 窓を開けてもらい、会議室へとモノが足を踏み入れたところで直ぐに詰め寄ってくるナックと、その返答としての『モノの今日やった事リスト』の、よく分からないラインナップ。

 何でも屋か、と突っ込むナックの言い分はごもっとも。事実、こう王国の中枢機関での会議に遅れた理由としては薄い、というのはモノも承知だ。

 しかし、仕方がない。


「流石に私も恋愛相談まではやり過ぎだって思ったけどな……困ってる人は放っておけないだろ。お前も、そうカリカリするなよな、ちゃんと『カルシウム』取れよ」


 そうやって目の前で困っている人を見過ごせないのが、モノの持つ性質であり、別に直そうとも考えない。むしろ自分の長所であるとまでモノは思っている。

 まあしかし、その『過ぎたお人好し』も、あくまで自分の目の届く範囲、手の届く範囲に限られているというのが、モノの歪な部分を表しているが――当の本人はその点に気付いていない。


「かる……? だぁぁ! 訳わかんねえこと言ってんじゃねぇ! 潰すぞ!!」


 モノの口から発せられた『カルシウム』という、聞き馴染みの無い単語に、イラついた様子で吠え、ガンを飛ばすナック。

 そんな息がかかる程に近づけられる顔に、モノは苦笑しながら大きく仰け反って、


「『カルシウム』、だよ……って、近い近い! それ以上はセクハラだからな!」


「『かるしうむ』……? 『せくはら』……? 分かったところで分っかんねえよ!! なんだそれはァ!!」


「私にもわからん」


「おぉいッ!?」


 有り余る勢いで転びそうになるナックを前に、モノは疑問に首を捻り続ける。

 モノの口から時折出る『無意識の内に使っているが、改めて聞かれると意味は分からない』という可笑しな単語群。

 以前、エリュテイアの中にもこの単語群が存在していることが分かったが、結局、『最終兵器(アルマフィネイル)』が関係しているということ以外は分からず仕舞い。

 それから、半年前の大雪事件でアズラクと和解した後、当然の如くアズラクの中にも単語群が存在していることが判明したが、『クエスチョンマーク』を浮かべる人物が一人増えただけだった。


 ――何故、あの日、モノは『最終兵器』として目覚めたのか。何の為に存在しているのか、『色』とは何なのか。


 謎が増えるばかりの『最終兵器』という存在。

 レイリア王国軍の九番隊隊長という立場と権限を手にした今、そろそろ、本格的に一度『最終兵器』について調べてみるのもいいかもしれない、などと最近のモノは考えているが。


「……モノと、ナックもなかよし。ちょうちょうなんなん」


「てめぇ、さっきからマジでちゃんと目と耳と鼻付いてんのか?」


「おう、ユニ。相っ変わらず語尾の言葉が難し過ぎて理解できないけど……私とナックが超仲良しなのは大正解。凄いぞユニ。よしよし、なでなで。……ちなみに目と耳は合ってるけど、鼻は関係ないぞ」


「ふへへ。ゆに、ほめられた、うれしい。きんきじゃくやく」


 モノが撫でてやると、人懐っこく、普段の半目を更に細くして、にへらと笑うユニ。


 外見年齢ではモノの方が年下であろうが、彼女のこうして甘えたがりな様子を見ていると、可愛い妹が出来たような感覚に陥る。

 まあ、モノにとっての妹という単語は、あまり良い意味を持たないが。しかしユニのそれは、良い意味のものだ。

 勿論、モノは二度目の生である為、実際に生きた年月といった捉え方では、ユニより歳上なのは間違いではない。

 が、ユニの前では殆どの人が、『謎の年下を目の前にしている感』、を受けることになる為、きっとモノの年齢は関係なく、これは彼女の生まれながらにして持つ性質なのだろう。


「――さて、雑談もここまでなのだ」


 そんなこんなでモノがユニに、なんだか懐かしいような思いを抱いていると、ふと、ティアが一つ手を叩いた。

 同時に、ガラリと変わる空気。

 和やかだったそれは、一気にピンと張り詰めた糸のそれに。

 ――王の号令だ。

 普段の『背伸びしたがりな幼女』の声色ではなく、王としての凛と威厳ある声色。元の高さは変わらない、だが、ティアがこの声色で言葉を発すれば、聞いた者は、令に従わざるを得ない。

 不思議な強制力。ティアの王としての素質の一つである。


「集まれなかった者も居るが、今回はこの人員で会議を始めるのだ」


 今日の会議の参加率は大体三分の二くらい。


 『国王』ティア・ニータ・レイリア。

 『一番隊隊長』ライラ・フィーナス。

 『二番隊隊長』フィリル・ラーバス。

 『四番隊隊長』ラグゥ・ガナノフ。

 『五番隊隊長』ナック・ベイル。

 『七番隊隊長』ユニ・レイリー。


 ――そして、『九番隊隊長』モノ・エリアス。


 ライラに『隊長をやらないか』と誘われたモノは最初こそ、拒絶したものだったが。

 半年前の事件にて、神の脅威、そして『最終兵器』との繋がりの可能性を目の当たりにしたのち、モノはこの列に加わる事を決めた。

 周りには知らせていないが、モノも一応、フォルとやらに『加護』を与えられている為、万が一乗っ取られる場合もあるだろう。

 その時に、自分を止められる実力者が周りにいることもこの環境の好ましい点だ。


「お主らは今日、何故呼ばれたか、わかるのだ?」


「…………『聖遺物(せいいぶつ)』、いや、『アーティファクト』のことだね?」


「うむ」


 フィリルの答えを聞き、頭の上の王冠を抑えながら、片目を伏せ、深く頷くティア。

 

「近頃、なにやらこの大陸で『聖遺物(アーティファクト)』関連の悪さが増えておるのだ」


「そういえば確かに。私もちょうど昨日『聖遺物』を集めてるような奴と戦ったな。えーっと、『暴虐……なんだったっけ?」


 首を傾げるモノだが、ティアの言う通り、昨日の『暴虐なんとか』さんの他にも、ここ最近は『聖遺物』が絡んだ事件が多い気もするが。

 そも、『聖遺物』は神との繋がりを強引に得て、『加護』を受けたり、似たような強い力を行使出来るという、謎多き物体だ。

 『神』という存在の危険度を知っているモノからすれば、そんな物は目の届く範囲にすら入れたくない代物。

 なのだが、その力に魅入られて、無闇に手を伸ばす者は少なくない。


 などと考えながら、モノは自身のショートパンツのポケットに入った()()()()()()()に生地越しに触れる。

 すると、先の発言に答えるのはユニで、


「『ぼうぎゃくぐま』、ゆうめい、わるい『これくたー』。ごくあくひどう」


「あぁそれそれ。因みに、今回の語尾は私にも分かったぞ。天才かもしれない。それに私ってば超絶美少女」


「うん、モノ、てんさい。すごい。はっぽうびじん」


「……それ、なんか違くね?」


 流れるようにナルシズムを発動させるモノを、褒めているようで褒めていないユニ。

 とはいえ、彼女の言う通り、昨日モノが倒したのは、『聖遺物』を集める『蒐集家』の一人である、『暴虐熊』と呼ばれる男だ。

 彼も、また『聖遺物』の力に――否、『神』の力に魅入られてしまっていた。


「『暴虐熊』……名の知れた、と言っても悪名だけれど、彼のような『蒐集家(コレクター)』が、この大陸にいること自体、変な話だね」


「……というと?」

 

「元々、『聖遺物』はここ『ストランド大陸』には存在しないものなんだよ。『聖遺物』の発掘場があるのは、この大陸ではなく、隣の大陸――『ルートヴィヒ』だからね」


「え、ちょっと待て。発掘場って……掘るのか!? 『聖遺物』を!? てか『聖遺物』って、地中に埋まってるものなのか……?」


 初耳だ。前々から、『聖遺物』などという物体がどこから生まれてくるのかは、モノも気になっていたことだったが。

 このタイミングで知ることになるとは。

 それもまさか、『聖遺物』が化石のように地中から掘り出されている物だったとは。

 

 ならば、こうして城が建っている土地の地下深くにも『聖遺物』が眠っている可能性があるのかと、驚きに驚きを重ねるモノ。

 だったが、それは次のフィリルの言葉で否定される。


「ああ、そうだよ。しかし、『聖遺物』が掘れるのは世界に一箇所だけだ」


「――『シェイド発掘場』」


「お、珍しい、ラグゥが喋った」


 世界に一箇所だけだという『聖遺物』の発掘場。

 それを聞いて、モノは世界中に地雷が埋まっているような状況ではないことに、胸を撫で下ろす。


 それから、その発掘場の名称だけをポツリと低い声で口にしたラグゥに、視線を向けて。

 非常に短い時間だが、極度の人見知りであるラグゥが喋るのは相当レアだ。いい事があるかもしれない。


 などと場違いにもニヤリとするモノを無視して、頷くのはティアだ。


「うむ。だからこの大陸にある『聖遺物』は、元を辿れば全て隣の大陸の、その発掘場から流れてきてるのだ」


「なるほどな。でも、『アゼルダ』の時もそうだし、半年前のクリスタの件もそうだけど、別に『聖遺物』絡みの事件って今に始まったことじゃないんじゃないか?」


「ああ、だが頻度が妙だ。『犠牲』や『浄化』のように大きな事件は起きていないが、ここ数ヶ月で小さな事件が急増している。いや、正確には二年と半月程前から増え続けてはいるのだけどね」


()()と半月前…………同じだな」


 『二年半』というその数字に、妙な引っ掛かりを覚え眉を寄せるモノ。

 モノが少女の身体で目覚めてからは、まだ半月と数日程しか立っていないため、何か自分の体験に基いた引っ掛かりという訳ではない。

 なら何故か。


 答えはそう、()()()()()()からだ。

 モノがアイン・エリアスとして生きていた前世の、生まれ故郷である『ウェルト』。その滅んだ時期に。

 特段その二つの要素に、接点は無い。

 しかし、これを単なる偶然と流そうとすると、上手く言えないがモノは嫌な感じがした。


「……」


「――? モノ、どうした? おなか、いたい? しっつうさんたん」


「ん? ああいや、なんでもない。続けてくれ……じゃなくて、もう一つ疑問」


 自分でも理由の分からない、湧き上がる謎のモヤモヤとした感情。

 ユニの言葉に我に帰ったモノは、それらを振り払うように首を横に振る。

 そして、『聖遺物』の出処を解説された今、改めて浮かび上がった疑問、違う――元の疑問へとモノは回帰する。


「『聖遺物』は元々この大陸に無かったんだよな? にしては今この大陸、『聖遺物』多すぎじゃね? さっきフィリルも言ってたけど、やっぱ妙だよな……?」


 その点が、さっきのフィリルの発言に繋がる。

 『暴虐熊』のような『蒐集家』が、数年前まで『聖遺物』が無かったはずのこの大陸に姿を表すこと自体が、異変、異常事態の表れだと。


 ティアは頷き、モノのその思考を肯定する。


「うむ、モノ・エリアスよ、実際に()()()()()()()()なのだ。……ここのところの『聖遺物』の流れ方は、度を越していて、はっきり言うと異常なのだ」


「そうだね、そもそも『シェイド発掘場』を有した国である『イルファ』は、『聖遺物』という自国の強みを他国に渡すまいという構えだった筈だ。そんな国が、こう易々と『聖遺物』をストランドに流通させるなんて思えない」


「その『イルファ』とやらで何か異変が起きていると考えるのが妥当ってわけか……」


 あくまでこの大陸で起きている『聖遺物』、その個数の増加という異変は連鎖的な物だ。

 言わば、原因と結果のうち、結果の部分に相当する。

 大元を辿れば、その『聖遺物』自体を掘り起こしている『シェイド発掘場』――を有する国『イルファ』が異変の始まりに違いない。


 イルファで問題が起きたから、その結果ストランド大陸で『聖遺物』が増えた。こうだ。

 つまり、この『聖遺物』関連の問題を解決するには――、


「だあああ! 難しい話は我には解らん!!」

「だあああ! 難しい話は俺にはわっかんねぇ!!」


「……お主らはもう少し理解する努力をせんか、なのだ」


 と、それまで黙っていたが、遂に耐えきれなくなったのか、話に置いてきぼりだった二人――ライラとナックが突然吠える。

 そんな二人の態度に、ティアの対応はやはり、ため息混じりの、随分と冷めたもので。


「うるせぇ! くそ、結局何が言いたんだてめぇはよぉ!」


「う、うううるせえ!? てめぇ!? おまけに、くそとまで言ったのだ!? 王である余に向かって!? きぃぃいっ!! 今度という今度は許さないのだ! 即刻死刑! 貴様ら、今すぐこやつの首を刎ねるのだ! 殺せ、殺せ!! 殺せ!!!」


 誰もが想像できた通り、しかし残念ながら、ティアの逆鱗に触れてしまった、逆上したナックの乱暴な言葉。

 ティアの見た目の可愛らしさも相俟って、ぷんすか、という言葉がピッタリの様子だが、言っていることは処刑宣告と、全く可愛くない。

 ナックが王に対して不敬なのは間違いないが、このままでは話が進まなくなってしまいそうなので、大事になる前にモノは止めに入る。


「ま、まあまあ、ティア落ち着けよ。ナックも悪気は無い……訳は無いけど、頼むからここで死体を転がすのだけは止めてくれよ……」


 ――が。


「モノ・エリアス。そう言えば、お主も呼び捨てだったな!! 不敬! お主も死ね!!」


「……へ? うおわっ!? 危ねえ!?」


 どうしてかモノにまで飛び火。まあ大体が、モノの普段からの不遜な態度が悪いのだが。

 止めに入ったつもりが、新たなる()()となってしまったようだ。

 こうなれば、モノに止める術はない。

 現に、杖から放たれた火の魔法は、モノの鼻先を掠めた。これは相当、お怒りのようである。


「……文字通り、()()()、なんつって……って、おいおいおい!? ティア、いくらなんでもそれは!?」


 我ながらつまらないことを言ったと、モノにも自覚はあったが、それどころでは無い。

 ――ティアの後ろには、無数の魔法陣が出現していた。

 半年前の『浄化』事件に際して、氷漬けにされた人々の命を保てていたのは、このティアの恐るべき魔力量のお陰だったが。

 それが今、ナックとモノに怒りのままに向けられていて。


「うるさい、死ね!!」


「語彙力!! それに、いつもの語尾消えてるぞお前!」


 いつもの『なのだ』とかいう、変な語尾も消え失せ、半泣きになって魔力を整えるティア。

 このままでは、仮にモノ達が無事でも、色々と被害が出てしまう。


 そこで、モノはこの場で唯一、王を上手く窘められそうな人物に目配せ。

 したのだが、視線に気づいたその人物は、モノの想定に反して、マゼンダ色の髪と、身体をくねらせ――、


「……はっ! 火傷しそうなくらい熱く、美しい視線……! 我が愛しの白雪姫、君も私に恋してしまったんだね。君が、求めるのなら私はいつでも構わないよ! だって、君と僕は今! 両思いになったんだから!!」


「そうじゃない! フィリル、ティアを止めてくれ!!」


「……む。どうやら、私の早とちりだったようだね。失敬」


 その変わり身の速さもどうかとは思うが、一瞬の変な様子から己を取り戻したフィリルは、モノの願いを理解したらしい。

 モノに短く謝った彼女は、まもなく大破壊を開始するティアを向いて、


「……ちょっと待ってくれないか王よ」


「なんなのだ!? お主も余の邪魔を――」


「この城を吹き飛ばすつもりかい? それでは一番隊隊長と同じになってしまうよ?」


「……………………」


 フィリルの言葉に、場には沈黙と停滞が生まれる。

 それから、「ぐぬぬ」と奥歯で噛み、思考を巡らしたティアは――。


「……………………確かに、なのだ」


「おい!? さっきといい今といい、それで落ち着くのは、我が納得いかないぞ!?」


 フィリルの言葉に納得の意を示すティアと、その傍らで納得がいかないと抗議する『破壊竜』ライラ。

 巻き添えで何故か誹られてしまった彼女には悪いが、一先ずこの場が落ち着きそうなので、良しとしよう。


「危うく、巻き添えになるところだった……おいナック、お前のせいだぞ!」


「知らねぇよ、あと、死ぬのはてめぇだけだ」


「死ぬなんて言ってねえし、万が一そうなったら私がお前を何がなんでも道連れにするからな!!」


「あァ!? やんのかてめ――」


「……このままだと、ぜんぜん、はなし、すすまない。えいえいむきゅう」


 ティアがライラの犠牲(?)のもと冷静さを取り戻したのも束の間、直ぐに口論になり始めたモノとナックを、傍観していたユニが苛む。

 このままでは話が進まない、本当にその通りである為、モノにも言い返せる言葉はない。


「ちっ。あぁ、ティア、ユニの言う通りだぞコラ。さっさと結論を話しやがれ」


 それはナックも同じようで、今回は大人しく身を引いた。

 というより、ナックは基本、ユニに少し甘めだ。彼もまた、ユニの守ってあげたくなる雰囲気の影響を例外なく受けているらしい。


「おまっ……ええい! もういい、なのだ。よく思えばお主らが不敬なのは今に始まったことじゃなかったのだ」


「……ほっ」


 だが、それでも改善されることの無い、ナックの乱暴な言葉に、遂に諦めた様子のティアが話を続ける。

 また怒槌が落ちるかとひやひやしたが、そうはならないようで安心である。


 ――安心したのだが、どうやら、それは長く続かない。


「先の話の続きなのだ。『聖遺物』が増えたことは、『イルファ』で異変が起きたから、というのは説明した通りなのだ。そこで……」


 言いかけたティアは、二人の人物へ視線を向ける。


「――――」


「ナック・ベイル、それとモノ・エリアス」


「……!」


 名を呼ばれた、ナックとモノは同じように肩をピクリとさせ、


「――お主らで、『イルファ』に向かい、『シェイド発掘場』の調査及び――」


 同じように、


「――超越者が一人、『()()』の動向を探るのだ」


 ――めっちゃくちゃに嫌な顔をした。




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