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三章後日・開 『宣戦負告』




「お前――――嘘つきですか?」


 やってくる脅威は、生命か現象か。

 アルファは先程、絶対零度の風が吹き荒れる直前に抱いた二択を思い出す。

 その時には、後者の、現象の方が抗いようもないので、困るなどと考えていたが。

 

 あれはあくまで、アルファが少しでも抵抗できる生命体が現れるという前提の元で成り立つ説だ。

 ふらふらと修道服を揺らす少女を前にして、アルファはそうは思わまい。


 アルファの認識が正しければ、こんなもの規格外中の規格外だ。

 ふらふらと定まらない重心、だらりとした黒紫の髪に、修道服の少女、そして『嘘つきですか』という問い、と聞いて連想されるのは、この世界において、一人しかいない。

 神に加護を与えられた命でありながら、その神すらをも喰い殺し、神の力を余すことなく己の支配下に置いた存在――。


「悪意を持った『嘘』よ、何かを救う為の『嘘』よ、日常の些細な『嘘』よ、時すらも越え、須らく――――棘となれ」


「っ!!」


 何やら詠唱じみた文を言い切ると同時に、視界を覆ってしまうほどの無数の黒い穴がアルファの周りを囲む。

 瞬間、空気を裂くようにして禍々しい棘が、ナナリンの身体を貫いた棘が、今度はアルファを目掛けて、真っ直ぐと伸び、


「ぐ、ぁあ! ――かひゅ」


「アル兄!」

 

「……ああ、お前、とても嘘つきなんですね」


 ――肌を破って、肉を絶ち、内蔵をぶちまけ、骨が砕ける。

 なんの材質か、兵士の丈夫な鎧を意図も容易く、まるで水風船に針を刺すかのように。

 穿ち、その勢いに身体が跳ねる度に、鮮血が飛び、焼けるような痛みがアルファを襲い、堪らず絶叫が鳴る。

 しかし、直ぐに叫ぶ喉も貫かれ、代わりに漏れるのは無様に掠れた空気の音で。


「ああ、あああ、嘘、嘘、……うそうそうそうそ!! どれだけおまえは、うそをついたのですか。つみぶかき、おろかないのちよ」

 

 一瞬の内に、物言わぬ肉塊へと変貌を遂げ、崩れ落ちたアルファだったものを見下ろし、少女は憎き相手へと見せる表情で、責め立てる。

 徐々に焦点が合わなくなり、異様なまでに、右へ左へ身体を揺らす少女の狂気は益々増すばかりだ。


「でも、わたしもうそつきなんです。さばかれるべきいのちなんです。だけど、いたいのはいやなんです。くるしいから。つらいから。だからわたしは、ほかのうそつきなひとをさばくことで、しょくざいを、しま、しません。しませんよ、ほんとうです。なんて、うそですけどね? ……あ、またうそをついてしまいました」

 

「――――」


「…………?」


 嘘つきを許さない、嘘つきを裁くと、豪語しながらも、自分の罪には痛いのが嫌だからという、自愛が理由で裁きを与えない。その代わりに、その分、他人を痛みで裁く、と。

 そんな理不尽な暴論を、とっちらかった視線を回しながら述べる少女。


 だったが、その少女の表情に、突然、疑問の色が混ざり込む。

 

「――――!」


 ぐちゃぐちゃになって、雪の絨毯に転がった赤黒い、動かないはずの、動いてはいけないはずの肉塊が、蠢いたように見えたからだ。

 少女は、散らかっていた視線を再び、目の前の死体へと戻し、じっと見詰める。

 見つめて、少女は、その不気味さに気付き、まるで凶悪な犯罪者を見るような冷たい目で、言葉を吐き捨てる。


「……ああ、お前は、それほどまでの罪を背負って尚、生きようというのですね。なんと傲慢な」


「――――生憎、意地汚く生きろ、というのが僕の定められた運命でして」


 そう言って肉塊――否、『加護』の力を全開に、人の形を取り戻したアルファは、口に溜まった血を吐きながら、立ち上がる。

 バクバクと五月蝿く鼓動する心臓を押さえつけ、荒くなった呼吸を無理矢理落ち着かせていく。

 

「……例え、剣が振れなくとも、どれ程相手が強大でも、戦意だけは折るな」


「ああ、ほんとうに、おろかです。まったく、はんせいのいろすら、まるでみえてこない。それに……」


 己に言い聞かせるように呟いたアルファの後ろには、守るべき存在がいる。

 守れなかった存在も。しかし、まだ幸い息はある。

 ベータの特異な魔力量で、治癒魔法を施し続ければ、一命は取り留められるはず。

 ならば、この戦いはアルファの得意分野である『時間稼ぎ』で――、


「……りゅうが、とびました。とあるおとこ、ちからをつかわなかったんです。なんて、うそですよ。かみをこえたひと、あつまった。だから、あたし、かえります。なんてね、じょうだんです」


「…………」


「なんて、それもうそです。いやいや、これもうそかもね。ふふ、いってみただけ。あれ? じゃあ、いまのもうそ? あれ? あれれ? うそが、うそで、うそが、うそで、うそで、うそで、うそで、うそで、うそです? どれがほんとう?」


「……ベータ」


「おにいちゃ……」


「その子を連れて逃げて……というのは無理な話か。出来るだけ巻き込まれないように離れていて下さい、それで、その子に続けて治癒魔法を」


 ――違う。

 『時間稼ぎ』などでは終われない。

 それだけでは、奥底からフツフツと湧き上がり続ける感情が、晴れてくれない。

 今までに感じたことの無いそれが、どうしてこうも自分を突き動かすのかは分からない。

 が、確かに、その感情――煮え滾る怒りは、今までは負け戦上等だったアルファから、根こそぎ、何かを根幹の部分から掻っ攫っていった。


 ――目に物見せてやらなければ。

 一矢報いなければ、気が済まない。

 

 故に、いつものナヨナヨとした声ではなく、アルファは強く、敵意と覚悟を言葉に乗せる。


「……可愛い妹にも手は出させないし、()()()友人を傷つけたお前を僕は許さない」


 宣戦布告だ。

 

「うそなのか? ちがうよ、でもそれもうそ。じゃあどれがほんとう? 『ほんとう』なんてどこにもないよ。じゃあ、ぜんぶうそ? でもそれなら、うそがうそってことになるよね? ならそれって『ほんとう』だよね? もういいや、きりがないし、いやまって、くんくん、はは……おまえ、ころす」


 更に濃くなる殺気。

 最早、その気配だけで命の一つくらい消せてしまいそうな位の。


 だが、それがなんだっていうんだ。

 殺気が鋭いからなんだ。神を超えたからなんだ。勝ち目が無いから、一体、なんだっていうんだ。


「僕はレイリア軍一番隊所属、アルフレッド・アグラン! どうしてここに【超越者】の一人が居るのかはわかりませんが、ここで、止めます! いえ――」


 ――必ず、やった事への対価は払わせてやる。


「――ここでくたばれ、クソ女!」

 


 これが、彼、アルフレッド・アグランの人生において、一番の汚点となる、惨めで勝負にすらなりやしない、『負け戦』の幕開け。

 同時に、


 後に英雄と呼ばれる少年の物語の、幕開けだった。



 サブタイめちゃんこ悩んだ。ちなみに、この後ライラが駆け付けて、退けることに成功しました。

 でもって、もしかしてこの物語お前が主人公なんか???


 ……冗談です、安心してください。

 次から、満を持して四章に突入ですが、しっかりモノちゃんが主人公します。


 拙い作品ではありますが、これからもどんどん書きますので、よろしくお願い致します!!!


 この物語は基本ハッピーで終わりますので、そこも安心して下さい。バッドエンドは僕が嫌いなので。

 (今章は、必要だったという理由で、特段ハッピーな終わり方にはなりませんでしたが、相当なレアケースですので悪しからず)

 

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