一章第7話 目が覚めたら美少女で最終兵器だったんだけど
「――姐さん! 本っ当に申し訳ありませんでしたァッ!!」
「いや、もうわかったから……耳に悪いんだよお前の声量!」
深夜の騒動から数時間。すっかり朝を迎えた時刻。
モノは集落の長の家に今回の騒動を解決した人物として呼び出されていた。
そんなモノの目の前には、地面に凶悪な顔の額を擦り付けて謝罪する、体格の大きい入れ墨の男。
「ですがァッ! 俺は姐さん含め、集落の奴らにも酷いことをしちまいましたァ!!」
「ほら、ケイ達も別にまだ誰も殺されてなかったし、巻き上げた金品返せば許すって言ってたろ? 所謂、未遂だな、暴力とか脅迫とか盗みとか魔法ブッパなしたりはしたけど……ってやっぱお前結構やってんなぁ!?」
「ヒィッ、おっしゃる通りです!!」
自分が知ってるだけの犯罪を並べてみてもこの数だ。こいつ相当やってやがる。
数時間前に、モノに散々、制裁という名の拳を喰らった後、説教まで食らったからかモノを目の前にビクビクと身体を震わせるヴァガラ。
「とはいえ、一番驚いたのはお前がこの集落生まれだった事だな。グレただけでそんなんなるか? 普通」
てっきりモノは突然やってきたこいつらが、集落を乗っ取ったパターンかと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。この男、まさかの生まれも故郷もこの集落内、ジモティーだったわけだ。
実際、ケイ達に許しを貰えたのは、同じ集落の仲間のよしみって事だった。もちろん、納得してない人も大勢居たが、一番の被害者であるケイがそう言ったため、取り敢えず外見上はそうなった感じだ。
まあ、ここから先、皆の信用を取り戻すのは、こいつの態度次第というわけで。
「うっ、耳が痛いっす! でも俺、姐さんの拳で目が覚めましたァ! 叱られながら何発も何発も激しく殴られて、途中で気持ちよくゥ……あァ、いや俺が間違ってたって気づいたぜェ!!」
「それ誤魔化せてねえし、聞き逃さねえからな!?」
何を思い出したのか、頬を赤らめる上半身裸の男。
前述の通り、モノによるヴァガラに対する熱狂的な説教タイムがあった訳だが、どうやらその道中、この男、美少女に罵られながら殴られて喜ぶという特殊性癖に目覚めてしまったらしい。
もはや本当に変態だ。まるで言い逃れできない。
「まあ今でも十分最低な野郎だけど、お前まだ人殺してなくて良かったな。もし本当に殺してたら、こうは上手くいってねえぞ」
「それもおっしゃる通りで……姐さんが俺の暴走を止めてくれたおかげですァ! それと、今のセリフの最初の方もう一回お願いしてもいいですかァ!?」
「この最低、変態、鬼畜ドM野郎が! 自分の行動振り返って惨めになってさっさと死にやがれ!!」
「ありがとうございますッ!!!!」
こいつさては、しおらしくなる前より、厄介になったのではなかろうか。暴言を吐かれて、興奮しながら全身全霊で感謝の言葉を叫ぶとか、完全にヤバいやつのそれである。
まあ、そこでノッてやるモノもモノなのだが。
「あの暴れ小僧を、ここまで更生してくれるとは……まだ若いのに大したものじゃ、改めて、ありがとう」
一連のやかましい流れを見て何を思ったのか、集落の長という立場の、腰の曲がった老人が改まってモノに感謝を述べる。
だが、礼を言われた当のモノは、なんとも言えない表情で、
「これ、実際、更生って言えるのか怪しいけどな。より変態方面に振り切っただけじゃ……」
「ありがとうございますッ!!!」
「お前めんどくせえな!?」
少し会話の途中で『変態』と言っただけで、随時反応されると、いちいち話の腰を折られてめんどくさい。その『お前めんどくさい』という言葉にも反応して惚けているので、本当にどうしようもない。
発症初日にして、もう末期である。
それでも、数時間前に比べたら手のひらを百八十度回転させたみたいに、扱いやすくはなっているので、そう考えれば更生とも言えなくは――いや、やっぱり言えない、完全に調教の類のものだ。
「けどこれってやっぱり、どんなに悪い奴でも話せば分かるってことだよな!」
「――モノちゃんって、たまに変なところでとんでもなく純粋だよね……」
純真すぎる理由で右手を使ってガッツポーズを作るモノに、丁度やってきた茶髪に黄緑色の瞳の優しい印象を受ける青年――ケイが思わず突っ込む。
「ケイの兄貴ィ!」
「ケイ! もう動いて大丈夫なのか? 結構派手にやられてたけど……あと幼女はどうした?」
記憶に寄れば、相当ボロボロになるまで殴る蹴るをされていたはずだ。
今だって、包帯で身体のあちこちがぐるぐると巻かれているのに動いても大丈夫なのだろうか。
まあ、同じく、いやそれ以上にモノによって痛めつけられたヴァガラはピンピンしてる訳だが。
そんなモノの心配の声にケイは首を横に振り、
「ああいや、まだ痛むけど、もう君が行ってしまうって聞いて居ても立ってもいられなくなってね。エルは今疲れて寝ているよ」
「なんか悪いな、無理させちゃったみたいで……」
「そんな! むしろお礼を言わせて欲しい。……僕とエルと集落の皆を救ってくれて、ありがとう」
まだ痛むだろう身体で頭を下げるケイ。そんなケイに、モノは頷きつつも、訝しげな表情を浮かべて、
「どういたしましてっつっても、正直、私にも何が何だか。……本当に一体どうなってるんだろうなこの身体」
「そう言えばモノちゃんは自分がどうやってここまで来たか覚えてないんだっけ?」
「そうだな、ちょっとズレてるけど、その認識で間違いない……ああ! そうだ、さっき皆にも同じ質問をしたんだけど、二人にも聞きたいんだが、いいか?」
「もちろんだ、なんでも聞いてくれ」
絨毯に胡座をかいて座りながら、ヴァガラの土下座を見ていたモノ。ケイはそのモノの隣に、怪我が痛まないように気をつけながら座る。
各々が話し合う状態を整えたところで、改めて、モノは二人にある質問をする。
「――二人とも、ウェルトっていう村を知ってるか?」
ウェルト、それはモノが一度少年アインとして終わりを迎えるまで、暮らしていた村の名前だ。『魔力無し』で『落ちこぼれ』という理不尽な理由で、村からあまり離れることを許されなかったモノは、外をよく知らず、自分の住んでいた村とその付近の地名しか知らない。
なので、こう聞くしかないのだが、モノの質問にケイとヴァガラは顔を見合わせて、それから首を傾げ、
「姐さんすまねェ、そんな村の名前、俺は聞いたことねェな」
「ウェルト……ごめん、僕も知らないな。それがモノちゃんが住んでた村なのかい?」
「ああ、私がここに来る前に住んでた。けどやっぱ、二人も知らないのか……」
この集落で一番、学がいいという長も知らないと言っていたし、こうなると最早、手がかりゼロだ。
ここを旅立つ前に情報の一つは欲しかったところだが、仕方がない。
そう、モノはもうすぐこの集落を出て、隣の割と大きいという『アゼルダ』という街へと旅立つつもりだった。世話になったこの集落に居座ってもいいとも思ったのだが、やはりモノとしては妹の事が気になってしまい、旅立つことを決意した。
何故、自分を殺したのか。自分を殺したあと、一体どうなったのか。その答えを知るにはやはり、自分の住んでいた村に辿り着かなければならず――、
「まあ、とにもかくにも二人ともありがとう。んでもって、長からお礼とかいって金も貰ったし、『アゼルダ』だっけ? 確かそういう名前の隣街まで、馬車も速攻で手配してもらったわけだが」
「その話なんだけど、本当にもう行くのかい? もう少しゆっくりしていってもいいのに」
「いいや、これ以上、世話になるわけにもいかない。お礼ならもう十分貰ったしな。確かにこんな可愛い美少女が旅立つって聞いて寂しい気持ちもわからなくは無いけど」
「姐さん、そりゃ俺から見たら世界一可愛いけどよォ、それ普通、自分で言うかァ?」
すっかりナルシズムになってしまったモノの発言に苦笑するヴァガラ。とはいえ苦笑しながらも世界一可愛いなどとは嬉しいことを言ってくれる。
それはさておき、モノは何を隠そう、張り切ってしまった長からちょっとした謝礼金を貰った上に、もう既に次の街への移動手段まで確保してもらっていた。
もう好きなタイミングでこの集落から出発できるようになっているこの状況の中、モノは直ぐにでも旅立つことを選んだのだ。
「そうかい……寂しいけど旅立ちを決意した恩人をいつまでも引き止めておくのも、逆に失礼な話だからね。僕はこのまま大人しく見送ることにするよ。ヴァガラ、君もそれでいいだろう?」
「あァ、俺はケイの兄貴と姐さんに従うぜェ」
モノの決意に満ちた表情を見て、寂しそうにしながらも顔を横に振って、踏ん切りをつけたのか納得した顔つきになるケイ。
それに続いてヴァガラも同じく肯定の意を示す。
モノはそんな二人の反応を見てから、立ち上がり、
「よし、じゃあ馬車の所まで行くか」
長の家を後にした。
※※※※※※※※※※
「――おお、これが馬車か」
「しかもこれ結構いい馬車だよ、村長、相当奮発したみたいだね……って、もしかして馬車を見た事無いのかい?」
「うん。本で見たり、聞いたぐらいで実物を見るのはこれが初めてだ。……あ、中が意外と広い! すげえ!」
「ますますモノちゃんが今までどんな生活してたのか気になってきたよ……」
割と移動手段としてオーソドックスな馬車を知らないとなると、今までどうしてきたのかが気になるケイ。
突然現れたこの素性不明の見た目麗しい少女は、ケイから見て、本当に不思議な人物だった。
十三歳くらいの見た目の年齢に反して、少々大人びている部分があり、かといってこうやってふと時折、子供のような無邪気な様子を見せるので、そのギャップに驚く。
それに加えて、知識が偏っていたり、たまに箱入り娘かと思うくらいに世間知らずで、何者にも染まらない白く純粋な思考回路をしている時もあるのだ。
不安定で、それでいて強く美しい少女。
だからこそこうやって、ケイも彼女に心惹かれているのだが。
否、ケイだけでは無い。先の夜、あの場にいた全員が、性別年齢問わずこの少女に心を奪われた。
尋常じゃない外見の良さだけでは無い。この少女には人を惹きつけてやまない、何かがあった。その何かを具体的に言葉にするのは難しいように思えるが。
「――準備出来ました。お客様、いつでも出発できます」
ケイを含め見送りに来た人全員が、馬車を前に目を輝かせるモノの姿を微笑ましく見ていると、やがて、馬車を操縦する馭者が、出発の準備が整ったことを告げた。
「わかった」
馭者に短く答えたモノは、見送りに来ていたケイ、ヴァガラ、集落に住む人達を向いて笑顔を見せ、
「じゃあ行ってく……」
「――――お姉ちゃーん!!!」
「……そういえばもう一人いたな五月蝿いやつ」
別れの挨拶をしようとした時に、突如、聞き覚えのある声が響く。
モノはやかましくこちらに走ってくる小さなシルエットを見て、苦笑しながらも受け止め。
「おう、どうした幼女」
「これ!!!」
「これ……って、ペンダントか?」
「うん! お守り!!」
凄い勢いでモノの手に幼女――エルが握らせてくるのは、月を模した銀色のペンダント。エル曰く、『お守り』らしいが、
「これ貰っていいのか? 見るからに大事なものなんじゃ」
「うん、けどいーの!! お兄ちゃんとエルを助けてくれてありがとー!」
「はは、どういたしまして」
うん、やっぱりこの幼女には昨晩のような泣き顔じゃなくて、今のような満面の笑みの方が似合う。それだけでも、色々と分からないなりに頑張った甲斐があったという訳だ。
「改めて、僕達からも礼を言わせてくれ。本当にありがとう。じゃあ気をつけて」
「姐さん、お世話になりましたァッッ!! 俺、このご恩、忘れませんッ!!」
「相っ変わらず、うるせえな! そんな大声じゃなくても聞こえとるわ!! …………じゃあ、行ってくる」
これで別れの挨拶を一通り終えたので、モノは馬車に乗り込む。
モノが乗り込んだことを確認して、馭者は馬を走らせ始め、馬車はゆっくりと動き出す。
それから少し間を空けて、
「いってらっしゃい!!」
と、大勢の声が響くので、モノは窓から身を乗り出し、
「――いってきます!!」
と、手を振るのだった。
ということで、一章はモノが美少女になって力に目覚めるといった感じで終わりです(次回は幕間)。
まだまだ全然、これからですね。というかチュートリアルすら終わってないです。
二章からは、この作品の紹介文に書いてある通り、モノの身を様々な『異常現象』が襲います。
物語の舞台もとある小さな集落から、隣街『アゼルダ』へと一気に広がり、あんなキャラやこんなキャラもどんどん増えていき絡まっていきます。
そして、新たな敵に、謎、謎、謎。
モノちゃんのよりかっこよくて可愛い姿、目まぐるしく動く展開をご期待あれ。