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三章第37話 消滅の閃光




「――なるほど、それでエリュテイアがここに居るわけか」


「ええ、その後『支配者』は発言通り、直ぐに帰ったわ。しっかり、竜も解放してね。ほんとに何考えてるか解らない奴だったわね」


 ――『支配者』と『尋問者』の出現。

 モノはエリュテイアから、自分が『突発的テレポーテーション』によって飛ばされた後の、王城での出来事を知り、頷く。

 特に『支配者』に関しては、モノにとってどうも心当たりがあり過ぎる。主には三日目の記憶に。

 そんなこんなで『支配者』の行動といい、『超越者』関連には色々と謎も多いが――、


「アルファの奴……『加護者』だったのか。確かに、異常な身体の丈夫さだったけどな、私の丈夫さとはまた違うパターンの」


「むしろ、お二人共知らなかったんですか? この王都で『超越者候補』と呼ばれる方といえば、クリスタ様とアルフレッドさんの二人ですよ。そこそこ、有名だった筈なのですが」


「全く知らなかった……アルファはともかく、クリスタがその『候補者』とやらっつうのも知らなかった……」


 『候補者』云々よりかは、そもそも『加護者』だと言うことすらモノは気付いていなかった。

 しかし、これで合点がいく。アゼルダの事件で、オリバーの手によって瀕死の状態まで追い込まれていたのに、次の日には問題なく動けていたのも、恐らくその『加護』の力のお陰ということだ。

 確か、本人曰く、『身体のつくりが普通とは違う』だったか。


「なんなら、アルファが凍ってないって時点で割と驚きなんだけど、その上、加護者で、『超越者』の一人――『尋問者』と遭遇してて……? あいつなんか、常に修羅場ってないか?」


「それはあなたもでしょう、モノ」


「ぐっ、反論できねえ。しっかし、まあ、アルファの方にはライラが向かったんだよな?」


 いつも事件に巻き込まれているのは、モノも同じだというエリュテイアの鋭いツッコミに、何も言い返せないのが非常に残念。

 出来れば、もう少し『運命』とやらに優しくして欲しい、とはモノが常々願っていることである。


 さて置き、モノは『尋問者』と遭遇しているというアルファの所にライラが向かった、という状況の確認をエリュテイアへ。

 それに彼女は、短く頷いて、


「ええ、一応は」


「なら、もうそっちは任せるしかない、か。……と、言う訳で、だ。結局、私たちのやることは変わらねえな。クリスタを止めて、目を覚まさせて、皆で乗り越える」


 今からモノがアルファの所へと向かった所で、何一つ事態が好転するとは思えない。

 かえってライラの邪魔になりかねないし、その内に、『神』が降臨してジ・エンドだ。

 まあつまりは、モノ達の使命はクリスタを止めることで変化無しだ。


「その為には、『聖遺物』を壊すのが一番手っ取り早いんだが――」


 思い出すのは、氷塔に存在している、あの蒼白い箱――『浄化』の『聖遺物』。

 『聖遺物』は神との繋がりを強める物体だ。ならば、それさえ破壊すれば、解決できる筈で――。


 そうやって、モノが氷塔の雲で隠れた上部を、見上げた、その時だった。



『――キエサレ』



 ――何処からか声のような音が聴こえた。


「……! 姫、伏せて下さい!! ――『冷却(クールダウン)』!!」


 ()()にいち早く反応したのはアズラク。彼は、咄嗟の判断で、モノとエリュテイアを庇うように前へ。

 同時に、『青』の能力を解放し、冷却フィールドを自分の身体を中心に作り出す。

 次の瞬間、その時間速度の壁に突き刺さるのは、()()()()()()()()()()()で。


 アズラクは突如迫ったその脅威に、氷剣を生成。

 減速した閃光をどうにか相殺しようと、構え、振り下ろす。

 が、相手は光だ、実体が無い。

 故に、振り下ろされた氷剣は、みるみるうちに眩い光に、取り込まれ、そして、


 ――――消えた。


 跡形もなく、その刀身は消滅した。


「な……氷剣が……!? くっ、お二人共、右に回避して下さい!」


「あ、ああ!」「わかったわ!」


「いきますよ、三、二、一!」


 目の前で起きた、様々な法則を無視した現象に、アズラクは驚く、が、それも一瞬。

 打ち返せないと悟ったアズラクは、直ぐに背後のモノとエリュテイアへ回避の指示を出す。

 指示を受けた二人は、素直に右に跳ね、閃光の通り道からズレる。


 三秒間のカウントダウン。アズラクはモノとエリュテイアが後ろに居ないことを確認すると、二人に続くようにして、右へ。

 アズラクが移動したことにより、必然的に減速フィールドの範囲内から外れた閃光は、先程まで三人がいた位置を、瞬時に、真っ直ぐ飲み込んでいって――、

 

 そのあまりの眩さに、閉じた瞳。

 暫くして、瞼の裏から光が止んだのを感じ取り、モノが再び眼を開けると、視界に飛び込んでくるのは衝撃の光景。


「なんだよ、これ……!?」


 ――皮肉な程に綺麗に抉れた地面。

 光の通り道には何も残っていない。

 『破壊竜』ライラの、あの乱暴な一撃とは違う。

 ライラの場合、ぐちゃぐちゃに巻き上がったり、形が崩れたり、分解されたりするが、その質量は変わらない。

 が、この光は、質量をごっそりと。

 まるで、そこには最初から雪が、土が、無かったかのように、滑らかに切り取られていた。


 モノ達は目の前に広がる惨状に、反射的に、その光がやって来た方向へと、顔を向ける。

 すると、そこには、モノとアズラクには見覚えのある、エリュテイアは初対面の()()()()()()()が一人。


「――クリ、スタ……?」


「……フフ、フフフ。やっと、やっとだ。やっと、降り立つ事が出来た。地に足が付く感覚とは、これか。それに、『冷たい』。なかなか、面白いじゃないか」


 クリスタ・チューン。

 水色のショートヘアに、同じく水色の瞳。身体のラインがよく分かる、白くピタッとした生地の上下が繋がった独特な服を身に纏う、その少女の名だ。

 アズラクの本当の主であり、今回の事件の首謀者。


 だが、モノは一瞬だけ少女を見て、本物かどうかを疑った。疑わずには居られなかった。

 彼女に漂う雰囲気が、モノの知っているそれとはかけ離れていたからだ。

 何処か儚げで優しいイメージを受けた、以前のものではなく、今はとにかく危うげで、人間ぽさが抜け落ちている。


 それは、アズラクもやはり感じ取ったようで、


「……違う、見た目はクリスタ様だが、中身が全く……貴様、何者だ!」


 怒りの混じった声で叫んだアズラク。

 その声に反応して、こちらを向いた少女の表情を見て、モノは息を呑む。

 ――目が死んでいた。

 モノはそこで、確信する。間違いない、あそこに居るのは『クリスタ』ではない。

 人智を超えた存在、そう――『神』だ、と。


「『クリスタ』……ああ、この()の名か。素晴らしい、よく馴染む良い身体だ。初めてだよ、こんなにも、現界していられるのは。……だが――」


「……!?」


 器、と言ってクリスタの皮を被った化け物が、突如、視線を伏せた。

 それに誘導されるように、モノ達も、少女の右手へと注意を向けると、


 ――ボロリ。


 そう、幻聴が聴こえた気がした。

 なんということだろう、少女の指先が、まるで古びた石像のように、朽ち、欠け落ちていっているではないか。


「――どうやら、この器でもそう長くは持たないらしい」


 自分の身体が崩れていっているという、常人なら発狂してしまうような状態を見て、淡々と述べる少女。

 その精神が成立するのは何故か。

 答えは簡単、自分の身体では無いからで。


「貴様ッ!! 直ぐに、クリスタ様の身体から出ていけ!!」


「こうして『キャンバス』の地を踏めたというのに、出ていくものか。折角、目の前に噂の『色』の()()が三つも転がっていることだ、試し撃ちには丁度いい」


 アズラクの威嚇をものともせず、品定めするような目付きで、アズラク、エリュテイア、モノの三人を順に見たクリスタ。

 同タイミング、膨れ上がる異様なエネルギーに、全員が、身構えた。


 身構えて、モノ達は芯から戦慄し、震え上がった。


 ――居ない。消えた。


 先程まで少女が立っていた位置に、少女の姿が無い。有るのは、少しの雪煙だけで――。


「……さあ、人間にすら成りきれなかった、玩具らよ。お前達が、本当に我々の脅威に成り得るか、試させて貰おうか。まずは一個――『キエサレ』」


「……っ!? いつの間にうしろ――」


 直後、声が聞こえたのはモノのすぐ後ろ。

 恐怖に引っ張られるようにして、モノは瞬間、振り返り、距離を取る為に地面を蹴って――、


 刹那、少女の身体を中心に、先程と同じ、眩い閃光が放たれた。


「――――ぁ?」


 今度は一直線ではなく、球状に拡大した光。

 モノは地面を蹴ってはいたものの、回避には至らず――。


「ぐぅあっ!? あがぁぁぁああう!?!?」


「モノ!!」「姫!?」


 左の肩に迸った、熱に焼かれたような激痛。

 何が起こったのかは、解らない。思考は痛みに阻まれ、喉が勝手に絶叫を上げる。

 どうしてか、左右で重さが変わった身体は、そのせいでバランスを崩し、白雪へと蹲るような形で右へと倒れ込む。

 どくどくどくどく、温かく脈打つ何かが、左肩から溢れる感触と、耐え難い喪失感。

 ――――痛い。いたいいたいいたいいたい。


 チカチカとフラッシュする視界。

 それでも、目線はその痛みを発する部位へと引き寄せられて――、


「がぅああぁぁあああっ!!」


「ほう、よく()()()()()()()()ものだ。なるほど、確かに『最終兵器』と豪語するだけはある」


 ――光に呑まれた左の肩から下、腕全体の消滅。

 

 耐え難い痛みに悶え苦しみ、痙攣するモノを見下ろしてクリスタは無表情のまま何やら呟く。

 それから、先程よりも大きく崩れた自分の身体、否、器の状態を見て、


「……うん? ああ、今のだけでこの有り様、結局この器も駄目か、また他の器を探さねばな」


「くそ、止めろッ! それ以上、姫も、クリスタ様の身体も、傷つけるなァッ!!」


「まだまだ始まったばかりだが、どうせ、時間制限付きだ。『最終兵器(アルマフィネイル)』……せいぜい楽しませてくれよ?」



 その時、少女は初めて――笑った。




 ちょっと明日明後日と忙しく、更新厳しめなので、明明後日の更新をお待ち下さい。

 そこを乗り切れば、またいつも通りのペースで更新できると思いますので、なにとぞ……!!


【追記】


 絶賛体調不良です。

 早いとこ更新できるように心がけますが、どうなるかはぶっちゃけ今後の体調によります。

 ご心配をお掛けして、すみません。

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